2022年4月12日
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ドイツのSaarland UniversityとドイツのMax Planck Institute for Informaticsの研究チームは、手書きの要領で描くように電子回路を印刷できるハンドヘルドプリンターデバイス「Print-A-Sketch: A Handheld Printer for Physical Sketching of Circuits and Sensors on Everyday Surfaces」を開発した。ユーザーはデバイスをさまざまな表面に当て、自由に動かしながら電子回路を形成できる。手の動きや素材の特性に合わせてインクの量が自動で調整され、高品質な電子プリントが実現される。
ペンと紙による物理的なスケッチは、表現力豊かで創造的なデザインをサポートする。その一方で、プリンターを使った印刷技術は解像度の高い繊細な表現を可能にする。今回はこの2つの利点を組み合わせて、高解像度の電子回路を素早くフリーハンドでスケッチするための携帯型デジタルプリンター「Print-A-Sketch」を提案する。
従来の大型プリンターはコピーしたい紙をスキャンするだけで印刷できるが、これを手で持ってフリーハンドで印刷するとなると非常に難しくなる。手に持っているため、震えや揺れなどに対処しなければならないし、インクの吐出量を一定に保つ上でも問題になる。
他にも、行ったり来たりと反復的な描き方も考えられるため、電子回路が重ならないようにしなければならない。また表面にはさまざまな素材があり、導電性トレースに必要なインクの量も素材によって変化させなければならない。このように、手持ちタイプにするだけでさまざまな課題の解決が必要となる。
今回提案するPrint-A-Sketchは、これら課題を解決するために、高解像度インクジェットプリントヘッドと、デバイスの動きや表面の視覚的な質感、素材の特性を検知できる2つのセンサーを中心に設計する。プロトタイプは、主にハンドヘルドプリンター(下図の黄緑色のボックス)とハードウェア一式(Arduino、バッテリー、インクボトル)で構成される。ハードウェア一式はPCと接続される。
Print-A-Sketchでは、電子回路の印刷に適しているピエゾ式のインクジェット技術を利用している。今回は、Xaar 128プリントヘッドのカスタムセットアップを採用した。Xaar 128はコンパクトで軽量でありながら、さまざまな方向からプリントできるため多様な表面や形状へのプリントに適している。また、凝集性の高い機能的な回路を印刷するために重要な、高解像度(200×200dpi)の印刷が可能だ。
フリーハンドで電子回路をスケッチする場合、高速で動くと液滴が大きく広がり、端から端まで導電性のない不連続な軌跡ができる。一方でゆっくり動かすと、液滴が他の液滴と重なり画像のにじみや、場合によっては回路がショートしてしまう。Print-ASketchでは、フリーハンドの動きによってインクが不均一になる問題を解決するために、インクの吐出周波数をプリントヘッドの基板上の走行速度に合わせて正確に調整するアプローチを行う。
これを実現するために、デバイスの動きと表面の質感を捉えるためのRGBカメラと赤外線ベースのオプティカルフローカメラの2種類の光学センサーを組み合わせて、ハンドヘルドプリンターの底面に設置する。
オプティカルフローセンサーは、デバイスの移動速度、移動方向、相対的な向きを正確に記録する。センサーは、表面の画像を取り込み移動方向と速度を計算することで変位が測定され、そのデータがマイコンに送られプリントヘッドの発射回数や発射場所、印字方向の調整などの判断が行われる。
このセンサーは、印刷時の横方向の連続的な動きも検出できるため、フリーハンドによる手の震えや揺れなどのアーチファクトに対抗する機能も担っている。RGBカメラは表面の質感を検知する。これは表面の素材の特性を理解しインクの量を調整するために活用される。加えて、以前に印刷された電子回路の有無を認識するためにも使われる。電子回路の有無が分かれば、二度塗りを防げるだけでなく、一旦途切れた箇所から再度繋げて印刷の続きを容易に再開できる。
ユーザーは、ハンドヘルドプリンター上部に設置される有機ELディスプレイモジュールと、握った時の位置にある2つのボタンを駆使して操作する。上部のディスプレイは設定や各種パラメーターの調整時に使用される。
Print-A-Sketchでは、異なる特性を持つブラシを使用できる。例えば、トレース幅、スタイル(実線、破線、点線)、パターン(蛇行、ジグザグ)をデバイス上で選択しながらスケッチが行える。
ペンや鉛筆で希望の形状を描き、その上にデバイスを置いて移動させることでスキャンし、その後、コピー&ペーストの要領で別の場所に再印刷することもできる。
印刷中に角度を決定し、好きな角度の曲がり角を綺麗に形成するテクニックも使える。以前に印刷した回路の上を交差するように通って印刷してしまうとショートの懸念があるため、重ならないために自動で回避する機能が備わっている。RGBカメラで印刷されているかを検知し、避けて印刷できるなら迂回した印刷が行われ、それが無理なら回路に到達する前に一時停止する。
プロトタイプを用いた応用例として、4つの事例が紹介される。1つ目は、ヨガマットに動画の再生や早送りが操作できるボタンを印刷した。2つ目は、テーブルランプにオン/オフや色の調整ができるボタンを印刷した。
3つ目は、テーピングに直接印刷し肘などの関節に貼り付けて曲がり具合を計測できるようにした。4つ目は、濡れた際の水分量を計測するために床のタイルに直接印刷した。どれも異なる素材に直接印刷できており、活用の幅の広さを示した。
Source and Image Credits: Narjes Pourjafarian, Marion Koelle, Fjolla Mjaku, Paul Strohmeier, and Jürgen Steimle. “Print-A-Sketch: A Handheld Printer for Physical Sketching of Circuits and Sensors on Everyday Surfaces” CHI ’22 https://doi.org/10.1145/3491102.3502074
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