相手IDやペアリング、外部機器不要。机上のスマートフォン間だけで「その場限り」の無線データ共有を実現【研究紹介】

2021年11月16日

コラム「海外最新IT事情」は、各国のIT情報に詳しいコラムリストの方々が、海の向こうで起きているIT業界の動向を解説します。

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」(https://shiropen.com/)を運営。

ジョージア工科大学とノースイースタン大学の研究チームは、初めて出会った人とデバイス間のペアリングなしにデータ共有が行える、アドホックで高いセキュリティの近距離無線通信システム「Bit Whisperer: Enabling Ad-hoc, Short-range, Walk-Up-and-Share Data Transmissions via Surface-restricted Acoustics」を開発した。机上に置いた2台以上のスマートフォン間で、人に聞こえない音響信号を用いてデータ転送をワイヤレスで行う。そのため、机上のスマートフォンとは通信可能だが、机上に置いていないスマートフォンとは通信されないのが特徴だ。

▲(上図)手前のスマートフォンから同じ机上にあるスマートフォン(緑)には送信されるが、別の机上のスマートフォン(赤)には送信されない;(下図)机などの固体表面上に配置されたデバイスのみが相互に通信でき(a)、固体表面上に配置されていないデバイスとは通信できない(b)

セキュリティなどデータ共有の従来課題を解決

例えば、コーヒーショップで初めて出会った複数の人に対してリンクを共有したい場合、どのように行うだろうか。EメールやLINEで一斉送信はできるが、相手のアドレスやIDを取得するプロセスは面倒。近距離無線通信によるデータ共有も考えられるが、NFC(Near Field Communication)は専用のハードウェアを必要とするし、Bluetoothはペアリング先を選択する必要があるし、間違って他人とペアリングされてしまうリスクもある。このように、従来の共有方法は共有前に手間やコストがかかる。その上、Bluetoothなどのペアリング方式の場合は、脆弱性を悪用したマルウェア感染や個人情報の窃取など、セキュリティ問題も残っている。

本研究ではこれら課題を解決するために、強固なセキュリティでありながらアドホックな近距離無線通信の新しい形態を提案する。チームは、既存のスマートフォンに搭載されるマイクとスピーカーのみで、人には聞こえない音響信号(低振幅・高周波)を送受信するAndroid向けアプリケーションを開発した。ペアリングや外部デバイスを必要としないため、アプリをインストールするだけですぐに使える。使用方法は、自分のスマートフォンと共有したい相手のスマートフォンを同じ机などの固体表面上に置き操作するだけだ。

音響信号を使用するのは、音は距離が長くなればなるほど減衰する性質なため、 近い場所にあるデバイスの方が遠くの場所にあるデバイスよりも多くを取得できる から。また机上に置く理由は、音が空気中に拡散するのではなく、机の表面を伝わ っていくときに音が反射するため、送信デバイスからの音圧を受信デバイスがより 多く取得できるからだ。

このように研究チームは、同じ机上に配置された近くのデバイスのほうが、机上外や遠くのデバイスよりも、音響データの送信の遅延が有意に働くことに着目。この送信遅延の違いが、前方誤り訂正(Forward Error Correction、FEC)と暗号化を適用することで、信頼性の高い安全な通信プロトコルを構築するための基盤となる。

▲(a1)机上に置いた2台のスマートフォン間の音圧(a2)机上外でのスマートフォン間の音圧(b)机上(緑)と机上外(赤)での受信信号のパワースペクトル密度をプロットした図

複数のアプリを実装しデータ共有の精度を実験

本手法を評価するため、受信デバイスにGoogle Pixel 4、送信デバイスにSamsung Galaxy S8を使用し、それぞれがどの位置関係だと送受信が良好かをテストした。実験では、送信デバイスのスピーカーと受信デバイスのマイク間の距離、双方デバイス間の水平方向の角度関係と垂直関係、同じ机上なのか別の机上なのか空中なのかの位置関係などを検証した。

▲(a1)同じ机上に送信デバイスと受信デバイスを配置した実験セットアップ(a2)送信デバイスから受信デバイスへの水平方向の角度変位を表した図(b1)送信デバイスとは別の机上に受信デバイスを配置した実験セットアップ(b2)双方の机上が違う場合の水平方向の角度変位と垂直方向の変位を表した図

その結果、送信デバイスに対して受信デバイスが同じ机上で同じ高さにある場合は、送信デバイスからの距離が1000mm以下、角度の変位が0〜30度だと高い成功率で送受信できるとわかった。一方で、送信デバイスからの距離が1000mm以上、角度の変位が60〜90度の場合は、送受信の成功率が低くなった。また、双方の距離が1000mmで別の机上に受信デバイスがあったり、垂直方向の変位が大きく空中にある場合も送受信の成功率は低かった。別の実験では、ノイズ音がある中でも機能するかをテストし、コーヒーショップの環境音レベルであれば良好に機能することがわかった。

本手法の実用性を実証するために、3つのアプリケーション例を実装した。1つ目は、2人のユーザー間で行う連絡先共有アプリケーション。送信デバイス側が共有ボタンを押すだけで受信デバイス側に連絡先が届くというもの。2つ目は、2人以上のユーザーのグループ間での秘密のグループチャットリンク共有アプリケーション。2台以上の受信デバイスに対してチャット参加を求めるデータを送るというもので、受信デバイス側は参加するかどうかのボタンが表示され選択できる。

▲(上図)本手法を用い、スマートフォン1対1で通信を行っている様子;(下図)1台のスマートフォンから複数台にデータ送信を行っている様子

3つ目は、認証されたデバイスが同じ表面上にいる他のユーザーのロックを解除する連携認証アプリケーション。スマートフォンからタブレット端末のロックを解除できるというもので、個々のデバイスのペアリングを必要とする代わりに、送信デバイスが同じ机上の他のすべてのデバイスに認証要求をブロードキャストする。通信が物理的に机上に限定されるため、机上に対象外のデバイスを置かない限り、要求が傍受される可能性はほとんどないという。

▲同じ机上にある他の端末のロックを解除している様子

Source: UIST ’21: The 34th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology, October 2021, Pages 1345–1357, https://doi.org/10.1145/3472749.3477980

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