山下(Seamless)

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イスラエル工科大学などに所属する研究者らが発表したプレプリント論文「About Time: Observation of Time-Reflection at Optical Frequencies」は、物質の性質が瞬時に変化するときに波が逆行する「時間反射」という現象が、光の領域において世界で初めて実験で確認されたとする研究報告だ。

「時間の境目」で起こる反射

普段目にする光の反射は、鏡などで跳ね返る現象である。光が鏡という「場所の境目」に当たることで、一部は反射し、一部は屈折するという2つに分裂する。このとき、色(波長)は変わらない。

一方で時間反射は、光が物質の中を進んでいる最中に「時間の境目」、つまり物質の性質の急激な変化に遭遇することで起こる反射である。このとき光は、色を変えながらそのまま進み続ける波と、ビデオの逆再生のように来た道を引き返していく時間反射波との2つに分裂する。

時間反射は、これまで水面の波や音波、マイクロ波などでは観測されてきたが、光の波は振動するスピードがあまりにも速いため、その観測は不可能とされてきた。光の時間反射を起こすには、光が1回振動するよりも短い時間、すなわち数フェムト秒で物質の屈折率を大きく変化させる必要があったからである。

理論上のものだった「光の時間反射」だが

今回研究チームは、実験において、屈折率の変化しやすい透明で導電性な薄膜(インジウムドープ酸化カドミウム、Indium doped CdO)を舞台に用い、薄膜内を観測用の赤外線が進んでいる最中に、極めて短く強力なレーザーを撃ち込む手法を取ったという。これにより薄膜の屈折率が一瞬で大きく変化し、その中を進んでいた光に時間反射を発生させることに成功したと報告している。

▲時間反射の実験セットアップ全体図(論文よりスクリーンショット)

研究チームによると、実験結果から、観測された光が間違いなく時間反射であることを裏付ける5つの特徴が確認された。

第1に、反射した光が入射した時の軌跡を正確に逆戻りしたこと。第2に、普通の鏡の反射では光の回転方向(円偏光)が反転してしまうのに対し、時間反射波は元の回転方向を保ったまま逆行したこと。

第3に、物質の性質が急変しているほんのわずかな一瞬にしかこの現象が起きなかったこと。第4に、物質を変化させるスピードを意図的に遅くしていくと、反射のパワーが理論通りに指数関数的に弱まったこと。第5に、反射した光の波長(色)が変化したこと。これらすべての証拠により、これまで理論上の存在でしかなかった光の時間反射が、現実の現象として観測されたとしている。

Source and Image Credits: Segal, O., Konforty, N., Schiller, O., Tolchin, M. J., Yasniger, T., Birk, M., Palatnik, A., Saha, S., Sidorenko, P., Maria, J.-P., Plotnik, Y., & Segev, M. (2026). About time: Observation of time-reflection at optical frequencies (arXiv:2605.15632). arXiv. https://arxiv.org/abs/2605.15632