食べるだけでアルコールを高速分解できるゲル エタノールと一緒に毎日投与されたマウスの内蔵ダメージ減【研究紹介】

2024年5月16日

山下 裕毅

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スイスのETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)などに所属する研究者らが発表した論文「Single-site iron-anchored amyloid hydrogels as catalytic platforms for alcohol detoxification」は、食べるだけで血中アルコール濃度を大幅に低下させる、ゼリー状のハイドロゲルの開発について述べた研究報告である。

▲血中アルコール濃度を低下させるハイドロゲルの外観

研究内容

研究チームは、アルコール中毒の予防と治療に効果的な新しいアプローチとして、乳タンパク質由来のハイドロゲル「FeSA@AH」を開発した。ヨーグルトやチーズ製造時には、副産物としてホエータンパク質が発生する。このゲルは、ホエータンパク質のβ-ラクトグロブリンからつくられたナノファイバーと、鉄粒子により構成されている。

また、このゲルはアルコールを酢酸に分解できる酵素を模倣した構造をしている。この構造により、アルコールを毒性の強いアセトアルデヒドではなく、脂肪や炭水化物の代謝に重要な役割を持つ酢酸へと分解できる。加えて、ハイドロゲル化による高い粘弾性を持つことから、消化管内での滞留時間が延長され、アルコール分解効果が持続する。

研究チームは、マウスを用いた実験でこのハイドロゲルの効果を検証した。10日間自由にエタノールを摂取させたマウスに、ゲルを与えたところ、5時間後の血中アルコール濃度が55%以上、低下した。これは、ゲルを与えなかった対照群に比べて非常に速い減少である。

▲マウスを用いた実験の概要

さらに、ゲルを摂取したマウス群では、アセトアルデヒド濃度も大幅に低下し、アルコールの毒性が軽減された。また、10日間毎日アルコールとゲルを同時に摂取したマウスは、ゲルを摂取しなかったマウスに比べて、肝臓の損傷を軽減し、消化管への悪影響も最小限に留まった。また腸管バリア機能の低下や腸内細菌叢の異常も改善するなど、臓器の状態が非常に健康的であった。

これらの結果から、このハイドロゲルを飲酒前に摂取することで、アルコールの大部分が酢酸に変換され、血中へのアルコール移行と副作用が抑制される可能性が示唆された。また、アルコール依存症患者に対する治療法に大いに役立つ可能性も示された。

Source and Image Credits: Su, J., Wang, P., Zhou, W. et al. Single-site iron-anchored amyloid hydrogels as catalytic platforms for alcohol detoxification. Nat. Nanotechnol. (2024). https://doi.org/10.1038/s41565-024-01657-7

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