音が聞ける「布」?! シャツが周囲の会話や体内の心拍音をマイクのように録音 MITなどが開発【研究紹介】

2022年3月22日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)、米Rhode Island School of Design(RISD)、米Case Western Reserve University、米University of Wisconsin–Madison、米US Army Research Institute of Environmental Medicineによる研究チームが開発した「Single fibre enables acoustic fabrics via nanometre-scale vibrations」は、可聴音(人が聞こえる音)を聞けるマイクとして機能する布だ。心拍音のような静かな音から、交通量の多い道路の騒音まで広範囲の音を検出することができる。シャツに搭載し身の回りの会話音から体内の音までを記録する。

▲可聴音を検知する布サンプル

研究背景

コンサートホールの防音材や生活空間のカーペットなど、布は音を和らげたり軽減したりするために使われてきたが、今回は音を拡張し、より機能的な布にするアプローチを提案する。

この新しい布は、人間の鼓膜に着想を得て開発された。そもそも音はわずかな圧力波として空気中を伝わり、耳に到達すると、鼓膜が円形繊維の層を使って圧力波を機械的な振動に変換する。この振動は小骨を通って内耳に伝わり、蝸牛で電気信号に変換され、脳で感知され処理される。研究チームはこの人が持つ一連の音声処理システムを参考に、鼓膜が繊維で出来ていることを含め、織物の布に応用できると考えた。

▲開発は人間の鼓膜の構造から着想を得た

研究チームは、音によって振動する布から電気信号に変換することで、耳が聞こえるのと同じように、マイクのように機能する布を設計した。開発にあたって以下の課題があった。布は可聴音に反応して振動するが、その振動はナノメートルのスケールであり、通常では感知できないほど小さいため、このわずかな振動を正確に検出しなければならなかった。

開発過程

この微細な振動を検出するために、新しい布には圧電体を含む単一の繊維が一緒に織られている。この繊維は、preformと呼ばれる太いマーカーほどの材料を加熱し、飴のように押し出し細くして作成する。押したり曲げたりすると電圧が発生する特性を持ち、この特性を活かして音の振動による変形を捉える。鼓膜の音声処理プロセスのように、可聴周波数の圧力波を機械的振動に変換し、機械的振動を電気信号に変換する。

作成した圧電体を含む繊維を用いて、通常の糸と織り機で一緒に織ることで布地に仕上げる。

▲従来の織機と糸で織ることができる(上図)繊維部分の拡大図(下図)

実証実験

実証実験では、シートに圧電体を含む繊維を取り付け音に対する感度テストを行った。その結果、近くのスピーカーから流れる音に反応して振動し、再生音に比例した電流が発生した。これは静かな図書館と交通が激しい道路の間の音量レベルで反応したことから、幅広い音域で感知できるとわかった。この結果はハンドヘルドマイクロホンに匹敵するという。

ワイシャツの背中に圧電体を含む繊維を組み込んだ布を間隔をあけて縫い付け、弛緩した状態のシャツに対してさまざまな角度から拍手し音の感度をテストした。その結果、拍手の音を検知できただけでなく、それぞれの布が音を拾ったタイミングから音が来た方向も検出した。3m離れた場所でも、音の角度を1度以内で検出できるという。この結果は、騒がしい場所でも難聴者が特定の話者の会話を聞けるなど、指向性のある音が感知できる布として機能することが示唆された。

▲背中に2つの布マイクを縫い付けたシャツ

別の実験では圧電体を含む繊維をシャツの裏地で胸あたりに縫い付け、心臓の音が聞き取れるかをテストした。その結果、聴診器のように着用者の心臓の音を聞くことに成功した。この結果は、じっとしていることが苦手な幼児の心臓の状態を適切に把握したり、マタニティウェアに仕込んで胎児の心拍を検出したりに活用できる可能性が示された。

さらにこの布を使ってマイク機能ではなく、スピーカー機能として可聴音を生成することにも成功した。一旦録音した会話音を再生するなどの使い方ができ、この布を着用した2人の双方向コミュニケーションを可能にした。この結果は、ウェアラブル補聴器に応用できる可能性が示唆された。

他にも、海の魚を監視するための網に組み込んだり、宇宙船の表面に設置して外からのホコリを検知したりといった、衣服以外の用途への応用も考えられるという。耐久テストでは、10回洗濯してもマイクとしての機能は維持されたという。

Source and Image Credits: Yan, W., Noel, G., Loke, G. et al. Single fibre enables acoustic fabrics via nanometre-scale vibrations. Nature (2022). DOI: https://doi.org/10.1038/s41586-022-04476-9

関連記事

人気記事

公式SNSで
最新おすすめ記事を配信中!

キャリアと技術の可能性が見つかるメディア レバテックメディアLAB

  • コピーしました

RSS
RSS