「絶対音感」は成人後でも習得可能か? 8週間の訓練で可能性を示唆【研究紹介】

2025年2月19日

山下 裕毅

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英サリー大学や香港中文大学などに所属する研究者らが発表した論文「Learning fast and accurate absolute pitch judgment in adulthood」は、絶対音感は成人になってからも習得できるのかを調査した研究報告である。

研究内容:約21時間の訓練を経て

絶対音感とは、外部の基準音なしで音の高さを正確に識別できる能力である。これまで、この能力を獲得するには特別な遺伝的素質と幼少期(臨界期)での音楽訓練が必須と考えられてきた。

そこで研究チームは12名の音楽家を対象に、8週間のオンラインコンピュータ訓練プログラムを実施した。参加者は平均21.4時間かけて1万5,327回の訓練を行う。訓練は「F」の音から始まって、徐々に他の音を追加していき、各音の音名を学習する形で進められた。参加者は新しい音を学習する際、90%以上の正確さで音名を識別することが求められ、制限時間は学習する音の数に応じて1,305から2,028ミリ秒の範囲で設定された。

実験では、単なる音の高さの記憶ではなく、真の絶対音感の習得であることを証明するための、厳密な方法が採用された。参加者は3オクターブにわたる同じ音名の音を学習し、テスト時には外部基準音の使用を完全に禁止した。また、連続する試行で提示される音の間隔を1オクターブ以上離すことで、相対音感による判断を困難にする工夫も施された。

訓練前、参加者の音名識別精度は、真の絶対音感保有者の精度よりもはるかに低かった。

一方で、訓練の結果、参加者は平均して7.08個の音(最少3音から最大12音)を90%以上の精度で識別できるようになった。訓練前と比較して正答率は128.1%向上し、誤差も42.7%減少した。さらに、この効果は訓練していない楽器の音色でも部分的に確認された。

▲絶対音感訓練における、12人の進捗
▲絶対音感習得の訓練前後における、訓練した音色(上段)と訓練していない音色(下段)それぞれの、正答率・誤差の大きさ・反応時間の変化を示したグラフ

特に注目すべき成果として、2人の参加者が全12音を高精度かつ迅速に識別できるようになったことが挙げられる。またその内の1人は24歳から音楽訓練を始めた非声調言語話者であり、これは、早期の音楽訓練が絶対音感獲得の必須条件ではない可能性を示唆している。

Source and Image Credits: Wong, Y.K., Cheung, L.Y.T., Ngan, V.S.H. et al. Learning fast and accurate absolute pitch judgment in adulthood.Psychon Bull Rev (2025). https://doi.org/10.3758/s13423-024-02620-2

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