どの角度からもシームレスに見える「巨大ホログラム」の作成に成功 英ケンブリッジ大と米ディズニーが「Holobricks」を開発【研究紹介】

2022年3月28日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。

英ケンブリッジ大学と米Disney Researchの研究チームが開発した「Holobricks: modular coarse integral holographic displays」は、ホログラムをタイル状に並べて大きな立体像を形成する技術だ。これまで小さなホログラムしか生成できなかったが、今回はモジュール方式を採用し並べることで、大規模なホログラムの生成を目指す。

実験ではHolobrick(フルカラー画像、1024×768ピクセル、視野角40度、毎秒24フレームのホログラムを表示)を2つ並べて一体となった大きいサイズのホログラムをシームレスに表示させることに成功した。

▲ (上)本手法で表現した大きいサイズのホログラム。(下)カメラで撮影された画像。

研究背景

人は通常、両目の視差(左右で異なる角度の物体を見ることで起こる現象)によって物体の立体感(奥行き感)を得る。青と赤の3Dゴーグルは、左右異なる角度で見える物体がそれぞれ用意されており、それらを見ることで立体感を得ることができる。しかしこの方法だと、事前に用意された方向からでしか立体感を得られない。

一方でホログラフィー技術は、どの方向から見ても立体感を得られる物体(ホログラム)を表現できる。ホログラムとは、ホログラフィー技術を使って物体を光で3次元に表現したものを指す。

▲ (上)再構成されたホログラムを異なる視野角で表示したもの。(下)元の画像。

ホログラフィーでは、まず発射したレーザー光をビームスプリッターで2つに分け、一方のレーザー光を物体に照射し跳ね返らせて記録媒体(写真乾板など)に当てる(物体光)。もう一方のレーザー光は同時に記録媒体に照射する(参照光)。2つのレーザー光を干渉(2つのレーザー光を交わらせる)させて干渉縞を記録媒体に記録させる。干渉縞には物体光の強度(どのくらい強い光か)と位相(どの方向から光がやってきたのか)の両方が記録される。

次に、記録した情報を再生し立体像を生成する。記録した記録媒体に参照光と同じレーザー光(再生光)を照射し、干渉縞により起きる記録媒体を貫通した回折光を観測する。このとき回折光は物体光とまったく同じになるため、記録媒体から対象の物体が飛び出したかのように見る者に知覚させることができる。

ホログラフィーの原理はこのようなものだが、このままでは物体に対して静的なホログラムしかつくり出せない。映像のように動的なホログラムを生成するには、ホロフラフィーの原理を電子化した電子ホログラフィー技術が必要となる。

電子ホログラフィーでは、記録媒体を写真乾板からイメージセンサーに置き換え、また再生用には空間光変調器(Spatial Light Modulator、SLM)に置き換える。イメージセンサーとSLM間は電子通信するため、イメージセンサー側の対象物が動いても、SLMで立体像として表示でき、動画としての表現を可能にする。

もう一歩進んで、イメージセンサーで干渉縞を記録するのではなく、その代わりにコンピュータで光の物理現象を計算したシミュレーションを使ったのが、計算機合成ホログラム(Computer-generated hologram、CGH)と呼ばれる手法である。この手法はコンピュータから直接SLMに伝送するため、再生光だけで物体が実際にないにも関わらずシミュレーションした物体の立体像を表示できる。

効率的に動的ホログラムを生成できるCGHだが、ホログラムを拡大するとなると、画素ピッチが粗く表示領域も小さい現在のSLMの変調能力では拡大したホログラムを表現できないのが現状だ。そのため現状の電子ホログラフィーは視野角が狭く画面サイズも小さい。

研究過程

この課題に対して、研究者たちはさまざまな手法で大型のホログラフィックディスプレイの研究を進めているが、広い視野角と画像サイズを同時に拡大する手法はまだ報告されていないという。

今回は、広い視野と角度をもつタイル状の3次元ホログラムを形成できる、Coarse Integral Holography(CIH)と呼ぶ手法を用いてこの問題に挑戦する。CIHは画素ピッチが粗く小さい面積だが、広視野角で高いフレームレート(24fps)のホログラムを生成する。このままでは広視野角を持つホログラムを形成できても、同時に画像サイズを大きくできないため改良が必要である。

そこで研究チームは、CIHをモジュールとして設計し、ブロックみたいに積み上げたり並べたりすることで画像サイズと視野角を同時に拡大したホログラムの生成を試みた。モジュール型CIHを空間的に並べることで、CIHで得られる複数の広視野角・小サイズのホログラムを、同じ広視野角で1つの大きなサイズのホログラムに付加することに成功した。並べて繋げたホログラム同士のつなぎ目はほとんど分からず、あたかも一体になっているかのように知覚される。

▲ (a,b)Holobricの基本構造の模式図。(c)Holobricを2つ並べて表示したケース。(d)6つのHolobricを並べて表示したケース

実証実験

実証実験では2つのHolobricを並べて、ホログラムを表示した。その結果、各Holobricが生成した半分のホログラム(フルカラー画像、1024×768ピクセル、視野角は40度、毎秒24フレーム)をシームレスに統合でき、大きいサイズのホログラムを形成することに成功した。

▲ (a)並べた2つのHolobrickで表示した大きいサイズのホログラム。真ん中に切れ目がなくシームレスに統合されているのが分かる。(b)元の画像。(c,d)1つのHolobrickが物体全体の半分のホログラムを生成する

この結果は、提案する手法がSLMのみを利用した場合と比較して、画像サイズや視野角の拡張性を持ちながらホログラムを表示できることを意味する。今回は2つを並べただけだが、将来的にHolobricをさらに増やし、積んだり並べたりしてより大きな巨大ホログラムの生成が期待される。

Source and Image Credits: Li, J., Smithwick, Q. & Chu, D. Holobricks: modular coarse integral holographic displays. Light Sci Appl 11, 57 (2022). https://doi.org/10.1038/s41377-022-00742-7

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