Sansan CTOの藤倉氏に聞く、答えのないところで挑戦するエンジニアに求める「考える力」とは

2022年2月21日

Sansan株式会社 執行役員/CTO

藤倉 成太

株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後は開発ツールなどの技術開発に従事する傍ら、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社へ入社。現在はCTOとして全社の技術戦略を指揮する。

エンジニアの採用担当者に選考のポイントや求める人物像について尋ね、現場のリアルな声を届ける「採用担当者の本音」シリーズ。第3回目は、Sansan株式会社 執行役員/CTOの藤倉成太さんに登場していただきます。

クラウド名刺管理サービスを開発・運営するSansan。市場にないサービスを生み出す同社が考える「良いエンジニア」はどんな人なのか。2009年の入社以来、長くSansanのエンジニア組織の成長を見届けてきた藤倉さんに聞いた。

プロダクト志向の強いメンバーが集まる

Q1. Sansanのエンジニア組織について教えてください。

Sansanでは全社員の約3割をエンジニアが占めていて、技術本部に全エンジニアが集まっています。現場エンジニアと研究開発職をあわせて、300名を超えるメンバーが所属しています。当社は自社プロダクトを扱っていますから、事業の成果が僕らの成果。そういう考え方で採用を行っているので、必然的に事業理解やプロダクト志向が強いメンバーが集まっています。

人物面では、人となりが良い人が多いですね。僕は実務において全体の方針を伝える役割で、実際の開発は現場のみんなに任せています。開発現場で生まれた成果はみんなの成果だけど、失敗は全て僕の責任です。そう考えた時に、お互いに信頼し合える関係性を築けるかが重要です。

だから採用でも、「相性が合いそうか」など、人柄は気にして見ています。そういう採用方針みたいなものが影響して、良い人が揃っているのかもしれませんね。

Q2. 今求めているエンジニアはどんな方でしょうか?

あらゆる職種のエンジニアを求めていますね。事業が右肩上がりに成長していて会社自体が強くなっている中、それに比例してエンジニア組織も強化していきたいですから。

ただ、セキュリティエンジニアやクオリティエンジニア、モバイルエンジニアといったそもそも人材の母数が少ない職種は、特に力を入れて採用しています。

Q3. 採用はどういうふうに行われていますか? そのプロセスを教えてください。

選考は書類選考から3次面接まであります。1次面接は技術的な知見と「一緒に働けそうか」を、現場のリーダーにチーム目線で見てもらっています。2次面接では候補者の人柄と将来の組織にとってかけがえのないピースであるかどうかを、長期的な時間軸でマネジャー陣がチェックします。

そして最終面接では、主に僕がカルチャーマッチの部分を見ています。2次面接よりもさらに長期的な目線で「この人にどんな環境をつくってあげたら成長できるか」「自分たちと一緒に成長してくれそうか」という視点で候補者の方とお話ししていますね。

Q4. Sansanに応募するエンジニアはどんな人が多いですか?

「自社プロダクトに携わりたい」「プロダクトを自分の力で成長させたい」「ユーザーの声を聞いて、それを開発に生かしたい」といった人が多いです。我々も事業理解やプロダクト志向が強いメンバーを採用したいので、そこは一致しています。

その一方で、技術的なレベルでマッチしないケースは比較的多いですね。1次面接の通過率も高くはないです。「エンジニアたるもの技術は持っていて当たり前」という考え方で採用を行っているので、厳しめに見てしまっているのかもしれません。

Q5. Sansanが高く評価するエンジニアの条件は何でしょうか?

与えられた環境の中で最大限にパフォーマンスを発揮できているエンジニアを高く評価しています。職場は自分で選べるものの、プロジェクトや技術、そこでどんな経験を得られるかについては自分で選択できません。成長しにくい環境に身を置かざるをえないことだってあるはずです。ただ、その中でも自分なりに工夫をして成長を続ける力がある人は強いと思います。

成長しにくい環境でこれだけ成長できるなら、成長しやすい環境に行けばもっと成長するポテンシャルがある、そう思うんです。逆に成長しやすい環境にいたのであれば、とんでもない角度で成長していて欲しい。もしそうじゃない場合はその人の努力が足りないということもあるかもしれないですよね。

あとは、スタートアップや自社サービスの経験がある人のほか、事業成長に伴い、社内で開発運用しているプロダクト規模も大きくなっていますから、大規模システムの開発経験者も、能力を加味して結果的にプラスの評価をすることが多いです。

苦い経験を反すうして考える力を得る

Q6. エンジニアのスキルチェックはどういうふうに行われていますか?

職種によってはコードテストをすることもありますが、それ以上に重視しているのは設計力です。これは口頭の問答でなければ測れないと思っています。

システム全体のアーキテクチャ設計の経験があれば「過去に携わったプロジェクトをどう設計し、なぜそういうふうに設計したのか」「リリース後にその設計は正しかったと思うか」といった質問をします。若手のメンバーなど、技術リーダーの設計に従って開発をしてきた人には「システムの設計意図はなんだったと思うか」など、過去に携わったプロダクトの設計ポリシーへの理解度を図るような質問をします。

あとはデータを扱う場面が多いので、データベースのパフォーマンスチューニング、テーブル設計をはじめ、データハンドリング周りの質問もよくします。

Q7. 面接で必ずする質問はありますか?

面接で必ず聞いているのは、「今までの人生で一番苦しかった判断」「仕事をしてきた中で一番しんどかったエピソード」といった、苦しい時の話ですね。特に幼少期を含めた人生の中で本当にしんどい判断をしている人は、そうでない人と比べて考える力が高いと思っています。

また、仕事のしんどいエピソードについては、「しんどかったけど学びも多かったから、今となっては良い経験」「あれ以上苦しいことはあまりないから、大体のことは大丈夫になった」など、明るく話せる人は強いなと思います。

仕事をやっていれば苦しいことはいくらでもあるじゃないですか。自分の力ではいかんともし難いことがある中、それを後ろ向きに振り返る人だと、周りの雰囲気も暗くなってしまう気がして。だったら「あの頃はしんどかったよね」と笑いながら一緒にお酒を飲めるような人のほうが素敵だし、それを笑顔で語れる方とは、つらい仕事も一緒に乗り越えられそうだなと思えます。

Q8. 採用プロセスの中で気をつけているポイントは何ですか?

人生観やキャリア観は人それぞれなので、面接での答え方を含めて人柄を見たいと思っています。

先程「人生で一番苦しかった判断」を面接で聞いていると話しましたが、そうはいっても、苦しい判断をした経験がある人はやはり少数派です。その場合に、意思と勇気を持って「(経験が)ないです」と言えるかどうか。

「自分がまだ経験してないこと」を理解していること、そしてそれを「経験していません」と言えることが、僕はとても重要だと思っているんです。よく見せようとして取り繕ったエピソードを話したくなる気持ちはわかるけど、結局は無理に話しても見抜かれてしまうものなので、もったいないですから。

他に「将来どうなりたいか」を聞くことも多いですが、これもないなら「ない」と言ってほしいですね。聞いておいてなんですけど、僕もないですし(笑)。

Q9. 面接で「いいエンジニア」をどう見極めていますか?

ソフトウェアという目に見えない、手で触れられないものを扱う仕事なので、「抽象的な物事をどう構造として捉えているか」は、気にして見ています。

例えば、組織が物事をうまく進められない状況に陥った経験がある人に対して、「当時組織内のパワーバランスはどういう構造になっていたのか」「それに対して、あなたはどこに影響を与えようとしたか」「どこを修正できればレバレッジが効いたと思うか」といった質問をします。こういう質問には、組織の奥行きや上下関係を意識し、構造的に捉えていないと答えられませんから。

エンジニアに限りませんが、具体と抽象をいったりきたりできる人は強いですね。抽象的に物事を捉え、具体的な施策に落とし込んで結果を出せる人は、基本的に仕事ができる人だと思っています。特にエンジニアは極めて抽象的なものを扱う仕事ですから、そういう力はより求められます。

「答えのない」新境地に共に挑もう

Q10. オンボーディングではどういうことをしていますか?

職種問わず行っている人事主導の入社研修が数日間あって、その後現場配属となります。入社研修ではSansanの歴史や社内で使われているツールの説明が行われます。また、当社は事業特性から個人情報の取り扱いに対する意識を高めるべく、社員全員「個人情報保護士」の資格の取得が義務付けられているため、個人情報の取り扱いに関する研修も充実しています。

現場配属後は、エンジニアに向けた研修を実施します。「データベースをどう触るべきか」「コードを書く際に気をつけるべきリスクと対応策」など、セキュリティの話が中心ですね。他に現場の開発ルールや開発環境について説明を行い、その後は仕事に入ってもらうのが基本です。

なお、現在エンジニアメンバーには「週に3日以上出社」と「週1日以上出社」の2パターンの働き方を用意しています。

僕は基本的にはオフィスで一緒に仕事をしたいという考え方ですけど、とはいえリモートでも成果を挙げられることがコロナ禍で明らかになりました。業務内容によっては集中してコードを書く時間を確保したい、また家族との時間を増やしたいといった個人の需要に応じて、働き方を選べるようにしています。

Q11.エンジニアの方に「Sansanに来るべき」とおすすめする理由は?

Sansanはユニークなビジネスを行っていて、珍しいポジションにある会社です。当社はこれまで、市場がないところでビジネスをしてきました。今でも「どうやって競合に勝つか」ではなく、「どうやって自分たちの価値をみんなに認めてもらうか」、日々勝負している。そこは面白いところです。

2021年には既存のミッションとバリューに加えて、「ビジネスインフラになる」という新しいビジョンを策定しました。BtoBのSaaSプロダクトをやっていれば誰しもが考えることではありますが、「ビジネスインフラになる」と胸を張って言える会社はそれほど多くはない。そういう中でSansanは本気で狙えるポジションにいます。

また、海外での仕事に興味のあるエンジニアにもぜひ来ていただきたいです。今後は海外の開発の拡大に勝負をかけたいと考えています。具体的には東南アジアに向けて、現地のニーズを汲み取り、現地ユーザーが違和感なくスムーズに使えるようなプロダクトの開発に取り組みます。そのための開発部隊をつくり、グローバルで開発できる体制を整備したいです。

すぐには難しいかもしれませんが、エンジニアにはその際ぜひ現地で開発をしてほしいと思っています。やはりエンジニアは地理的にユーザーマーケットに近い場所にいるべきです。Sansanはシンガポールに子会社を持っていますが、そこで働くメンバーと直接話をしたとしても、マーケットの空気感や現地の声、商習慣、文化的背景など、日本からは分からないことはたくさんあります。

もちろん仕様を全部現地メンバーに決めてもらって、エラーケースも事前にシミュレーションして対処法を決めてもらっていれば、日本でも開発できるでしょうけど、そんな仕事はおもしろくないじゃないですか。自分でユーザーにヒアリングをして、設計して、意思決定をしたほうが絶対に面白いですから、現地で開発したい人は大歓迎ですね。

Q12.Sansanを希望するエンジニアに、今からしてほしい準備は何ですか?

「答えがないもの」へ挑む心の準備をしておいてもらえるといいですね。同じビジネスでも、競合を意識しながらスピーディーに価値提供する戦い方と、自分たち以外にプレイヤーがいない中での戦い方は全く違います。当社は後者ですから、どのレイヤーでも参考材料や答えがない中で意思決定をする力が問われます。

プロダクトマネジャーが一生懸命考えたことをエンジニアは信じるべきですが、一方で我々は「本当にその仮説は合っているのか」「どこまでリサーチが済んでいて、エビデンスはあるのか」など、ある意味では牽制して守るべきことをしっかりと守ってほしいとも思っています。妄信しても、ひたすら否定的になってもだめで、開発の根拠を自分なりにジャッジすることがエンジニアの一つの役目。そんなイメージを持ってもらえるといいと思います。

あとは、自分の直感や感情を信じて、もっと仕事を楽しむことを考えてほしいです。僕は新卒でハードウェアメーカーのエンジニアになろうと就活をしていたんですけど、企業訪問した全ての会社の社員がスーツにネクタイで作業着を着ていて。その時、直感で「服装が嫌だ」と思ったんです(笑)。本当にその理由で内定を全て辞退し、就活を一からやり直したことがあります。

そうやって自分の感情に従ってキャリアの選択をしたことは、今振り返っても間違いじゃなかったと思っています。それに「僕の人生だし、誰かにとやかく言われる筋合いはない」と胸を張って言えたほうが、意思決定がより力強いものになるんですよ。

何より「自分の人生」を軸にすると、楽しい。そうやって楽しく真剣に仕事をしていれば、キャリアや成長、お金は結果としてついてくる。僕はいまだにそんな青臭いことを考えています。

取材・執筆:天野夏海
撮影:若子jet

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