昨年からさらに後退。世界第29位、国際デジタル競争力ランキングで見る日本ITの強みと弱み

2022年12月9日

ITジャーナリスト

牧野 武文(まきの たけふみ)

生活とテクノロジー、ビジネスの関係を考えるITジャーナリスト、中国テックウォッチャー。著書に「Googleの正体」(マイコミ新書)、「任天堂ノスタルジー・横井軍平とその時代」(角川新書)など。

スイスの国際経営開発研究所(IMD)は毎年、世界各国のデジタル競争力を評価し、「IMD World Digital Competitiveness Ranking(IMD世界デジタル競争力ランキング)」を発表している。最新の2022年版では日本の地位は29位となり、昨年の28位からさらに順位を1つ下げることになった。

この数年日本と順位争いをしているライバルはマレーシアになっている。シンガポールや香港は言うに及ばず、韓国・中国・台湾にももはや追いつくのが困難なほど距離が開きつつある。

そこで、日本のデジタル競争力のどこに弱みがあり、どこが強いのかを抽出し、韓国・中国・台湾・マレーシアと比較することで、日本のどこが問題なのかをあぶり出した。

他国に大きく水をあけられる日本のIT技術力

日本のデジタル競争力は下降を続けているが、朗報もある。昨年のレポートではマレーシアに抜かれたが、今年は日本が巻き返し、マレーシアは2つ下の31位となった。

ただし、順位だけを気にして一喜一憂することはあまり意味がない。幸いなことにIMDでは、54の客観的指標、調査結果を正規化し、その合計得点で順位を算出している。そのため、総合順位だけでなく、54の指標を詳しく見ることができる。つまり、日本のデジタル競争力の強みと弱みがどこにあるのか知ることができるのだ。

また、この競争力ランキングでは「ブロードバンド普及率」や「技術専門家の人口に占める割合」など、人口規模に基づいた客観的指標をもとに算出しているため、人口の少ない国ほど高い評価を得やすいのだ。したがって、シンガポールや香港、北欧各国は点数が高めになっている可能性がある。

本稿は、アジアの中で比較的人口の多い地域である韓国・台湾・中国・マレーシアとの比較を通して、どのような点が日本の課題になっているのかを明らかにしてみたい。

モバイルで成長した国、脱落した国

まず、IMDのサイトで遡れる過去のデータを使って、この10年のアジア各国の順位を確認しておこう。すると面白いことがわかる。アジア圏では、シンガポールが頭1つ抜けたデジタル競争力を有しているのは周知のことだが、その他の国は、2013年時点では中国を除いてほぼ横並びだった。ところがこの10年で、香港・台湾・韓国は順位を順調に上げていき、日本とマレーシアがずるずると順位を下げている。そして、下位にいた中国が急速に順位を上げている。

この理由は誰にでも想像がつく。日本とマレーシア以外は、スマートフォンをベースにしたモバイル革命に成功したのだ。日本とマレーシアはこの波に乗り遅れ、順位を落としている。モバイル革命とはアプリの多さではない。アプリ(サービス)をスマホを媒介にして有機的に結びつけられるかどうかだ。

特に中国は、QRコードという決して新しくはない技術を使ってスマホ決済を普及させ、スマホを媒介にすることにより、シェアリング自転車やフードデリバリー、モバイルオーダーなど、OMO(Online Merges with Offline)も取り入れた斬新なサービスを次々と生み出し、市民生活を大きく変えた。これにより、中国は2010年代半ばにタイムマシンモデル(他国で流行しているサービスを遅れて自国で展開する方法)を脱し、イノベーションを起こせる国に脱皮した。

韓国、台湾も同様で、コロナ禍においてデジタル力を活かした対策を素早く実行したことは記憶に新しい。日本は、この波に乗り遅れてしまった。

▲IMDデジタル競争力のアジア上位国の10年間の推移。2013年では、中国を除いてほぼ横並びだったが、アジア各国はモバイル革命に成功し順位を上げた。日本とマレーシアはこの波に乗り遅れ、相対的に順位を落としている。

また、IMDでは、54の指標を「知識」「テクノロジー」「将来への準備」という3つのカテゴリーに分けている。アジア各国の、この3つのカテゴリー別の世界順位をまとめた。すると、日本はアジアの中で中位からもやや落ちかかっているポジションにいることがわかる。特に、肝心なテクノロジーのカテゴリーで、タイとマレーシアの下にいることはしっかりと認識していただきたい。東南アジアと言うと、ゆったりとしたアジア時間が流れる癒しの国々というイメージがあるが、それは観光面での話であり、産業面ではテクノロジー関連が急成長している。

▲3つのカテゴリー別のアジア内での順位。日本は「テクノロジー」分野では、タイやマレーシアよりも下位にいる。ここのことはしっかりと認識しておく必要がある。数字は世界64ヵ国の中での順位。

日本の強みは意外にも行政のIT利用、弱みはデジタルスキルの低さ

では、日本の強みと弱みを見てみてみよう。それぞれ各項目の順位が上位5位に入っているものを強み、下位5位に入っているものを弱みとして抜き出してみた。

▲日本のデジタル競争力の強みと弱み。グレーの区切り線を挟み、上から「知識」「テクノロジー」「将来への準備」のカテゴリー別に整理した。

強みの項目については、多くの方が納得をするのではないだろうか。その中で意外なのが、「電子行政参加」の4位だ。これは国連が集計している「e-participation index(EPI)」に基づいた順位だ。EPIとは、「政府が市民に対して情報共有をしているか」「市民と行政関係者の対話が行われているか」「市民が意思決定に関わることができるか」の3つを評価したもの。

感じ方は人によって異なるとは思うが、国の行政に関しては、ネットでの情報共有と対話はかなり進んでいるのではないかと思う。地方行政ではさらに意思決定に参加することも進んでいる。今や、ホームページを持っていない地方自治体というのはほとんどなく、さまざまな情報を得ることができるほか、申請書をダウンロードしたりか、オンラインでそのまま申請したりすることもできるようになっている。新たな政策を策定するときは、オンラインでパブリックコメントを募集することも普通になっている。まだまだ課題はあるものの、世界第4位というのは妥当な評価であるように思える。

弱みの方も多くの人が納得をするのではないだろうか。63位の項目が4つもあるが、これは調査国は64カ国なので、下から2番目という意味だ。この項目が多いことが日本の順位を下げる大きな原因になっている。

デジタルスキルが下から3番目と言われるとちょっと驚く人もいるかもしれない。デジタルスキルとは、「SNSで業務の打ち合わせができる」「売上データを分析し、機械学習による予測ができる」「ウェブ計測指標を使ったデジタルマーケティングができる」といった運用スキルを指しており、このような「スキル」が業務や生活の場で利用できる環境になっているかどうかが評価される。残念ながら、日本においてこのような環境が用意されているのは一部の企業にとどまると言わざるを得ない。世界では「デジタルスキル」が急速に日常業務に使われるようになっているのに、日本にはいまだにExcelで売上日報をつくるだけの段階に留まっている企業が多い。

また、「機会と脅威」は、企業がチャンスの時や脅威の時に機敏に対応できるかどうかを示している。「企業の機敏さ」は、企業が状況に応じて組織の形を変え、異分野にも進出できるフットワークの軽さを示している。どちらも日本の評価が低いのは納得できる人が多いだろう。

ビッグデータ解析の利用も納得がいかない人がいるかもしれない。確かに日本でも売上予測や分布を可視化するマッピングなどは、ビジネス現場では盛んに用いられるようになっている。しかし、IMDが指標としているのは「ビッグデータ解析が意思決定に活用されているか」だ。そう言われると、ほとんど使われた例を知らないと納得されるのではないだろうか。

アジア各国との比較

次に、台湾・韓国・中国・マレーシアの強みと弱みも紹介し、日本と比較してみたい。もっとも差分の大きい項目を取り上げて、アジア各国はどこが強く、日本には何が足りないかが見えてくる。

▲台湾の強みと弱み。台湾は日本が世界でも下位にある項目が世界のトップクラスになっており、台湾に学ぶべきことは多い。

台湾に負けているのは理系卒業生の割合

台湾の強みを日本と比較してみると、もっとも大きく劣っているのが「理系卒業生」だ。これはICT、エンジニアリング、数学、自然科学の高等教育卒業生の割合を示している。これが台湾に比べて大きく劣っている。

理系の中でも、特にICTとエンジニアリングは卒業後、社会の即戦力となる。数学や文系学科の多くは、学問としては素晴らしいものの、社会において即戦力になるわけではない。ICTとエンジニアリングは若い世代が戦力となるため、新しい発想が生まれやすく、社会を変えていく原動力になっている。台湾では、戦略的に社会の即戦力となる若者を育てようとしている。ここを日本は学ばなければならない。

▲韓国の強みと弱み。韓国は政府の研究支援、ビジネス環境の整備が進んでいる。

韓国はビジネス環境が世界最高レベル

韓国の強みには研究開発への支出や助成金などがあり、政府が研究支援を積極的に行っている様子が窺われる。

日本と大きく差がついているのが「契約の履行」と「失敗を恐れない起業家精神」の2つだ。「契約の履行」とはわかりづらい言葉だが、世界銀行によるビジネス環境調査「Doing Business」における「フロンティアまでの距離」という指標に基づいている。「フロンティアの距離」は、理想のビジネス環境を100%として、現実のビジネス環境との乖離を評価したもの。簡単に言えば、契約を履行する上で乗り越えなければならない規制の多さを示している。つまり、日本は規制緩和が進まず、非常にビジネスを進めづらい環境にあるということだ。

失敗を恐れない起業家精神はアンケート調査によるもので、「失敗が怖いために起業をあきらめた」と答えた人の割合に基づいている。国民性と言うしかないが、韓国人は起業に対して積極的なようだ。

一方で、国際経験が少ないという、日本と共通した弱みを持っていることも注目に値する。

▲中国はビッグデータ解析の利用に強みがある。また、かつて日本の強みだったPISA数の得点、ロボット教育と研究開発などで、日本を凌駕している。

中国はビッグデータ解析の利用に強みを持っている

「PISA数学の得点」「研究開発の生産性」「ロボット教育と研究開発」「世界へのロボット供給」が1位であることが脅威的だ。この4つは、かつては日本が最も優れていた点であり、すっかり中国にお株を奪われてしまった。

また、日本と大きく差がついているのが「ビッグデータ解析の利用」だ。中国ではスマホが仕事と生活の中心デバイスになったことにより、ありとあらゆるビッグデータが収集できる。人の移動から行動までも把握ができ、例えば都市交通の建設計画は、市民の移動ビッグデータに基づいて設計するのが当たり前のことになっている。中国では上海と北京が2000万都市、重慶・天津・広州・深圳が1000万人都市になっているが、このような超集積都市が維持できるのも、常にビッグデータ解析を行い、都市計画と都市交通を改善しているからだ。

その一方で、中国の弱みが「個人情報の保護」であり、世界最低ランクになっていることは、中国という国の在り方がよく表れている。圧倒的なデータ分析の強さも諸刃の剣のようだ。

▲マレーシアでは、理系卒業生や女性研究者など、人材領域での強みが目立った。

マレーシアは女性の活用が進んでいる

最後に、日本がかろうじて今回勝ったマレーシアだが、強みは4つ、弱みはなしとなった。強みの数は少ないが、いずれも日本の評価が低い項目であることが注目される。

特に注目したいのが理系卒業生と女性研究者の割合だ。マレーシアは世界トップクラスであるのに、日本はいずれも下位に甘んじている。これを見ると、日本は、社会の即戦力となる理系教育を厚くし、さらに女性の研究職を増やす仕組みを取り入れていく必要があるようだ。

データから世界を見て、現状を認識する必要がある

あくまでも個人的な印象だが、いささか辛い結果になったものの、日本が地盤沈下をしているとは思わない。過去の遺産が大きく、その力のおかげで慣性走行をしているところへ、アジア各国は、教育制度・政府支援・ビッグデータの普及・助成金活用などに焦点を定め加速しているため、相対的に日本はどんどん水をあけられているというところではないだろうか。

ただ、この過去の遺産があることが状況を悪化させている。私たちの主観では、日本のデジタル競争力もゆっくりとではあるが成長をしている。しかし、過去の遺産があるために、ゆっくりでもそれなりにうまくいっているように見えてしまい、危機感が生まれないのだ。世界やアジアは猛スピードで走り始めているのに、それがなかなか視野に入ってこないという状態になっている。

ちなみに、今回利用したIMD World Digital Competitiveness Ranking 2022は、IMDの公式サイトから誰でも無料で入手ができる。使われている言語は英語だが、レポートのほとんどはデータなので、数字を眺めるだけでもさまざまな発見があるはずだ。アジアだけでなく、さまざまな国と日本の評価を比較して、日本のどこに強みと弱みがあるのか、他国はどのようなデジタル競争力を持っているのか、データの窓から世界を眺めてみていただきたい。

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