AirPodsを聞いている人の横からこっそり自分のイヤホンで盗聴可能な技術 ワイヤレスイヤホンの脆弱性と情報漏洩の脅威を指摘【研究紹介】

2022年7月18日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。

中国深圳大学、香港科技大学の研究チームは、AirPodsなどのワイヤレスイヤホンを聞いている人の隣から盗聴できる技術「MagEar: Eavesdropping via Audio Recovery using Magnetic Side Channel」を開発し、ワイヤレスイヤホンの脆弱性を指摘した。

60cm以内の距離であれば、ほかの人のイヤホンやスマートフォンで聞いている音を、自分のヘッドフィンでこっそり盗み聞きできる。

研究課題

例えば、電車内でターゲット(被害者)がイヤホンでスマートフォンの音声を聞いていると仮定する。敵はターゲットの隣に座り受信コイルを搭載したイヤホンを装着して盗聴を開始する。ターゲットのイヤホン付近の漏洩磁場を受信コイルが測定し、信号処理アルゴリズムがデータを処理し音声内容を復元する。復元された音声は直接再生もできるし、既存の音声テキストAPIによって書き起こしも可能だ。

▲電車内で視聴するワイヤレスイヤホンを横に座り盗聴しているイメージ図

ワイヤレスイヤホンが普及しており、道端や電車内、学校、職場で使用する人が多くなってきた。便利な一方で、実は盗聴されるリスクがあると聞くとどう思うだろうか。今回はワイヤレスイヤホンで聞いている音を相手に気が付かれずに盗聴できる攻撃を提示し、脆弱性と漏洩の脅威を示した正確にはスマートフォンで通話している相手の音声も取得できる。

研究過程

提案する盗聴システム「MagEar」は、イヤホンのスピーカーから放射される磁界を利用してユーザーが聞いている音を推測する盗聴できる仕組みの鍵は、スピーカーの主要部品であるトランスデューサーの音生成過程にある。

一般的にトランスデューサーは、電気信号(デジタルオーディオ)を機械信号(音)に変換する役割を担っている。この過程において、途中の磁界の変化を単純なコイルで捉えることができてしまう。この原理を利用して、敵は磁界の変化を解析することで元のデジタルオーディオを推測する。 このようなプロセスを「磁気サイドチャネル攻撃」と呼ぶ。

▲盗聴用コイルの構成図

しかし、上記のアイデアを実用的な盗聴システムに変えるには、3つの課題を克服する必要がある。

(1)イヤホンから漏洩する磁界は、わずかナノテスラと弱く、漏洩範囲も限定される。このような弱い磁場では、高精度な市販の磁力計でも5cm以内の磁気変動しか検出できない。

(2)微弱な磁場を測定するためには、システムの感度を向上させる必要がある。しかし、感度を高くすると必然的にノイズの干渉を受けやすくなる。ノイズをいかに除去し、きれいな音声を得るかが第2の課題となる

(3)磁気コイルはマイクロホンのように音を記録するものではないので、満足のいく聴き心地は得られない。磁気信号から変換された音声は音質が悪く歪んでしまう。音声信号と磁気信号の違いを調べ、合理的な修復方法を設計しなければならない。

これら3つの課題に挑戦するために研究チームは試行錯誤した。その結果、高精度な磁力計を超えるナノテスラレベルの高感度な磁界測定を可能し、物理モデルに基づいてコイルを再設計し、直径が3倍のコイルと同等の能力を持ち、さらにノイズの干渉を排除して歪んだ音声の音質を改善するデバイスの開発に成功した。

実証実験

開発したプロトタイプの精度を評価するため、市販の電子機器15種類(イヤホン10種類、スマートフォン5種類)を用いて実験を行った。その結果、ターゲットから60cm離れた場所で取得できた復元音声は、元の音声と90%の類似性を持つ高音質な音声だと確認できた。この結果は、60cm以内に近づくと、ターゲットが聞いている音を盗聴できることを意味する。

一方で今回の盗聴を妨害する方法も研究チームは提案している。ヘッドホンのシェル内に磁気シールド材を使用してヘッドホンからの漏洩磁気を減衰させるというものだ。実際にイヤホンと受信コイルの間に厚さ0.8mmの磁気シールド材を設置したテストでも、予想通り有意に数値が低下し、妨害に役立つことが示唆された。

Source and Image Credits: Qianru Liao, Yongzhi Huang, Yandao Huang, Yuheng Zhong, Huitong Jin, and Kaishun Wu. 2022. MagEar: eavesdropping via audio recovery using magnetic side channel. In Proceedings of the 20th Annual International Conference on Mobile Systems, Applications and Services (MobiSys ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 371–383. https://doi.org/10.1145/3498361.3538921

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