飲むと“満腹感”得られる電子カプセル 胃の中で振動し食事量40%削減、米MITなど開発【研究紹介】

2023年12月26日

山下 裕毅

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米マサチューセッツ工科大学(MIT)や米ハーバード大学に所属する研究者らが発表した論文「A vibrating ingestible bioelectronic stimulator modulates gastric stretch receptors for illusory satiety」は、胃の中で振動し、脳に満腹感を錯覚させ、食欲を抑制する電子カプセルを提案する研究報告である。

▲食欲を抑制させる振動する電子カプセルの外観

研究内容

このカプセルは「Vibrating Ingestible BioElectronic Stimulator」(VIBES)と呼ばれ、大きなビタミン錠程度のサイズで、振動を起こす小さなモーターを内蔵している。

胃に到達したカプセルは、酸性の胃液によって、覆われたゼラチン質の膜が溶け、電気回路を完成させるバネ付きのピンが解放される。このピンがバッテリー駆動のモーターを活性化させ、約30分間の振動を発生させる。この振動は胃の伸縮受容器を刺激し、満腹感の錯覚を引き起こす。

胃が膨張すると、メカノレセプターと呼ばれる特殊な細胞がその伸びを感知し、脳に信号を送る。この結果、脳はインスリンの生成を刺激し、Cペプチド、Pyy、GLP-1などのホルモンを分泌する。これらのホルモンは、食物の消化を助け、満腹感を与え、食事の停止を促す。

▲VIBESの概念とメカニズム

研究結果

実験では、豚を対象に108回の食事でVIBESの効果が評価された。VIBESを摂取した豚は、食事前に振動を与えられた。その結果、VIBESを摂取した豚は、摂取しなかった豚と比較して食事摂取量が平均約40%減少し、体重増加率も最小限に抑えられた。この実験から、胃のメカノレセプターを刺激することで、肥満などの栄養障害を抱える患者の治療方法に変革をもたらす可能性が示唆された。

展望

この新しいタイプの錠剤は、肥満治療の現在の方法に代わる可能性がある。従来の食事や運動などの非医療的介入は常に効果的ではなく、胃バイパス手術のような既存の医療介入は侵襲的である。また、GLP-1アゴニストなどの薬物は効果的だが、注射が必要で高価であるため、多くの人には手が届かない。しかし、このカプセルは、より手の届きやすい価格で製造できるため、高価な治療法にアクセスできない人々にも利用可能である。

今後の研究では、カプセルの製造を拡大し、人間での臨床試験を可能にする計画があるという。また、現在は約30分間の振動であるが、胃内に長時間留まるように適応させ、必要に応じて無線でオン・オフできる可能性を探る予定であるという。

▲振動する電子カプセルのイメージ図

Source and Image Credits: Shriya S. Srinivasan et al. ,A vibrating ingestible bioelectronic stimulator modulates gastric stretch receptors for illusory satiety.Sci. Adv.9,eadj3003(2023).DOI:10.1126/sciadv.adj3003

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