【EMの業務解剖】採用難が続くデジタル人材。効果的な採用業務のポイントとは?

2023年5月10日

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM

久松 剛

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito

エンジニアリングマネージャーの業務のうち、今回は採用業務について掘り下げていきたいと思います。採用対象や、選考フローに主眼を置きながらお話をしていきます。

デジタル人材採用を取り巻く現状

2010年代前半までは「採用は人事の仕事」と言われていました。しかし2015年頃からデジタル人材の需要が高まり、有効求人倍率が上昇。買い手市場から売り手市場にシフトし、企業側が候補者を口説きに行くという色合いが強くなりました。これに伴い、VPoEやEMが採用序盤に登場し、一緒に働くイメージを湧かせることができなければ採用できないという状況に繋がりました。

近年若手を中心に重要視される項目として「会社の雰囲気」があります。ところが、2020年のコロナ禍でリモート採用が定着してからは、オフィスに来社することも、オフィスで働いている風景を垣間見ることも難しくなってしまいました。

これにより、「会社の雰囲気=面接官の雰囲気」となり、感じの良い面接が重要な要素となったのです。

2022年になると、スカウト媒体の返信率が全体的に低下し、採用工数が実務工数を圧迫するようになります。同時にHRBPが開発部に組み込まれたり、エンジニアから人事にシフトする、いわゆる「ジンジニア(人事+エンジニア)」といった方々が採用業務の最前線に立つようになりました。つまり、再度人事が採用業務の多くを担うという流れに変わりつつあるのです。

このように、時々刻々と人事部門と開発部門が担当する割合は変われど、EMが採用の根幹に関わらなければならないことには変わりはありません。次に具体的な採用のポイントについてお話をしていきます。

誰を、どこで、どうやって採用するかを決定する

エンジニアを採用する、とひとことで言っても、WebシステムからIoT、AIエンジニアからインフラエンジニアに至るまで幅広い職種が存在します。加えて、正社員を解雇しにくい日本企業では、採用後のミスマッチが発生しないよう、カルチャーマッチするか、コミュニケーションスキルがあるかもしっかりと見なければなりません。

加えて採用には大きな金額が動きます。ことデジタル人材に関してはハローワークで入社決定している企業などはほぼ見かけません。人材紹介フィーも40%程度になりましたし、スカウト工数がかかるスカウト媒体ではRPO(採用代行)の選択肢もあります。

ここでは採用計画について特に重要な視点である予算、人物像、そして求人票についてお話をしていきます。

採用計画に基づき、予算を確保しよう

まずは、期初の予算の中に採用予算を入れましょう。

会社によって、開発人材の採用予算をどこにつけるかが異なる傾向にあります。全社で持つケースもあれば、開発部で持つケースもあります。正社員は全社につけ、業務委託は開発部につけるというケースもあります。

予算をつける上では採用チャネルを考慮する必要があります。人材紹介、スカウト媒体、ヘッドハンターと色々な採用チャネルがありますが、初期費用が発生するもの、月額費用が発生するもの、成果報酬型のものなど様々なものがあります。また、リファラル採用の場合はこれらに加えると安く済む傾向にあります。

採用計画が立てやすい新卒と異なり、中途採用は「縁」なのでいつ入社してくるかは分かりません。ボーナスのタイミングで入社が増える傾向は今でもありますが、年俸制の会社もあるため通年で転職が発生します。採用チャネルごとに計画するのは非常に難しいため、ざっくりと平均採用単価を算出し、入社目標人数を月単位で設定することで予算計画を立てる企業が多いようです。

人物像(ペルソナ)を決定しよう

エンジニアの採用にも色々な観点が存在します。スキルマッチやカルチャーマッチなどが代表的な観点ですが、組織によっては年齢が重要な要素であることもあります。

営業職が中心となって業績を伸ばしている会社によく見られる例をもとに解説します。プログラミングスクール生が学習している割合の高いRuby on Railsを核に開発をする方針を決め、SIerでJavaを書いてきた人をマネージャーとして採用。数名のジュニア層をチームにして組織化するパターンがあります。しかし、これはある程度サービスが伸びてきた際に、スケーラビリティやロバストネス、セキュリティが要求されてきたときに頭打ちになってしまいます。

ここのところChatGPTが話題であり、採用の文脈でも利用を試みる動きがあります。その中でもペルソナの整理に使う人たちがいれます。ChatGPTを活用してペルソナを整理するのは結構ですし、私もコンサルティングのフェーズで実施するのですが、整理すればするほどスーパーマンを求めていることに気づかされます。

理想の人材は市場にも少なく、自社の給与水準に合致するとも限りません。技術の進化に伴うキャッチアップが必要なトレンドの増加、そして世間的な給与アップもあって要求事項は年々高まっています。重要なのは要求事項を満たすスーパーマンを追い求めるのではなく、妥協ポイントはどこにあるのかの言語化と合意です。

妥協ポイントも含めてペルソナを整理し、そのペルソナに合致する人はどこに居るのか、そしてどのような試験をすると合致が確認できるかを考えていくようにしましょう。

候補者が働くイメージをもちやすい求人票を作成しよう

求人票はコーポレートサイト、人材紹介、スカウト媒体のいずれにも使われます。従来は待遇くらいしか書いていない無骨な求人票でも人は集まっていましたが、売り手市場の現在では、働くイメージを候補者に想起させないと応募に繋がりません。

大手人材紹介会社であれば、各社用の求人票フォーマットが存在します。これを一社一社埋めていくのは非常にコストが高まるので、一つできあがった求人票があればそれを人材紹介会社の担当者に渡してしまうことで代替するのも有効です。

働くイメージを候補者に持って貰うための求人票内容のトレンドは下記のとおりです。

特に必須スキルについては多すぎると候補者にとってプレッシャーとなり、募集数の低下に繋がります。3項目くらいが限度でしょう。歓迎スキルも同様で、多すぎると「実は必須なのではないか」という応募者の懸念に繋がります。「こんな人が向いています」という項目にはマインドや姿勢を記入しておきましょう。選考過程でどうしても自社にとって譲れないものがあればここに記載します。

まず、社内で選考プロセスを決定する

実際の採用に向けて選考プロセスを決定しましょう。選考プロセスの決定は、応募意思が獲得できた状態でお会いできるのか、それともこれから獲得する必要があるのかで分かれます。

スカウト媒体やリファラル採用の場合、応募意思の獲得ができていない状態からお会いすることになります。そのため、必要なのは自社やサービスに興味をもって貰うことを目的とするカジュアル面談の機会です。カジュアル面談の段階で、候補者に選考を感じさせてしまうと、相手が身構えてしまうため、その後に続く書類選考や一次面接と線引きして扱うことが重要です。

応募意思が得られると一次面接や技術試験、役員面接などに繋がります。どの選考フローで誰が担当者として立ち、どの観点で合否を出すのかを、予め社内で合意形成をしましょう。譲ることができない観点を整理し、選考過程で確認できたかのチェックをするようにしておくことも必要です。

選考に当たっては企業側で配属先チームを想定しながら進めることもポイントとなります。面接官が自チームに合わないと感じても、他のチームでアサインが可能な場合もあります。候補者情報を他部署に連携できる仕組みづくりも検討しましょう。さらに、候補者に対しての失礼な言動や態度は企業のイメージダウンに繋がりますので、面接官教育が重要となります。

これらの選考フローが見えてくると、内定を出すまでにどの程度の時間やステップが必要なのかを概算することができます。人によっては選考ステップが増減することもありますが、選考期間の目安を求人票に反映しておくことも有効です。

選考にあたって、候補者から企業側に対する質問(いわゆる逆質問)があります。FAQを事前に作成し、人事を交えながら社内レビューを通すようにしましょう。このFAQは非常に重要で、面接担当者が実態とは乖離した回答をしてしまうことによるトラブルも多く発生します。平均残業時間、働き方、給与の上がり幅、リモートワークの方針などは特に入社後にトラブルに発展しやすい項目です。

KPI、目標をどう設定するか

「採用の成功」とは人事界隈でよく耳にするワードなのですが、「成功」とは何でしょうか。採用担当や採用に関わる人材のKPIとして、内定承諾数を設定するケースがありますが、これはおすすめできません。達成するためにオワハラ(就活を終われと迫るハラスメント)や、虚偽の情報で内定承諾を得ることで入社後にトラブルになったり、選考を甘くしてしまうことで活躍が難しい人材が入社するケースもあるからです。

採用が成功したとは、入社後ではなく、オンボーディングしてから半年〜1年ほど経過し、対象者が活躍し始めたときに初めて語ることができるものです。理想は当初内定を出したときの役職から出世することです。これは分かりやすく「内定を出した際の期待値を越えることができた」と言えます。

一般的な評価制度は半年程度で見直されるため難しくはありますが、入社後の人材の定着や、活躍を軸にKPI設定をするのが採用に関わる人たちの理想型だと考えています。

業務委託や副業人材と契約する際の注意点

正社員採用はどうしても候補者のキャリアプランや現職との引き継ぎなどが発生するため、欲しいタイミングで人が来るとは限りません。この傾向は年々顕著になっています。そのため、SESやフリーランスに準委任契約で入場して貰うという業務委託の選択肢が現実的となります。

選考ステップは短い傾向にあり、初回は単月、以降は3ヶ月契約などとすることで、スキルミスマッチやカルチャーミスマッチ時の損失は正社員より低くなります。ミスマッチは少なければ少ないほど良いのですが、稀にあるケースとして人物的に問題があり、故意の情報漏洩や倫理的な事故が起きる場合があります。業務委託による採用の場合でも、自社で譲ることができない質問項目をまとめて置くことをおすすめします。

また、過去入場者で良かった人は、退場後も連絡が取れるように契約元としっかりコミュニケーションを取ることも重要です。私の過去の経験では実際に再入場して頂いたことも複数あります。スキルマッチ、コミュニケーションマッチする人はそもそも珍しいですし、オンボーディングコストも低いというメリットもあります。

近年では副業人材も一般化しています。副業を経由しての正社員転職(副業転職)によってスキルマッチやカルチャーマッチを更に図るということも期待されています。副業人材をスポットでの労力として位置づけだけでなく、よりELTV(Employment Life Time Value) を伸ばす観点での採用チャンネルとして捉えることも重要になってきています。

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