2025年1月30日
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米国の音楽アプリ「Brain.fm」チームや米ウェズリアン大学などに所属する研究者らが発表した論文「Rapid modulation in music supports attention in listeners with attentional difficulties」は、音楽が注意力の維持にどのように影響するか、特に、特定の音楽の特性が注意力に困難を抱える人々にどのような効果をもたらすかを調査した研究報告である。
音楽は日常生活で集中力を高めるために広く使われているが、どのような音楽特性が注意力の維持に効果的なのかは、これまで明確になっていなかった。今回の研究チームは、音楽に特定の振幅変調(ここでは音量の周期的な変化)を加えることで、注意力の維持能力が向上することを発見したという。特に注目すべきは、この効果が注意力の困難さを抱える人々において顕著に現れると示唆している点である。
実験の過程で、83人の参加者を対象に持続的注意力課題(SART)を用いて、異なる3種類の音楽を聴きながらの作業(画面に表示される数字に対して素早く正確に反応する作業)パフォーマンスを測定した。参加者は、高速振幅変調の音楽(AM + Music)、低速振幅変調の音楽(Control − Music)、そしてピンクノイズ(Pink Noise)を様々な順番で聴きながらこの作業に取り組んだ。
その結果、高速振幅変調の音楽を最初に聴いた参加者は、他の条件と比べてより良好なパフォーマンスを示した。
脳活動の測定では、34 人の参加者を対象に、fMRIを用いて音楽を聴いているときの脳の活性化を観察した。その結果、他の条件よりも高速振幅変調の音楽において、注意力に関連する領域などのさまざまな神経ネットワークで活動が高まることが分かった。さらに40人を対象とした、EEGによる測定では、高速振幅変調の音楽と脳波の間で、複数の周波数帯域において強い同期(位相同期)がみられた。
最も興味深い発見は、振幅変調の効果が、注意欠如・多動性障害(ADHD)症状の傾向の強さによって異なることである。研究チームは、同じ音楽に異なる速さ(8Hz、16Hz、32Hz)の振幅変調を加えて実験を行った。その結果、ADHDのような症状が強い参加者は、特に16Hzの振幅変調を加えた音楽を聴いているときに、時間の経過とともにパフォーマンスが向上する傾向がみられた。
この研究の重要な点は、音楽による注意力のサポートが、単に音楽の好みや馴染み深さだけでなく、音響的な特性によって効果が異なり得ることを示したことである。特に、16Hzでの振幅変調が、注意力の維持が困難な人々に効果的であることが示唆された。通常の音楽にはあまり含まれないこの周波数帯域の変調を意図的に加えることで、注意力の維持を支援できる可能性が示された。
Source and Image Credits: Woods, K.J.P., Sampaio, G., James, T. et al. Rapid modulation in music supports attention in listeners with attentional difficulties. Commun Biol 7, 1376 (2024). https://doi.org/10.1038/s42003-024-07026-3
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