ピットデザイン株式会社
代表取締役会長
池末 浩規
1984年に東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーやモニター・グループ等でコンサルタントとして活動。大阪府や大阪市等の特別参与や行政アドバイザーを歴任し、2014年9月にピットデザイン株式会社の代表取締役社長に就任。2025年3月より代表取締役会長を務める。
執行役員 開発本部長
池田 哲也
1993年に東京大学大学院理学系研究科を修了後、株式会社リコーに入社。同社にてSDC日本開発センター所長などを経て、2025年2月より現職。システム開発部門を統括し、認識率の向上や、エッジデバイスとクラウドを連携させたアーキテクチャの最適化など、スマートパークを支える技術基盤の開発・運用を指揮する。
ゲートもロック板もない駐車場が、なぜ乗り逃げされないのか?
近年、スーパーマーケットをはじめとする商業施設やコインパーキングなどで、「利用が有料なのに、出入り口のゲートや車室のロック板(フラップ板)が設置されていない駐車場」が増えています。
こうしたゲートレス駐車場システムを「スマートパーク」として自社開発し、2015年ごろから様々な施設に提供しているのは、ピットデザイン株式会社(東京都千代田区)。このシステムはイオン系列の店舗をはじめ、全国約800か所の施設で導入されています。
利用者が料金を支払わずに去ってしまう「乗り逃げ」率について、「0.01%」という数字を掲げる同社。曰く、一般的なフラップ板式の駐車場でも、車両が無理やりロックを抜けていくなどの乗り逃げ事案が約0.5%あり、そうした仕組みよりも乗り逃げ率が低いのだそう。
なぜ、乗り逃げされないのか? 駐車場からゲートやロック板をなくそうとすると、開発現場では一体どのような仕組みづくりや工夫が必要になるのか? そのカギは、「ナンバー認識率99.99%以上」という、画像解析技術。同社で会長を務め事業をけん引してきた池末浩規さんと、同社開発本部長の池田哲也さんに話をお聞きしました。
物理的抑止力なし。「乗り逃げ4類型」をいかに防ぐか
――いきなりですが、ゲートやロック板といった物理的な拘束がない状況で、なぜ「乗り逃げ」されないのでしょうか。
池末:結論から言うと、システムによる追跡と、心理的な抑止力を組み合わせているからです。
スマートパークの仕組みについて軽くお話しますと、まず入り口のカメラで車両のナンバーを撮影し、ナンバーの文字や画像のデータを記録しています。
そして利用者は出庫前に、精算機や専用のスマートフォンアプリで自分の「ナンバー4桁」を入力します。そしてモニターに表示された自分の車の画像を確認し、料金を精算すれば完了です。出口でもナンバーを撮影し、精算済みかどうかをシステム上で判定します。
▲精算機のUIのイメージ(画像は公式サイトよりスクリーンショット)
――カメラで利用者のナンバーを認識し、ナンバーをもとに支払いを行うのですね。
池末:その上で、お金を支払わずに出庫する利用者は、4つのパターンに分類できるとみています。
1つ目は、ゲートもロック板もないために「利用は無料」だと思い込んでしまう方。
2つ目は、払うつもりがあっても、うっかり忘れてしまう方。
3つ目は、「軽い悪意」を持った方です。精算機で支払おうと思ったとき、現金を使うつもりだったがたまたま手元に千円札もないことに気がつくなどして、「まあ1回ぐらい払わなくてもいいだろう」とそのまま出庫するようなケースです。
そして4つ目。これは「最初から支払う気がない方」ですね。
物理的なロック機器がない以上、基本的には利用者の皆様の良識に基づく運用となりますが、現実問題として無対策というわけにもいきません。そのため、これらの類型に合わせてアプローチを変えています。
――それぞれのパターンに対して、どのようなアプローチをしているのでしょうか。
池末:1つ目の誤認と、2つ目のうっかりに対しては、現場での、看板設置などによる告知が基本になります。「ナンバープレート4桁を入力して、駐車料金を精算するシステムです」などと掲げた看板を、動線上から見える位置に設置しています。
また、うっかり払い忘れた方に向けては、後から支払えるルートを用意しています。例えば、利用者が「払い忘れたかも」と問い合わせてこられた際に、専用のWebサイトを案内し、そこで自身の車両番号を入力してスマートフォンから未払い分を決済できる仕組みを設けています。
また、リピーターの方であれば、次回入庫時に、精算機で前回の未払い分を合わせて請求するようにしています。
――3つ目の「軽い悪意」を持った人に対してはいかがですか。
池末:こちらの層には、精算機での「見せ方」が一番の抑止力となっています。
スマートパークのシステムでは、利用者が精算機にナンバーを打ち込むと、入庫時に撮影された自分の車のカラー写真全体がきっちりと表示されるようにしています。
ナンバーの数字だけでなく、実際の車の画像を見せることで「確実に記録されている」「見られている」という意識を強く持たせるのです。このように「証拠写真」を見た経験がある場合、軽い気持ちで未払いをするという選択は取りにくくなります。
――自分や車がシステム上に記録されていることを実感すれば、心理的なハードルが上がる、と。
池末:それでも、なお「この駐車場に二度と来なければ、逃げ切れるのでは」と考える方は一定数います。
そこで導入したのが「未払い情報の共有システム」です。
例えばある店舗で未払いとなった車両が、後日、別の系列店舗のスマートパークに入庫した場合。このとき、システムがナンバーを照合し、過去の未払い分もしっかりと合算して請求をかけるようにしているんですね。
特にこのシステムが稼働したことで、乗り逃げ率は劇的に下がりました。「どこへ行っても足がつく、逃げられない」と分かると、きちんとした支払いが行われやすくなるのです。
それでもなお支払おうとしないのが、4つ目の層です。こちらについては、悪質な利用者の車両が入場した瞬間にシステムが検知し、自社のスタッフが現地で声がけを行うなど、直接対応にあたるようにしています。
――お伺いしていると、ナンバー認識システムが大きな生命線となっているのですね。認識率が「99.99%以上」とのことですが、これは文字通り1万台の入出庫に対して読み取れないケースが1回未満に収まっているということでしょうか。
池末:はい。そこが一番こだわった部分ですね。そもそもこの精度を達成できていなければ、この事業自体が成立しなかったかと思います。
天候、影、プレートの曲がり。ナンバー認識を阻むイレギュラー
――そもそも、なぜ駐車場からゲートとロック板をなくそうと考えたのでしょうか。「99.99%以上」のナンバー認識率を達成してまで、この事業を行うことになった経緯を教えてください。
池末:当社はもともと、商業施設等に併設されている駐車場を専門に、「駐車場をどう活用すれば店舗の売上を上げられるか」を提案するソリューション企業でした。
さて、スーパーマーケットなどの施設は、駐車場を有料化しないと無断駐車が横行し、本来の顧客が停められなくなるなどの問題が起きます。
なので、有料化のためにゲート機を設置する事業者がいると。ところが、「ゲートを導入したら、今度は客数が減ってしまった」という相談が、ある日我々に寄せられたんですね。
調査してみると、「入り口で発券機に幅寄せするのが怖い」「精算のため、雨の日なんかに都度窓を開けるのが煩わしい」「出口で渋滞する」といった問題が見えてきました。特に運転に不慣れな層ですと、利用を敬遠しやすくなるわけです。
――ゲートを撤廃しても、設置しても、何かしらデメリットがある。ジレンマですね。
池末:そこで、利用者にストレスを与えずに課金管理ができる仕組みとして、我々が目をつけたのがナンバー認識技術です。
実のところ、駐車場業界では、この技術自体は20年ほど前から存在したのですね。しかし、従来のナンバー認識率はそこまで高くなかった。そのため、読み取りに失敗した時の保険として、この技術を駐車場に導入したとしても、結局はゲートが手放せない状況でした。
そこで我々は「ナンバーの認識率を極限まで高めれば、ゲートを完全に撤廃できるのではないか。やってみよう」と考えたわけです。
ところが、技術的な難易度などから、既存の駐車場機器メーカーに開発を依頼しても断られてしまった。
仕方がないので、組み込み・Web系・アプリエンジニアなどを集め、自社で開発することにしました。
――では、システムの要である「認識率99.99%以上」について聞かせてください。そのような精度を達成するにあたって、どのような苦労がありましたか。
池末:やはり技術的な壁は多く存在しました。まず、屋外の駐車場という環境そのものが影響します。雨や雪、夜間のヘッドライトの白飛びなど、様々な環境ノイズが存在する。
また、利用者の車両状態も一律ではありません。ナンバープレートの枠が太すぎて文字にかかっている車、プレート自体が曲がっている車、さらにはナンバーの横にキャラクターの装飾がついている車など、イレギュラーな要素は数えきれないぐらいあります。
加えて、店舗の構造自体が認識のハードルになることもあります。ロードサイドの店舗などでは、入り口の間口が8メートル近くある駐車場も珍しくありません。車がどこからどういう角度で入ってくるかの予測は困難ですし、単に駐車場内で切り返しをしているだけなのか、それとも入出庫しているのかすら見分けがつかない場合があります。
他にも、「他のトラックの影がかかって車両のナンバーが見えにくい」ケースなど、実際に試験運用をしてみて初めて分かる課題がいくつもありました。
――そうしたイレギュラーな要素に対して、技術的にどう対応しているのでしょうか。
池田:基本的には、得意分野が異なる複数のAIエンジンを組み合わせて総合的に判断させています。何か、魔法のようなアルゴリズムが一つあるわけではありません。半ば「力づく」な改善を繰り返してきました。
現在、全国約800か所のスマートパークでは1日に約100万台の車両が入出庫しており、システムは毎日200万ショットの画像データを処理しています。このデータの中には、今お話したようなエッジケースが無数に含まれています。片っ端からこうした誤認識の事象を収集し、システムを修正して精度を上げていくサイクルをとにかく回し続けました。
――800か所のカメラ映像を処理するとなると、インフラ側の負荷も相当なものになりそうです。
池田:はい。すべての映像をクラウドに送って処理しようとすると、通信帯域もコストも破綻してしまいます。そのため、現場のPCやカメラなどのエッジデバイスとクラウドとで役割を分担しています。
前提として、屋外のネットワーク環境は、何かあった際に途絶するリスクがあります。インターネットが切断された瞬間に駐車場が機能しなくなる事態は絶対に避けなければなりません。そのため、車両の一次検知や基本的なナンバー認識処理を行うプライマリーAIは、現場のエッジ側で完結するように設計しています。
その上で、エッジ側では判断が難しかった複雑な処理や、複数のAIによる最終的な精度向上を担うセカンダリAIの工程をクラウド側で行うという、補完的なアーキテクチャを組んでいます。
池末:苦労は多かったですが、結果として、当初思い描いていたシステムやユーザー体験はなんとか実現できています。
「窃盗団」対策にお手柄?
――物理的なロックを排除しナンバー認識の仕組みにしたことで、何か副次的な効果はありましたか?
池末:予想以上だったのは、店舗への防犯効果です。商業施設の場合、導入店舗での万引きの被害件数が約2割減ることもありました。
――乗り逃げなら分かるのですが、「万引き」が減った?
池末:これは、大量の商品をねらう窃盗団が来なくなったとみています。
入出庫の記録が写真で残るため、足がつくのを嫌がるんでしょうね。
もうひとつが、入庫渋滞に関連した効果です。もともと、施設を利用したい方々の車両によって生まれる入庫渋滞の改善については、大きな期待をしていました。しかし、実際には駐車場内やその周辺だけでなく、公道側の渋滞まで大きく解消される事例がいくつか出たのです。
ゲート式では出口の精算待ちの車列が場内の通路を塞ぎ、空いている駐車スペースに車が辿り着けないことがあります。その結果、駐車場に入れない車が道路へ溢れて、渋滞につながるケースもみられます。ところが、カメラ式で、ゲートをスルー化して場内の滞留をなくしたことで、道路側で発生していたキロメートル単位の大渋滞が消滅した、と。このような事例を耳にしています。
――それでは今後のシステムの展望や、技術的な目標についてお聞かせください。
池田:認識精度については、99.99%以上という数字に満足せず、もう1桁上の「99.999%以上」の実現を目指しています。技術的には挑戦的な目標ですが、日々上がってくるデータを分析し、見つかった穴を一つずつ潰していくプロセスを今後も継続していきます。また、近年は通信インフラも安定化してきたので、今後はクラウド側にも機能を追加し、システムの自由度をさらに高めるアーキテクチャの進化にも取り組んでいきます。
池末:加えて、カメラによる光学認識の限界を突破するための実証実験も進めています。例えば、大雪によるホワイトアウトなど、物理的にカメラでナンバーが見えない状況はどうしても発生します。そこで、事前に車両のナンバーとETCの情報を紐付けておくことで、大雪でカメラが機能しない日でも、ETCの通信機能を使って確実に入出庫を判定し、課金を行えるという仕組みを構想しています。
これからも「駐車場」という枠にとらわれず、利用者の利便性向上と店舗のビジネスに貢献するため、あらゆる技術を活用して課題に挑戦し続けていきたいと考えています。
取材・執筆:田村 今人
編集:王 雨舟
撮影:赤松 洋太


