28位と中位グループに下げ止まった日本。IMD国際デジタル競争力ランキングから見えてくる日本ITの弱みと希望は?

2021年11月15日

ITジャーナリスト

牧野 武文(まきの たけふみ)

生活とテクノロジー、ビジネスの関係を考えるITジャーナリスト、中国テックウォッチャー。著書に「Googleの正体」(マイコミ新書)、「任天堂ノスタルジー・横井軍平とその時代」(角川新書)など。

日本のIT分野の競争力は世界からみてどの程度のものなのか。近年、社会のITインフラ整備に関連する問題が続出しており、そのたびに「IT敗戦」、「デジタル敗戦」と、競争力の低下を主張する声が高くなっている。

スイスの国際経営開発研究所(IMD)は毎年、世界主要各国のデジタル競争力を評価しランキングにまとめて発表している。最新の2021年版では日本は昨年から1位後退し28位。全64カ国の中位グループに属しており、アジア圏全体から見た場合、10位圏内のシンガポールや韓国、中国から引き離されている。

ただし、数字はもちろん重要だが見るべきものはそこだけではない。この記事では、IMDのランキングから日本のデジタル競争力の強みと弱みを読み解いていく。

世界ランキング28位 この結果をどう見るべきか

2020年のコロナ禍をきっかけに、接触感染アプリの重なる不具合、持続化給付金申請システムの障害など、日本のITインフラの問題が露見した。このような報道がされる時に、たびたび引き合いに出されるのが、スイスの国際経営開発研究所(International Institute for Management Development、以下IMD)が公表している「IMD World Digital Competitiveness Ranking」(IMD世界デジタル競争力ランキング)だ。最新の2021年版では、日本は64カ国中28位と過去最下位となった

しかしネガティブな情報ばかり集めて、日本のダメさ加減を指摘してもあまり意味はないように思う。このランキングから今後日本のITシーンに活かせる知見も得ていきたい。

幸い、このランキングは、ブロードバンド普及率や科学技術分野への支出など、52の客観的指標を集計、調査し、それを正規化して合計することでランキングを算出している。どのような指標を採用しているかは、報告書本文に詳細な記載がある。各項目ごとに世界の中での順位が記載をされているため、日本の強い分野と弱い分野がわかるようになっている。

▲「知識」「テクノロジー」「将来への準備」の3つの因子に分かれて総合デジタル実力を評価している

これから就職や転職などを考えている方は、この日本の強みと弱みを意識して、強い分野に行って活躍するか、あるいは弱い分野に飛び込んで建て直しに挑戦するかなど、業界選びや企業選びの参考にすることができる。このような観点からも、このデジタル競争力ランキングを詳しくご紹介したい。

アジア圏の躍進に取り残された日本

ランキングを読む前に注意していただきたいのは、この競争力ランキングでは「ブロードバンド普及率」や「技術専門家の人口に占める割合」など、客観的指標を多く採用しているため、人口の少ない国ほど上位になる傾向がある。例えばアジア圏では香港、台湾、シンガポール、欧州では北欧各国が上位にきやすいため、そういった傾向を踏まえて理解する必要がある。

世界の中での順位と言われると漠然としてしまうので、アジア圏各国の順位を抽出し、IMDの公式サイトの掲載データで遡れる2013年からの順位をグラフにしてみた。

▲2013年からのアジア圏各国の順位の推移。アジア圏トップグループは、2017年前後から国際順位を上げている。日本はマレーシアとともに20位圏内に下げ止まっている

アジア圏の状況はシンガポール、香港、台湾、韓国、中国はトップグループが形成されており、日本は明らかにそのトップグループから離れた位置にある。

2013年から2015年頃までは、シンガポールを除けばアジア各国は混戦状態であり、中国はトップグループからだいぶ離れた位置にいた。しかし、2017年頃からアジア各国の競争力が全体的に上昇を始める中、日本は現状維持のままだ。この差が現在の結果となっている。

その理由はひとつに限定することはできないが、最も大きい要因はスマートフォンの活用だといえるだろう。特に中国ではQRコード方式のスマホ決済が一気に普及し現金デジタル化の動きが加速した。それによって、モバイルオーダーや新小売(ニューリテール)といった新しい消費スタイルが次々と生み出され、生活様式が様変わりした。日本は、動画共有やSNSなどをエンターテイメント分野における動きは盛んだったが、ライフスタイルそのものに変革をもたらすような技術運用には遅れているイメージだ。

意外にも研究投資、行政電子化は高得点

続いて、この報告書から日本の強みと弱みを探ってみよう。報告書では、52の指標を3つのカテゴリーに整理されている。「知識」「テクノロジー」「将来への準備」の3つとも、日本は総合順位の28位前後であり、バランスは取れている。

▲報告書では52の指標を3つのカテゴリーにまとめている。各カテゴリーのアジア各国の順位の中で日本は中堅グループ

ただ個々の指標を見てみると、世界トップクラスの項目は多くあり、一方で低い順位の項目も多くある。他国の分布を見ると、「平均的に低いものの少数の指標が高い」「どの指標も中程度」「平均的に高いものの少数の指標が低い」のいずれかのパターンで、日本のように両極端に集中している例は珍しい。

そこで、日本の指標のうち上位5位以内のもの(日本の強み)、下位10位以内のもの(日本の弱み)を抽出してみた。

▲52の指標のうち、世界の上位5位以内に入っている項目、下位10位以内に入っている項目をそれぞれ、日本のITの強み、弱みとして抽出した

表が示すとおり、ロボット関連、高等教育の質において日本が世界トップクラスなのは、多くの方が納得できる結果ではないだろうか。意外なのは「研究開発への支出」「高度技術特許への助成金」も世界トップクラスであることだ。これは世間でよく言われる「日本のITが低迷した理由は政府も企業も研究投資しないから」という話と矛盾している。

日本は全体額としては世界の中でも上位にあるものの、さまざまな分野に資金を均等配分してしまい、選択と集中の投資戦略が弱い。ルーレットのすべての出目にチップを賭けてしまうようなもので、失敗は少ないが、小さな成功しか望めない。

また、「電子行政参加」が第4位というのも意外に思う方もいるかもしれない。同レポートの他項目である「電子政府」も、日本は14位と決して低くない。日本は世界でも自治体の手続きがオンライン化、スマホ化されている割合が高く、市民もよく活用しているほうだ。

この「研究投資」と「電子行政参加」は、世界でもトップクラスの国であるのに、その強みが活かしきれていないのはなんとも残念に思う。

人材・デジタルスキルの「現場」運用がボトルネック

では、弱みのほうはどうだろうか。64カ国中でも最下位なのは「(人材の)国際経験」と「企業の機敏さ」だ。これは多くの方が思い当たることではないだろうか。また、「移民法(の整備)」も下から62位と評価が低い。

さらに、「デジタルスキル(デジタルスキルを持った人材の割合)」、「ビッグデータ解析の利用」も62位、63位と評価が低い。「92カ国をデータで見るITエンジニアレポートvol.1」によると、日本のIT技術者人口は109.0万人と世界で4番目に多いが、人口に占める割合は0.86%となり、調査国70カ国中32位となった。先進国としてはきわめて低い数字だ(最高位はアイスランドの2.00%)。IT人材の不足が囁かれているのはこのデータからもわかるだろう。

「ビッグデータ解析の利用」に関しては、「ビッグデータ解析を意思決定に積極的に活用している」と回答した企業の割合が元になっている。日本は、ビッグデータ解析活用の実証実験は広く行われているものの、実際の仕事現場で活用できているのはまだごく一部。実証実験の段階にとどまってしまい、経営層まで届かず、意思決定に活かされていないということも多いだろう。「データ軽視、技術軽視」と言われる経営陣の意識変革を求めつつ、経営者に活用法や解析結果を提案できる環境の整備を行っていく必要があるのではないだろうか。

レポートの52の指標を読み込んで他国と比較していくと、各国の得意と不得意が見えてきて、いろいろ考えさせられる。日本は技術のハード面において世界トップクラスの実力を持っているにもかかわらず、ビジネスや人材育成の現場への応用が進まない。地力はあるのにそれを上手く活かせていないのが日本のデジタル競争力低迷の理由とも言える。

日本が強い分野に進み、その強みをさらに強くするか、あるいは弱い分野に進み、その弱みを強みに転換するか。例えば、マイナンバーをはじめとする行政の管理システムは、監視社会、プライバシー侵害などの問題が懸念されており、普及に対して否定的な意見を持つ人も多い。個人情報を取り扱う電子政府の推進に伴うセキュリティ人材の需要これからますます増えていくだろう。また、国際経験があり、時代の変化を捉えた事業構築ができる人材は、今後重要になることは間違いない。自分のキャリアを長期の視点に立って戦略的に考えなければならない時代になっている。

関連リンク
『IMD WORLD DIGITAL COMPETITIVENESS RANKING 2021』full ver.

バックナンバー:
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