

ハックフォープレイ株式会社 代表取締役
寺本 大輝
1994年生まれ。16歳でプログラミングと出会い、その面白さに感動しプログラミングの虜になる。その楽しさを広めるためHackforPlayを開発、CVCK Awardで受賞したことをキッカケに石川県金沢市で起業。NICT起業家甲子園で総務大臣賞受賞、2015年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2026年、AIでアプリを作るオンラインスクールVibesCool(バイブスクール)を立ち上げ。
「バイブコーディング」を広めたAndrej Karpathy氏が、Xへの投稿でこの言葉を使ったのは、2025年2月のこと。さまざまな議論や試行錯誤をへて、「人間は直接実装せず、AIにコードを書かせる」という開発手法は、1年ほどで実際の開発現場でも広く取り入れられるようになりました。
このような急速な変化のなかで影響を受けずにいられないのは、プログラミング教育の分野ではないでしょうか。AIはプログラミングをするハードルを大きく下げた一方で、開発手法も、開発のために求められる知識やスキルも大きく変えてしまいました。
AI以後、プログラミング教育は絶対に変わらなければならない――こう語るのは、寺本大輝さん。プログラミング学習サービス「HackforPlay」の開発・運営、CoderDojo Kanazawaの立ち上げなど、長年プログラミング教育に携わってきたエンジニアです。
寺本さんはAI以後のプログラミング教育のあり方について数年来悩み続け、2026年4月、ようやくその構想をかたちにしたオンラインスクール「VibesCool」(バイブスクール)を立ち上げました。
vibescool.jpChatGPTの衝撃から3年ちょっと。
— 寺本.hackforplay(); (@teramotodaiki) 2026年2月20日
プログラミング教育を10年やってきた身として、これからプログラミング教育がどうあるべきか、ずっと考え続けてきました。
今日、 #VibesCool を立ち上げました。
"プログラミング"は学びません。
自分のアプリが作れるのって、実はめっちゃ楽しいんです。 pic.twitter.com/Ocd5w4BoV5
VibesCoolでは近年の開発環境の変化を踏まえ、AIツールの活用を前提としているため、従来のプログラミングスクールとは学習内容や学習目的が大きく異なります。「コードを読み書きできるようになること」でも「仕事につながるスキルを得ること」でもなく、「エンジニアではない人が、“自分のためのアプリ”を自分でつくれるようになり、生活を豊かにすること」を目指しているといいます。
「バイブコーディングによって、ソフトウェア開発の民主化が起こる」という可能性については近年さまざまなかたちで語られてきました。しかし、なぜ今、寺本さんは「自分のために、自分でつくる」ことを前提としたスクールを立ち上げたのでしょうか。
取材すると、そこにはAIの進化と向き合ってきた寺本さんの時代観と、「プログラミング学習でもっとも大事なのは、楽しさだ」という教育観がありました。
プログラミング教育でもAI活用を前提とした"開発スキルの再定義"
――寺本さんはHackforPlay、CoderDojoなどを通じて、プログラミング教育に関わり続けてきました。その理由はなんでしょうか?
寺本:「自分ができること」を考えたときに、誰かの人生を変えることがもっともレバレッジが効くと思っていたからです。
エンジニアとして良いものを作りたいという気持ちはもちろんあります。でも同時に、自分ひとりが直接生み出せる価値には限りがあるとも感じていました。
プログラミング教育に関わると、自分を通じてプログラミングを学んだ他の人たちが良いものをつくってくれる可能性があります。そうすると間接的に、自分が生み出せる価値の総量が大きく増えます。
そういう思いで取り組んできたのですが、2023年ごろから生成AIの登場によって「プログラミング教育のあり方はこのままでいいのだろうか」という疑問を覚えるようになりました。
――2023年というと「すでにChatGPTのようなサービスはあるけれど、AIエージェントによるコーディングの自動化などはまだ実現していない」くらいの時期ですよね。
寺本:そうですね。当時のAIの性能でも、教育分野では人類史上かつてなかったようなインパクトがあると感じていました。
というのも、プログラミング教育には「学べる環境が少なく、住んでいる場所によって受けられる教育に大きな差がある」という課題がありました。
CoderDojo(※)というコミュニティを通じて、日本国内には子どもたちが無料でプログラミングを学べる場所が200箇所以上できていて、これはとても素晴らしいことだと思っています。しかしそれでも、「野球やサッカーが学べる場所」と比べると「プログラミングが学べる場所」はかなり少ないというのが実情です。
ところが、ChatGPTのような生成AIは24時間365日、どこに住んでいても利用できて、しかも、どんな質問を投げても絶対に返してくれるわけです。
※CoderDojo:子どもたちに無料でプログラミングを教えるグローバルな草の根コミュニティ。ボランティアが運営し、世界各地に道場(Dojo)が設けられている。
――AIの登場を、教育という営みを根底から覆すような出来事として捉えていたんですね。
寺本:はい。AI以後のプログラミング教育は絶対に変わらなければならない、と感じました。しかし、具体的にどうしたらいいのかなかなか構想が浮かばないまま、何年もたってしまいました。
私は高専時代に「HackforPlay」という子ども向けのプログラミング学習サービスを開発し、2015年から運営してきたのですが、2023年以降は「プログラミングに興味がある子は、いきなりChatGPTを通じて学ぶのではないか」「ChatGPTがあるいま、このようなサービスは必要なのだろうか」と感じてしまって、なかなか開発が進まない時期が続きましたね。
2026年になってようやく、新しいプログラミング教育の構想がかたちになったものが「VibesCool」なんです。
――何かひらめくきっかけがあったのでしょうか?
寺本:結婚して子どもができ、家族向けのアプリをバイブコーディングでつくったことです。
妻に使ってもらってフィードバックをもらい、私がCodexで実装を進めるというサイクルで「寺本家専用アプリ」を5~6個つくりました。このなかで「“これは自分のためのアプリだ”と考えると、良いものがつくりやすい」ということに気づいたんです。
――なぜでしょうか?
寺本:他の人に使ってもらうことや、サービス化することを前提に開発をする場合、「良いアプリをつくること」とは直接関係なかったり、むしろトレードオフになってしまったりするような実装が求められます。「赤字にならないために、どういうサーバー設計にするか」「他人のデータを預かるうえで求められるセキュリティ対策をどう講じるか」などですね。
しかし、「これは自分のためのアプリだ」と決めてしまえば、そういったことを考慮しなくて済むわけです。
「プロのエンジニアが他人のためにつくるアプリ」よりも「エンジニアではない人が自分のためにつくるアプリ」のほうがその人にとって良いものをつくれる可能性がある。そういった発想から「エンジニアではない人が、自分の生活を豊かにするために、バイブコーディングでアプリ開発をするスクール」という構想が出てきました。
従来のプログラミングスクールの学習目的は多くの場合、エンジニアになることだったり、仕事につながるスキルを身につけることだったり、「誰かのために開発してお金を稼ぐこと」につながっていたと思います。それに対してVibesCoolでは、「自分のためのアプリをつくること」を目指しているわけですね。
――「エンジニアにならない人のためのプログラミング教育」という想定は、ソフトウェア開発の民主化につながるような取り組みのように見えます。しかし、なぜ寺本さんは“今”、VibesCoolを始めようと思ったのでしょうか。
寺本:AIコーディングのためのツールは以前からありましたが、2026年になってようやくエンジニアでない人でも開発しやすい環境が整ったから、というのが理由のひとつです。「ものづくりの面白みを感じながら、やることはAIに任せる」というおいしいとこ取りができる時代になったと思います。
その反面、これから「アプリ開発に人間の創造性が問われず、ものづくりの楽しさを感じにくい時代」がやってくるかもしれない、という思いもあるんですよね。これも、“今”VibesCoolを始めようと思った理由のひとつです。
「コードを読み書きしないプログラミング教育」は何を教えるのか
――「プログラミングを身につけるうえで大事なこと」は何だと思いますか?
寺本:「プログラミング学習はモチベーションがほぼ全て」というのが私の意見です。
私は、未踏ジュニアのメンターをした経験もあります。未踏ジュニアに選ばれるような子たちは大人顔負けの知識や技術力を持っていますが、ほとんどの子は決して特別な才能があるわけでも、特殊な教育を受けてきたわけでもありません。
「プログラミングが楽しいから、いろいろなものをつくり続けてきた。そうしたらいつの間にか、知識や技術が身についていた」ということなのだと思います。自分のプログラミングの学び方を振り返ってみても、そんな感じでしたね。
一般的なプログラミングスクールでは、プログラミングに必要な知識を身に着けてもらうことに重きを置いていて、確かにそのほうが学習効率は高いかもしれません。それに対して「面白くないと学習のモチベーションが保ちにくい」「むしろ楽しむ気持ちがあれば、知識は後からついてくるものだ」というのが私の考え方です。
例えば、私が開発・運営している「HackforPlay」では、小学生の子どもがコードを書かなくても自分のゲームをつくれるようになっています。ものづくりの楽しさを感じてもらうことを入り口にして、その後、他の人がつくったゲームのコードを読んだり、自分でもコードを書いたりするなかでプログラミング学習が進む、という仕掛けになっています。
――「子どもが楽しんでいるうちに、自然とコードに触れるようになる」という感じでしょうか。では、VibesCoolはどんな風にプログラミングを学んでいく想定でしょうか?
寺本:VibesCoolの場合は、想定受講者は大人で、コードを読み書きすることなく開発していくことを想定しています。
使用ツールは、Codexアプリです。実を言うと、VibesCoolを2026年4月に始めたのは、CodexアプリのMac版、Windows版の両方がそろう時期に合わせたもので、「このくらいの時期にはWindows版も出ているだろう」と見切り発車で設定しました。
予想通り、Windows版は3月中にリリースされたのですが、仕様が頻繁に変わるので、そのたびにスライド、動画といった教材を作り直すことになりましたね(笑)。
――なぜそこまでCodexアプリを重視しているのでしょうか? AIコーディング向けのツールは以前からありましたよね。
寺本:そうですね。エンジニアの間で支持されてきた開発向けのAIエージェントツールとしては、Claude CodeのようなCLIツール、CursorのようなIDE統合型ツールが挙げられると思います。
ただ、「より多くの人がソフトウェア開発を楽しめるようになるには違うUIが必要だ」と思っていました。エンジニアではない人にとっては、ターミナルやソースコードが見える環境はハードルが高いかな、と。
また、機能面でも、Codexアプリは優秀だと感じています。私はMac版Codexアプリに触れた日から他のツールを使わなくなりました。
AIコーディングするにしても、コンテキスト量の問題から「人間がタスクを適切に分割して、AIに指示を出さなければならない」という制約が生まれることがありますよね。しかし、Codexは会話履歴を圧縮するコンパクション機能が優秀で、そういった作業が不要になりました。
――Codexアプリの登場によって、コードを意識しなくても開発できる環境が整ったわけですね。それでは、VibesCoolでは何を教えているのでしょうか。
寺本:学習内容は、「セーフティ」「クリエイト」「フィット」という3つのテーマに分けています。
セーフティはセキュリティ対策などの話ですね。
今後のAIの進化を考慮すると、単に「AIを使ってアプリがつくれる」というより「AIに自分のパソコンを預けることで、自動でやってもらえる」という状態に近づいていく。セーフィティという観点では、将来的には「AIには自律判断で動いてもらい、何かトラブルが起きたら対処する」というやり方がスタンダードになると考えています。
トラブル対処のときにもAIの力を借りてよいのですが、人間側にも自分の身を自分で守るための知識が必要です。そこで、データ漏洩、パソコンの乗っ取りといったセキュリティリスクについて教えています。
このような、AI活用とそのリスクのトレードオフの問題は今後、避けて通れないテーマになると思っていて、VibesCoolで最初にパソコンの初期設定を行ってもらう際、受講者の方にこんな話をしています。
「携帯ショップで、店員さんにスマホを渡して初期設定をやってもらうことがありますよね。店員さんがおかしなことをしないと信用しているから、任せられる。今日は、そういう感覚でパソコンの初期設定やソフトウェアのインストールをAIに任せてみましょう。それが未来のパソコンの使い方です」
受講生の方は口をそろえて「AIに任せるのは怖い」と言いますね。
――エンジニアでなくても、やはり怖いんですね。
寺本:素直で正しい感覚だと思います。最初は怖がらなければいけません。
次の「クリエイト」という学習テーマは、「アイデアを形にする」ための方法を学ぶもので、Codexアプリを使って開発を進める手順やコツ、デプロイまでの流れなどを教えています。
ただ外部のデプロイサービスを利用すると、会員登録、課金導線などが複雑で戸惑いやすいので、1コマンドでデプロイできるように独自のプラットフォームを用意しました。
最後の「フィット」は、つくったものを改善していくための学習テーマです。実はここは、これまでのプログラミング学習では見過ごされていた観点なのではないかと思っています。
というのも、エンジニアには「勉強のために試しに開発してみる」という慣習がありましたが、その後、自分でつくったものを使わないことが多かったと思うんですよね。
――技術理解が目的なら、プロダクトを改善していく必要性は弱いですからね。業務的にもPMのような領域に踏み込んでいるように見えますし。
寺本:しかし、それでは「自分にとって良いアプリ」にしていくことはできません。これからは「アプリをつくって終わり」ではなく、その先に進む方法を学んでほしいんです。
「ソフトウェア開発がもっとも楽しい時代」が過ぎ去る前に
――VibesCoolの構想には、寺本さんの「AI以後のソフトウェア開発」に対する考え方が反映されているように見えます。今後、開発現場はどう変わっていくと思いますか?
寺本:開発現場では少人数化が進み、1人のエンジニアが、昔の1チーム分の仕事をこなすようになるのではないでしょうか。アプリ開発では、今後は1人のエンジニアに幅広い能力が求められるようになると思います。
また、そのような環境を実現するうえでは「いかにAIに、しっかりとコンテキストを与えるか」が課題になると考えています。
「人間のコードレビューがいらない開発プロセス」をつくるためにも、「人間同士で時間をかけて話し合うのではなく、AIとの壁打ちでスピーディーに実装方針などを決められる環境」をつくるためにも、自分たちの業務をAIに深く理解してもらうことが必要になるからです。
――そのように変わっていく開発現場で、「ものづくりをする楽しさ」はどう変わるのでしょうか。
寺本:何に楽しさを見出すかで、真逆の時代になりそうですね。
きれいなコードを書くことに楽しさを覚えていた人たちには、辛い時代になるかもしれません。コードのきれいさは事業貢献との関連が見えにくく、以前から「経営の理解が得られない」と言われてきました。
AIによって開発速度が上がると、例えば、コードレビューを行ったことでリリースが十数時間遅れただけでも、「その時間でAIを使って開発していればもっと新機能出せていたはずだ」ということになります。
――スピードが上がった分、遅れに対してシビアになる、と。
寺本:そうですね。今まで以上に「そこに時間を使うのはもったいない」という感覚が強まると思います。
その反面、価値提供に楽しさを覚えるエンジニアにとっては、夢のような環境だと思います。AIを使って開発だけでなく、データ分析も、営業も、ユーザーヒアリングも1人でやってユーザーが求めるプロダクトや機能をバンバンリリースしまくる、なんてことも可能になるかもしれません。
そういった意味では、今後は一番ソフトウェア開発が楽しい時代がやってくると思います。
しかし、これは悲観論になりますが、この「一番ソフトウェア開発が楽しい時代」の次には、「人間の創造性がソフトウェア開発に関与できない時代」が訪れるかもしれません。
――どういうことでしょうか?
寺本:今は「プログラミングはAIにやらせた方が早くて正確。しかし、ユーザーが求めるものをつくること、より良いものをつくることは苦手なので、人間の創造力が求められる」という人間とAIの役割分担がある時代です。
しかし、このようなAIの苦手分野が克服されたらどうなるでしょうか。
例えば、もしも「デザインも企画もヒアリングも、全部AIにやらせた方が早くて正確」という状態になったら、人間はソフトウェア開発の面白みを感じられなくなってしまうかもしれません。
「AIに任せたほうがうまくいくのに、どうしてわざわざ自分でつくるの?」という感覚になってしまうというか。
――そこまでいってしまうと、学習意欲を持つことも難しくなってしまうかもしれませんね。
寺本:VibesCoolというオンラインスクールを“今”始めたのにも、このような背景があります。
2026年4月に立ち上げた理由のひとつは、Codexアプリが利用できるようになったこと。
もうひとつは、繰り返しになりますが「ものづくりの面白みを感じながら、やることはAIに任せる」というおいしいとこ取りができるうちに、楽しさを感じにくい時代がやってくる前に、ソフトウェア開発を学べる場所をつくりたいと思ったのです。
――4月から行われたVibesCool第1期。手応えはいかがでしょうか?
第1期の受講者は32人だったのですが、1か月間で75個のアプリができました。体調管理、仕事や学習のサポート、創作や趣味など、それぞれの生活や関心に根ざしたものが多かったですね。プログラミング経験の有無に関わらず、AIと対話しながら「自分が本当に使うもの」を作っていけるということに、大きな手応えを感じる機会になりました。
7月開講予定の第2期では定員を50人に増枠することが決まっており、現在は6月に行う第2期の説明会や開講のための準備などを進めています。手前味噌ながら、VibesCoolは良いタイミングで立ち上げることができたと思います。
取材・執筆:川島 昌樹
編集:川島 昌樹、田村 今人

