【Yahoo! JAPAN Tech Conference 2022】ヤフー・MonotaRO・LIFULLが語る、組織におけるデータ文化の育み方【イベントレポート】

2022年3月23日

ヤフー株式会社 CTO室 Developer Relations

水田 千惠(モデレータ)

2003年に中途入社。サービス企画やマーケットインテリジェンス、IoT領域のエバンジェリストを経て、2017年より技術ブランディングを担当。主にイベント協賛やBonfireなどのクリエイター向け勉強会の企画運営を行う。

ヤフー株式会社 CDO室 プロジェクト推進

天神林 大士

2021年中途入社。グループ会社であるZOZOでのデータ分析業務を経て、現在はCDO室にてデータ利活用に関する様々な組織横断プロジェクトを推進。

株式会社MonotaRO IT部門 データ基盤グループマネージャー

香川 和哉

神戸大学卒業後、プログラミング未経験からベンチャー企業にてWeb開発やスマートフォンアプリケーションの開発に従事。2016年に株式会社MonotaROに入社。マーケティングシステムの運用を行いながら、データ基盤を構築し社内のデータ活用の展開などをすすめた。現在はデータ基盤グループマネージャーとしてデータ管理、DWHやデータマートの構築、GCP管理などを行っている。

株式会社LIFULL AI戦略室長補佐データサイエンスグループ長

嶋村 昌義

博士(工学)を取得後、大学や企業にて、情報通信ネットワークの研究開発に従事。ネットワーク制御やトラフィック分析にて機械学習や深層学習を活用した経験を活かし、LIFULLにAI戦略室データサイエンスグループ長として入社。現在は、主に機械学習・数理最適化・画像処理・自然言語処理などの技術を活用した「LIFULL HOME’S」のデータ分析プロジェクトのマネジメント業務に携わり、2021年10月にAI戦略室から「LIFULL HOME’S 3D間取り」を正式リリース。その他に、全社的なデータの活用を促進するために、CDO(Chief Data Officer)やデータ基盤部門と連携してデータ文化の醸成に向けて従事。

※プロフィール情報の所属や肩書はカンファレンス実施時のものです

世界をリードするAIテックカンパニーとして、ヤフーが様々な領域で行っている技術的な取り組みが語られた「Yahoo! JAPAN Tech Conference 2022」。エンジニアやデザイナーなど、サービスに関わる全員がデータに対するリテラシーを高めるために、組織として取り組んでいることは何か。セッションでは、ヤフー、MonotaRO、LIFULLの3社の担当者から、環境づくりや現場への支援などについて語られた。

第1弾はこちら
【Yahoo! JAPAN Tech Conference 2022】ヤフー・サイボウズ・ZOZOが語る、OSSへの貢献活動で得られたこと【イベントレポート】

ヤフー・MonotaRO・LIFULL。3社におけるデータ利活用の取り組み

水田 千惠(ヤフー株式会社、以下・水田):データの利活用が推進されるようになり、私たち社員1人1人にデータリテラシーが求められている時代になってきました。今回のセッションで紹介する各社の事例や気づきを、みなさんのデータ利活用やデータ事業の推進に役立ててほしいと思います。

まずは、各社のデータ利活用やデータ事業推進の状況についてお聞かせください。

天神林 大士(ヤフー株式会社、以下・天神林):私が所属するヤフーのCDO(Chief Data Officer)室はCDO直下の組織になっており、主に4つの取り組みを通じて、データ活用の環境整備やデータを用いた事業推進をしています。

1つ目は「データによる事業貢献」。ヤフー社内の組織・グループ会社組織を横断して、データの利活用推進と環境整備を行っています。
2つ目は「人材の育成・利活用促進」。データ教育や研修カリキュラムの整備、表彰制度の策定などを進めています。
3つ目は「ガバナンス強化」で、主に社内外に向けたデータガバナンス対応、データ利活用のためのガイドライン策定を行っています。
4つ目は「データ貢献の可視化」です。全社横断で社員のデータ領域における貢献度を定量化・可視化するために、指標の策定やフローの可視化を進めています。

私はヤフーに入社してまだ1年目なのですが、いろいろなプロジェクトを経験させてもらっています。事業・グループ会社間におけるデータ利活用のプロジェクトマネジメントや、全社横断におけるデータ利活用の推進、さらに、関係各所と連携して特定事業やサービスにジョインしてデータ分析を行ったりすることもあります

最近では、LINEとの合同のミートアップ「Z Data Meetup β」の企画・設計・運営に携わっています。ヤフーとLINEのグループ間連携を深め、双方のデータ利活用に関するノウハウを共有することで、ビジネス的なギャップをなくすことを目的で試験的に始めました。「データに関することなら何でも」をモットーに、施策背景から異常検知、意思決定まで、データ利活用の各フローに起こりうる課題をできるだけ網羅するような形で勉強会などを開催しています。今日は「Z Data Meetup β」の運営で得た知見を中心に皆さんとお話ができればと考えております。

香川 和哉(株式会社MonotaRO、以下・香川):MonotaROは、B2Bを対象に、自社で間接資材の在庫を持ち、オンラインで販売する事業を展開しています。コールセンターや物流、マーケティングなど、多くの業務を業務とシステムを自社で開発・運用しています。

データ基盤を中心としたMonotaROのシステム全体のイメージは以下のスライドとなります。

MonotaROは2010年にデータ基盤の整備を始め、その後に販促基盤とデータウェアハウスを構築しました。2016年にBigQueryを導入し、2018〜2019年にはデータ活用の動きが全社に拡大。現在はデータ管理を行う専門の組織であるデータ基盤グループを立ち上げ、社内全12部門のデータを集約し、各部門がデータ基盤グループを通じてデータを利活用できる体制が出来上がっています。

参考資料:モノタロウTech Blog「MonotaROのデータ基盤10年史」

嶋村 昌義(株式会社LIFULL、以下・嶋村):LIFULL(ライフル)は、事業を通じて社会課題の解決に取り組むソーシャルエンタープライズです。社会課題を解決すべく、社長直下のAIビジネス実装部門として研究開発組織「AI戦略室」を立ち上げました。データ文化の醸成に関してはCDOを中心に、AI戦略室・データ基盤部署・データ活用部署でデータ活用促進やデータアーキテクチャ設計について連携しています。その具体的連携方法は下の図で示したとおりで、使用者はBigQueryでデータを利活用できるように仕組みを形成しています。現在は、さらにこの仕組みを改良し、データ活用の活性化に向けて取り組んでいるところです。

AI戦略室から創出したプロダクトの一つが「LIFULL HOME’S 3D間取り」。ディープラーニングを用いて、数値データを算出。2次元の間取り図画像を3Dのビューアを作成し3Dで描画をしています。実際に足を運んでみる前に、3Dでどのような家なのかを体験できる。コロナ禍における住まい探しの一助になればと開発しました。

データドリブンな「企業文化」をつくるための経験と苦労

水田:続いては、データドリブンな企業文化のつくり方という点で、皆さんがうまくいった経験談や苦労された点について、より詳しくお聞きしたいと思います。

嶋村うまくいった取り組みとしては、社内データのサイロ化を解決したことです。データ基盤の部署をつくり、社内にどんなデータが散在しているのかを調査し、BigQueryに集約することで全社のデータを気軽に扱えるようにしました。また、社内でBigQueryが書ける人はまだ多くないため、データ集約と同時に、BIツールの使い方のサポ―トも行っています。

苦労している点としては、データを活用するカルチャーはできたものの、「これをデータマート化してほしい」「このデータを加工してほしい」、といった依頼がデータ基盤部署に集中し、優先度付けが難しいんです。データウェアハウスとして、どんなデータを事前に準備したほうがよりデータの価値を発揮できるかについて、今仕組みや体制づくりに取り組んでいるところです。

香川:MonotaROでは先ほども述べたように、2016年にBigQueryを導入し、2018年〜2019年には全社範囲でデータ活用ができるようになりました。うまくいった理由としては、2006年頃からすでにデータを活用したマーケティング戦略を進めていたことが挙げられます。

約15年という長い歴史の中で、経営層や組織のリーダーが率先してデータ活用を推進し、メンバーがそれに応え、全社でデータ活用に取り組んできました。データの利活用を進めるにはトップダウンとボトムアップ両方で進めることが大事ですが、まずはトップダウンでのメッセージや要求が強くあったことが取り組みを大きく後押ししたと考えています。

もう一つうまくいった点としては、BigQueryはGoogleアカウントと統合されているので、入社した初日から誰でもデータが見られる環境をつくったことですね。また、ドキュメンテーションやスペシャリストを社内に多く配置することで、データを活用するにあたってのハードルを下げたこともうまくいった点になると思います。

苦労した点は、嶋村さんのお話にもあったように、やはりサイロ化ですね。各部署間でデータの定義が異なることで、支障が起きることが増えてきました。そこで、全社におけるデータの全体最適を考え、データが管理できる環境をつくるべく、今期から取り組んでいます。

データ管理に取り組むにあたって気をつけているのは、一つの組織が単独でリーダーシップを取るのではなく、全社で各部門・グループのリーダーやエンジニアが参加すること。全社における最重要案件として認識を合わせて取り組むことに注力しています。

天神林:僕もトップダウンとボトムアップは重要なキーワードだと思います。その点でいうと、LINE社と共同で進めている「Z Data Meetup β」は、これまでになかった両社間のカジュアルな繋がりをつくろうというところから始まっています。

最初は、業務時間を使って企画・運営、開催をしようと考えていたのですが、グループ会社であるという関係性もあって、ヤフーのほうからメッセージをトップダウンで出すのは、後にハレーションが起きてしまう恐れがあると考えました。

さらに、両社が扱っているプロダクトの差異から、フォーマルな交流のみに絞ってしまうと、業務に直接活かせないノウハウはトピックから排除されてしまう可能性がありますこれらを踏まえてまずは、カジュアルな意見交換の場をつくろうと考え直しました。その結果として、アンケートでも約95%が参加してよかったと満足した意見をいただきました。

ミートアップを考案した際は、フォーマルとカジュアルのバランスをどう取るかについて悩みましたが、カジュアルに振り切ったことでうまくいったと思っています。これが今後さらに文化の形成に繋がっていけば嬉しいですね。

社内でスキルを高め合える場を用意して「データ人材」を育てる

水田:社内のデータ人材の育て方について、皆さんのお話を聞いていきたいと思います。

天神林:まず、データ人材の定義そのものが難しいですよね。基盤を整える人、SQLを書いて分析する人、データを使って意思決定する人、どこまでがデータ人材だと呼べるのか。その認知の違いによって、お互いの役割が把握できない状況を生み出し、結果としてその利活用を推進する妨げになってしまいます。

そういったズレが生じることを防ぐために、「Z Data Meetup β」では実際に様々な部署の方に登壇していただき、どういう役割でどんな仕事をしているのかを語っていただいています。ミートアップの場は各部署の役割を再確認するきっかけとして機能していると実感しています。

もう一点は、育て方というより学び方に近い点です。対話を繰り返していくと、継続的に学習できるコンテンツもその場で蓄積されていきます。利活用の事例を整理しノウハウとしてまとめておくと後に取り組む人の教材にもなるし、その場の参加者が再学習するきっかけにもなると思っています。いまは他部署とも連携しながら、いつでも学習できるコンテンツとしても提供しています。

香川:現状MonotaROでは各部署にデータに詳しい人がいるので、その人を中心にスキルのボトムアップを行っていただくようにしています。そのためには、情報交換がスムーズに行われる「心理的安全性の高い空間」がキーワードだと思います。現状MonotaROでは、すでに社員間で形成されている心理的安全性の高いコミュニティーを活かし、部署横断的なそのうちの一部メンバーのスキルを高め、そこから情報交換の輪を広めていただくようにしています。

例えば商品部門内で、「データを活用することでこのような成果が出た」「BIツールを使って新しい形でデータを可視化できた」など、ノウハウの交換していただくための勉強会を開催し、全体のスキルベースを高めていく仕組みづくりを考えています。

水田:確かに実際に成果が見えるのもスキルアップのモチベーションになりますね。嶋村さんはいかがですか?

嶋村データを使ってものをつくる際はどんな進め方をするべきかを理解していただくために、データサイエンティスト協会のAIプロジェクトの進め方を参考に、フェーズごとにやることや進め方を資料にまとめています。社内から相談があったときに、その資料を提示しながら説明したり、プロジェクトを進める際は今どの段階にいるのかがわかるように説明できるようになっています。

最近では、試験的にAIやデータ、DXなどに関するeラーニングサービスを導入して、必要な部署や希望者に受けてもらっています。さらに、本当に興味がある人はどんどん受講していくので、キーパーソンの発掘にもなっていますね。

日々の行動の積み重ねがデータ文化を形成していく

水田:皆さんのお話を通して、データを活用する文化の形成や、社員のデータリテラシーを高めていくことの必要性が高いと実感しました。現場の課題感をどのように集めているかについてお聞かせください。

嶋村:データ活用に関して課題を持っている部署やメンバーとは、定期的にディスカッションするようにしています。そこで皆さんが抱えている疑問や課題感を吸い上げ、上層部に伝えたり、解決策を提案したりしています。そういった日常的な動きはデータ利活用に対する社員の心理的安全性の向上に繋がりますね。

香川:MonotaROでは社内向けに問い合わせ窓口を設けており、データそのものに関する問い合わせだけでなく、その周辺ツールの使用に関する相談も受け付けるようにしています。例えば、今社内でデータ基盤としてBigQueryを活用していますが、関連のGoogle Cloud Platformまわりのことに対して課題を感じているケースもあります。困りごとを個別に解決するのではなく、データを活用する目的や課題を聞き、そのために必要な知識を体系的に捉えて広げていくことが重要だと思いますね。

天神林:ヤフーには、データ利活用をして得た成果や知見を表彰する「データアワード」という制度があります。そのエントリーには成果だけでなく、データを利活用した背景や目的、アプローチなどが書かれています。「データアワード」という表彰式自体の実施はまだ1回目ですが、エントリーシートをナレッジとして貯めていくこともできるのではないかと考えております。

このような取り組みを実施することで、全社の様々な部署・サービスの課題を一箇所に集める事ができるんです。この部署の課題はあの部署のこういうアプローチで解決できるのではないかといったヒントにも繋がりますし、社内の優秀な人材を発掘するタレントマネジメントにも役立ちます。いわゆるデータに関する「総合案内所」的な役割を果たすことができるんです。こうした取り組みが、サービスだけではなく、全社的なデータリテラシー向上にも寄与すると思っています。

香川:データ文化をつくっていくにあたって、組織が現在どのような状況なのか、つくりあげていくために必要なピースは何かを整理する必要があります。それを踏まえた上で、どういうシステムを構築したほうが良いか、運用するためにどんなスキルを持った人材を集めるべきか、といったことを、ロジカルに一歩一歩積み重ねることが重要だと思います。

嶋村:社員一人ひとりが常にデータの存在を意識することだと思います。何かトラブルが起こったときに、それに関連するデータがどう変わったのかと、常に目を向けていくことが大事ですね。また、それを発見したときの知見を共有していくことも重要です。業務上よく起こる「当たり前」のことをそのまま受け流すのではなく、数値的、客観的、科学的に説明することで新たな発見に繋がります

天神林:社員一人ひとりが勉強会に参加したりと、ボトムアップで個人が行動に起こすことはとても大事だと思います。一方で、トップダウンのメッセージによってキャリアの偶発性を起こすことも必要かなと。トップダウンにアレルギー反応を示さず、ワクワク感をもって飛び込んでみるのも一つの手段だと思います。

自分から皆さんにお聞きしたいことがありますが、各部署からデータ利活用に関する相談が集まるとき、その優先順位付けをどうしているのでしょうか。

香川:データ活用のための課題感について、ヒアリングを定期的に行っています。どういう順番で解決していけば、一番効率的に課題が解決できるのか。時間をかけて慎重に解決策を探るようにしています。

嶋村:データ基盤を管理している部署や、データを活用している事業部のデータに詳しい人たちと常にコミュニケーションを取り、データを使って何をどうつくってほしいのか、理想の状態はどんなものなのかを把握するようにしています。さらに、先程香川さんがおっしゃったように、個別での課題解決にとどまらずに、解決事例を仕組み化し、より効率的に各所からの相談に対応できます。

今後チャレンジしたいことについて

水田:最後に皆さんが、今後チャレンジしたいことをひと言ずつお願いします。

嶋村:社会課題を解決しようとしたときに、既存の事業で生まれたデータだけでは解決につながらないときはたくさんあります。その際に、どんな仕組みを新たにつくらなければいけないのか、データの基盤としてどういうものが必要なのかを考えて実行することが求められます。僕は、データはつくり出すものだと思っていますので、これを当たり前にしていきたいですね。

香川:私もデータをいかに活用していくかだけでなく、データを生み出していくことも重要な観点だと考えています。現場の人たちが自律的に考えて行動できるための環境づくりに力を入れていきたいです。

天神林:ミートアップでいうと、各分科会みたいなものが自発的に立ち上がって、グループ会社間で知見や事例を共有し合える環境ができたら嬉しいです。また、グループ会社や社内におけるデータ人材に対する認知のズレをなくし、データを学べる場や横の繋がりをつくっていきたいと思っています。

文・馬場美由紀

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