ハードシングスを乗り越え先に何が見えた?不動産テックに挑む若きVPoEが知った「最小工数で最大限のビジネスインパクトを出すこと」の重要性

2021年4月15日

ハードシングスを乗り越え先に何が見えた?不動産テックに挑む若きVPoEが知った「最小工数で、最大限のビジネスインパクトを出すこと」の重要性

株式会社estie VPoE

岩成達哉

松江工業高等専門学校在籍中に全国高専プログラミングコンテスト課題部門最優秀賞、文部科学大臣賞、情報処理学会若手奨励賞を受賞。東京大学工学部に編入後、高専の卒業研究をもとにプログラミング教育アプリを開発し、Android Application Award 2012 学生奨励賞を受賞。学生起業を経験した後、大学院在学中はグーグルジャパン合同会社など複数の企業でインターンを経験。大学院修了後は、Indeed Japan株式会社に入社し、データパイプライン開発等に従事したのち、業務委託としてオフィスビル情報プラットフォームを提供するestieに関わり、2020年10月にVPoP(VP of Products)としてジョイン。2021年4月よりVPoE(VP of Engineering)を務める。

コロナ禍でリモートワークが増え、オフィスの価値が見直されている。大手企業の中には、中長期的にオフィスを縮小するケースも出てきた。こうした状況で、「オフィスは価値創造の心臓部」と信じ、オフィスにまつわる全ての意思決定の最適化を目指しているのが不動産テックのスタートアップestie(エスティ)だ。

そのVPoEを務める岩成達哉さんは高専時代から数多くのコンテストで受賞歴を持ち、東大在学中にGAFAでインターンを経験、新卒から業界トップの人材系企業でデータパイプランの開発を担当してきた。30代を目前に「データの力でプロダクトをつくり、新たな価値を生み出したい」とestieに飛び込んだ。

大手でのキャリアを捨て、人生を賭けたいと思わせたestieの魅力は何か。さらに、「プロダクトをつくり育てること」の最大の面白みとは。

それらを解読した先に、岩成さんが考える開発者としてプロダクトをスケールさせる極意があった。

学生起業で味わった挫折。ビジネスを考えるエンジニアであるべきことを知った

——岩成さんは高専から東大へ編入したとのことですが、学生時代はどんな研究をしていたのですか?

僕がプログラミングをはじめたのは高専に入ってから。松江高専時代は情報工学科でプログラミングに打ち込んでいて、東京大学へ編入してからは並列分散処理や自然言語処理を研究していました。専門自体は理論寄りでしたが、趣味で応用寄りのアプリケーションもつくっていましたね。

——大学時代はご自身で事業を立ち上げていたそうですが、どんなプロダクトだったんですか?

高専の卒業研究をもとに、「PILE PROJECT(パイル プロジェクト)」という子ども向けプログラミング教育用システムをつくりました。タブレットデバイス上にブロック型のパーツを並べることでプログラムをつくることができ、実行ボタンを押すとロボットがそのプログラムに従って走るというものです。

僕は高専に入ってからプログラミングを始めたので、「もし小学校のころから学んでいたら、もっとたくさんのことができたな」という思いもあって、子どもでも気軽に遊び感覚で楽しくプログラミングが勉強できるプロダクトを開発したんです。

プログラミング教育教材を使って、誰もがプログラミングできる世界にしたかったんですよね。仕事としてだけでなく、数学や英語のように世界とつながるための便利なツールとして皆がコードを書ければいいなと考えていました。

▲自分で組み立てたプログラムでロボットの動きを操作している子ども

——素敵なビジョンですね。そのまま事業を続けるという道もあったと思いますが、なぜ会社員になったのでしょうか?

プログラミング教材の事業では開発から販売まで仲間たちと一緒に全部自分たちでやっていて、開発も紆余曲折ありつつ順調でした。ところが、量産販売することがなかなかできなかったんです。

「皆がプログラミングできる世界」を実現するには、より多くの人にプロダクトを使ってもらわなければなりません。そのためには価格をある程度下げ、買える人が限定されないようにする必要があります。しかし、筐体やハードウェアが必要なロボットの場合、自然と価格が上がってしまいます。一定の収益を出しながら、多くの人にプロダクトを提供することが難しく、ジレンマに陥っていましたね。

プロダクトのアイディアがあって実際に開発できたとしても、それを売れるように事業をスケールさせて、多くの人に届けるのは難しいということに気づきました。理想論だけではプロダクトは成長させられないのだ、と。

そこで、盲目的に自分で事業をやり続けるより、リクルートみたいな事業規模の大きい企業に入って、エンジニアリングスキルを高めながら、ビジネスをスケールさせるノウハウを身に付けたいと考えました。

——リクルートでの仕事はいかがでしたか?

仕事は面白かったです。当時リクルートには「グローバルエンジニアリングコース」というIndeedへ出向することが前提のコースがあって、入社するときにそのコースを選びました。大学でやっていた自然言語処理の研究も活かせるし、外国籍社員が多い環境で英語も身に付けられるのかなと思って。実際とても働きやすい環境だったし、周りのエンジニアのスキルも飛び抜けて高く、専門用語も当たり前のように通じ、コミュニケーションがスムーズで毎日が楽しかったですね。

Indeedでは主に求人情報のデータパイプライン開発を行っていました。具体的には、ネット上のあらゆる求人データを収集し、Indeedで検索できるようにするまでを複数のチームに分かれて担当。その中で僕はネット上のすべての求人を網羅し、Indeedのデータベースに蓄えるためのデータパイプラインの上流部分を整備していました。

——実際に入ってみて、手に入れたいスキルを身につけることができましたか?

そうですね。Indeedでは「ビジネスを考えられるエンジニア」としての働き方を学んだ気がします。具体的にいうと、プロダクトをつくる上で、開発したい機能や行いたい施策が複数あったとき、どれが最も事業にインパクトを与えるか、という考え方が身につきました。その結果、的確な意思決定ができるようになったと思います。とくに大事だったのはデータを取って、意思決定のエビデンスを取ること。

「簡単だけれどビジネスインパクトが1しかないこと」と、「やり遂げるのは難しくてもビジネスインパクトが100ありそうなこと」。その両方があるとき、エンジニアはあらゆるデータを取って、次にどちらを行うべきか優先順位が決めなければなりません。そういう意思決定を繰り返す経験を積むことができました。

「この項目を変えればクリック率が5%上がる」というように、データに基づいて調査、仮説、実装、検証のサイクルを繰り返すことがプロダクトを開発するすべての人に必要です。その点、事業を支えるエンジニアならそのサイクルに大きく寄与できます。実際、当時周りのエンジニアは、皆「本当にそれってインパクトあるんだっけ?」という話をしょっちゅうしていたし、データを紐解いて、最もビジネスインパクトのありそうな打ち手を実施していました。「最小限の工数で、最大限のビジネスインパクトを出す」という考え方が、どのエンジニアにも浸透していましたねただプログラムを書くだけがエンジニアじゃないなと思うようになりました。

スタートアップのVPoPとして奮闘。プロダクト価値を最大化する組織を作る

——それだけ仕事が充実していたにもかかわらず、 Indeedから不動産テックスタートアップのestieに移ったのはなぜですか?

オフィスがテーマという部分に惹かれたのが理由の一つですね。オフィスは、僕にとってとてもワクワクする場所だったんです。隣に座っている人とペアプロをして一緒にコードを書く時間も楽しかったし、さりげない会話からプロダクトのアイディアが生まれたりするのも面白かった。

しかし、コロナでオフィスへいけなくなってから、自然に起きていたこうしたコミュニケーションもなくなり、仕事の楽しさが3分の1くらい減ったように思いました。これまで意識していませんでしたが、企業の価値が生まれる場所としてオフィスの存在が大事だったんだと改めて実感したんです。すべての会社が外資系IT企業のような良いオフィスを持つ必要はなく、新しく起業した人なら、オフィスを持つだけですごくテンションが上がると思うんです。そのような環境で起こることで価値を生むんだなと。「こんなワクワクする環境が100個、1000個増えていけば、良い社会になりそうだ」と思い、estieなら企業にとって最適な価値創造の場所探しをお手伝いできると考えたんですね。

あとはシンプルにエンジニアとして関わっていくのが面白そうだと思ったからです。正社員としてジョインする前に、半年ほど業務委託として関わっていたのですが、3ヶ月くらい経ったころには気づいたらエンジニアリングマネージャーを任されていました。そして、その1、2ヶ月後にはプロダクトマネージャーも担当。「業務委託なのに、こんなに重要な仕事を任されていいのかな?(笑)」と思いながらも、活躍の幅がどんどん広くなっていくことを楽しいと感じていました。せっかくだから、自分はどれぐらいスタートアップで成長できるのか試してみたい」、そう思ってestieにそのままジョインしました。

——なるほど。でも不動産業界というと、参入障壁が高そうなイメージもありますが……。

業界的には確かに参入障壁が高いかもしれません。ただ、estieはデータと技術、そしてCEOの平井(瑛氏)をはじめとする業界出身者の知見と業界への強い思いがあります。これらがそろっていれば、この業界にコミットし、プロダクトを浸透させていけると信じています。そこもジョインを決めた理由の1つになりますね。

実は同じ賃貸でも、to B向けのオフィス賃貸はto C向けの住宅賃貸と大きく違って、賃料が景気に大きく左右されやすいんです。不動産市場にはテナント・仲介・貸主の3つのプレイヤーがいて、まだまだ情報が不透明なことも多い。そこでestieは各所からデータを集め、独自のデータパイプラインを用いて業界内のデータ整理を実現することで、賃料予測システムを提供したり、テナントと物件の最適なマッチングをサポートしたりしています。

このように、世の中で整理されていない情報を集めて、ユーザーに提供できる形のデータに整え、ユーザーからもデータを集めて新たな価値を産む、というビジネスモデルにはかなり競争優位性があると思っていて。僕たちがこのまま突っ走っていける分野だと思っています。CEOの平井が掲げている「不動産業界最大のプラットフォーマーになる」というミッションにも共感できましたし、頂上まで一緒に登っていくのがとてもワクワクしていますね。

▲普段手にできないデータを扱える面白みについて笑顔で語っている岩成さん

——岩成さんは3月までestieのVPoPとしてプロダクトの開発に携わってきましたが、一番力を入れていたことはなんですか?

そうですね……一番を決めるのは難しいですね。入社してから、「会社にとって一番レバレッジが効くことは何か?」「どうやったらプロダクトの価値を最大化し経営にインパクトを出せるか?」についてずっと1ヶ月、いや1週間の単位で考えてきました。それを実現するために、プロダクト成長のロードマップを引いたり、開発チームのチームビルディングをしたりなど、とにかくできるすべてのことをやってきたと思います。

VPoPは耳馴染みのない役職かもしれませんが、経営層と同じ視座で全プロダクトの開発を見ている、「プロダクトで事業を成長させる専門家」と言ってもいいかもしれません。現状を分析し、目指している理想形を見据えて、ここからどういうふうにプロダクトを育てていけば目標達成できるのかを、経営層と一緒に考えながらロードマップを組んでいきました。まだ雛形が完成したばかりなので、これから少しずつ実行に移していくつもりです。

——そのロードマップの中で、すでに実行に移している取り組みは何ですか?

最近取り掛かっているのは、プロダクトの機能リリース速度を上げる体制づくりです。2週間に1度新機能をリリースしていましたが、毎日リリースできるように仕組みを変えました。

——それはなぜですか?

プロダクトのビジネスインパクトを最大化しようと突き詰めると、限られたリソースの中で、いかに最大の効果が得られるか考えることが大切になってくるからです。2週間のリリースサイクルだと、まとめて機能テスト(QA)をするのに膨大な時間がかかってしまいます。その結果、ユーザーからフィードバックをもらえる頻度が少なくなるんです。リリース後にニーズに合わないことがわかったら、大きなリソース浪費にもつながってしまいます。

ユーザーが求めているものは、ユーザーに聞かなければわかりません。ならばプロダクトをユーザーに見せる頻度を上げるしかないそこで、僕が開発チームにエンジニアリングマネージャー兼QAエンジニアとして参画して、毎日リリースすることのメリットを共有したり、QAのお手本を見せたりしながら、フローを仕組み化していきました。

「毎日ユーザーに価値のあるコードを届けられる体制をつくる」ことをチームで掲げ、「機能開発→リリース→ユーザーのフィードバックを受ける→改修」というサイクルが確立できるよう、開発スピードを上げています。

▲「毎日ユーザーに価値のあるコードを届けられるチーム」を目指し、チームメンバーで切磋琢磨をしながら開発に取り組む

プロダクトをスケールさせたいなら、最小限の工数で最大限の成果を出せ

——エンジニアだけでなく、ビジネスサイドやデザイナーなど様々なプレイヤーがいるなかで、それぞれの意見をすり合わせるのは大変ではないですか?

もちろん、かなり大変です(笑)。チームの人手が足りないことや、課題に対する思いの違いでメンバーとの認識が合わないことなど、プロダクト立ち上げの壁にはすべてぶち当たってきた気がします。

でも、意見の不一致などはチームを作り上げる上で健全なぶつかりだと思っているし、変な言い方をすると全部が面白い。逆に全ての難題に対して「こうすればこうできる」という回答を1人で出そうとすると、最終的にうまくいかないことが多いと思います。

——それだけ様々な認識のメンバーがいる中で、チームビルディングで大事にしていることはなんですか?

チームのみんなが暗黙的に思っている意識を共有することが重要だと考えています。結局チームとしてやりたいことは、ユーザーに価値を届けることなので、それぞれのメンバーがなぜそう思っているのかをすり合わせていくことが良いアウトプットにつながります。

切迫した開発スケジュールの中で、思っていることのすり合わせの時間をわざわざ取るのは無駄だと思われがちです。しかし実際やっていくと、みんな実は同じことを考えていたり、思わぬところで新しい発見があったりするものです。

あと、とにかくぶつかった内容を記録として残していくことも大事です。何を・なぜ・どのように解決したのか、新しく加入するメンバーがキャッチアップしやすいように、ドキュメントとして残していくことも心がけています。

——ぶつかっても解決策が見つからないこともよくあると思いますが、その場合はどうしていますか?

答えがなかなか出ない課題に関しては、とにかく仮説検証の粒度を最小限に切り分けて、ミニマムから少しずつやっていくことにしています。

例えば、アイディアベースの仮説の場合、隣の人に30秒もらって「これどう?」って聞いてみることも検証の1つ。それで「いいね!」と言われたら、今度は5分でできる検証をしてみます。そしてその検証で見えた改善点でピボットを行い、1時間でできる検証へ踏み込んでいく。そんな風に、根気よくミニマムでできることを繰り返していきます。

すごい大掛かりなものを1ヶ月かけて作ってようやく日の目を見たけど周りの反応がいまいちだったり、事業の方向性からズレていたりするのはもったいないじゃないですか。手間をかけているように見えるけど、なんだかんだ言って、ミニマムを繰り返していったほうが効率がいいんですよ。

——入社してからずっとプロダクト開発に向き合ってきましたが、岩成さんが今後さらに注力していきたいことは何ですか?

一番やりたいのは、開発チーム全体の力を上げていくことですかね。

——すると、4月からVPoEになったのも、チームづくりが重要だと思ったからですか?

そうですね。この3月までは、VPoPもEMもエンジニアも兼ねていて、プロダクト開発、エンジニアリングなど、自分のやっていることのどれが一番ビジネスにインパクトがありそうかをずっと検証してきたんです。その結果たどり着いた次のターゲットが、チームづくりでした。

どんなに強いエンジニアでも、1人で出せるアウトプットはチームでやっている爆発力には絶対勝てません。VPoEとして強いチームをつくって、ユーザーに届けられる価値を最大化できるようにしていくことが、今の僕の大きなミッションです。

——最後にあらためて、岩成さんが考える、プロダクトをスケールさせるために大切なことは何ですか?

最小限の工数で、最大限の成果を出すことです。estieもそうですが、プロダクト立ち上げの段階というのは、チームのメンバーも少なく、リソースも限られている場合が多いですよね。そんな中、いかに最大の成果につなげていくのかが、プロダクトの成否を左右します。

プロダクトを成功させるためには、プロダクトを開発できる技術力、ユーザーやビジネスへの深い理解が求められます。これらのことを同時にできる「ビジネスもわかるのが当たり前のエンジニアチーム」をつくることができれば、良いプロダクトが出来上がると信じています。

取材・編集:石川香苗子
企画・執筆:王雨舟

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