【新連載・EMのすべて】リーダーシップに育成力。就任・任命前に知っておきたい、エンジニアリングマネージャーの適性を解説

2023年4月5日

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM

久松 剛

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito

採用、定着、活躍、評価。開発組織の課題が明らかになり、大きくなってくると企業はエンジニアリングマネージャーを求めることになります。新規に採用することもあれば、社員を登用することもあります。

多様な組織規模の会社さんで開発組織を見てきましたが、今回はエンジニアリングマネージャーに向いている人についてお話をします。エンジニアリングマネージャーに就任する前や、任命する前のチェック項目としてもご活用ください。

リーダーシップ発揮経験とマネジメントへの興味があるか

リーダーシップとマネジメントは能力としては異なります。

リーダーシップとは集団をまとめ、目的に向かって導いていくことです。一方のマネジメントは組織管理、組織運営を指します。リーダーシップとマネジメントの違いに留意をしながらお話していきます。

リーダーシップ発揮経験の有無

総合職の新卒採用などをしていると、大手学生団体で何人も「副部長」が量産される事態があります。リーダーシップを発揮していたという象徴が「副部長」という肩書きであると信じ、履歴書や面接でアピールすることによって起きている珍現象です。

この際、注意すべきはリーダーシップは集団をまとめた経験があれば良いため、肩書きが必ずしもリーダーである必要はないということです。

組織・人材マネジメントの研究者である中原淳氏と田中聡氏の共書『「事業を創る人」の大研究』では、新規事業を任され、成功した人のバックボーンについてアンケート調査を行っています。その結果によると、成功者には下記のような傾向が見られたとのことです。

    • ・授業におけるリーダーシップ発揮経験がある人は、ない人の5倍存在
    • ・ゼミにおけるリーダーシップ発揮経験がある人は、ない人の3倍存在
    • ・アルバイトにおけるリーダーシップ発揮経験がある人は、ない人の3倍存在
    • ・部活におけるリーダーシップ発揮経験がある人は、ない人の2倍存在

部活などよりも実務に近い形でプロジェクトやグループワークなどにおいて、食い違う意見を整理しながら物事を前に進めていくような経験があるのがいいと言えます。選考時は、面接や既存社員との1on1などで、上記に該当する経験の有無やその内容をチェックしておくと良いでしょう。

マネジメントはヒトへの興味からか

コンピュータが好きか、ヒトが好きかということが、マネジメント適性の有無を図る最初の分かれ目になります。コンピュータはロジックが通れば文句を言わず24365(24時間365日)で動いてくれます。一方のヒトは24365で働いてくれないものの、拝み倒せば多少ロジックがおかしくても動いてくれることがあります。

私自身、情報系を志したときは自分が寝ていても経済活動をし続けてくれるコンピュータの素晴らしさに感化されました。しかし、徐々にヒトを動かして自分一人ではできない規模のプロジェクトを回す面白みや、ヒトの意思決定の傾向と対策に興味を示すようになりました。

エンジニアリングマネージャーをしていて、苦しくなってきた方たちに共通するコメントとして、「コンピュータを相手にする方が素直で楽」というものがあります。ゆっくり休んでまた戻ってきてください!…と、言いたいところですが、対人業務で頭を悩ますということは、あまりピープルマネジメント業務に向いていないかもしれません。翻っていうと、理不尽さばかりのヒトの集団を面白いと思えると適性があると言えます。

大企業を除き、求められるスキルの現役感

「エンジニアリングマネージャーの役職は、エンジニアを諦めていない人にお願いしたい」と言われる傾向にあります。というのも、開発組織が20名を越えてくると専任者が必要ですが、それまでは実装者としての動きも求められやすいためです。いわゆるプレイングマネージャーのような立ち位置が期待されるといえます。

加えて、エンジニアの評価面談時にも「まったくソースコードを書いていない人に技術の側面から評価を受けたくない」というエンジニアは一定数存在します。この点からも、開発組織が小さいうちは、エンジニアマネージャーにはスキルに現役感があることが求められるでしょう。

事業への興味と高い視座

エンジニアリングマネージャーは採用時や入社した社員の事業理解の促進についても責任を負うことがあるため、ビジネスサイドやユーザー像に対する知識も必要です。

  1. 1. CTO/VPoE/EMクラスの方が転職してエンジニアに戻る
  2. 2. ビジネスサイドと開発サイドの橋渡し役が不在であり、プロジェクトが上手く回っていないことに気づく
  3. 3. 間に入り調整を始める
  4. 4. 自身の立ち位置を「BizDev」と名乗る

昨今、ベンチャー界隈で複数件、このような流れが見られます。

かつて中間管理職だった経験から、ビジネスサイドと開発サイドの事情を加味しながら事業推進ができるようです。これもまた、ピープルマネジメントのひとつであり、企業によってはエンジニアリングマネージャーが担当している企業もあります。

ある企業で「プロジェクトマネージャーがうまく動いてくれない」という話がありました。この問題の解決策として、プロジェクトマネージャーの周りの人間関係に関する調整はエンジニアリングマネージャーが担当することに。プロジェクト進捗についての責任はプロジェクトマネージャーが負い、ピープルマネジメントに関する責任はエンジニアリングマネージャーが負うという発想です。

事業への理解はもちろん、事業を発展させるためにエンジニアとしてなすべきことの設定、それを社内に浸透させる活動について意義や必要性を感じ、取り組みたいという高い視座と前向きな姿勢が必要です。

リーダーやマネージャーの素養と適性がある人材を発掘し、育てる

株式会社オーネットが毎年600名前後の新成人を対象に実施している「新成人意識調査」に、仕事意識に関するアンケート項目が存在しています。「会社の中では出世したい」という設問では、2006年の20歳では62.0%が「はい」と回答しましたが、2008年には35.8%、2010年には32.9%、2015年には25.7%まで低下します。

この変化が起きた原因として、1992年に小学校教育が「新学力観」に基づく個性尊重教育にシフトしたことが考えられます。1992年に小学1年生だった人は新成人意識調査の2006年の20歳に相当します。

それまでの小学校教育はチーム一丸となって成果を出すというものでした。そのため、リーダーシップを発揮する経験も比較的多くありました。部活動の加入なども以前は強制でしたが、今ではそのような学校も少なくなりました。それが新学力観によって機会を失い、リーダーシップ発揮経験の機会も減ったと考えられます。

出世することで給与が上がるというのが一般的な日本企業の給与制度です。現在では「出世をして数千円しか昇給しない一方で責任が増えるのは嫌だ」「出世を打診されたので辞めます」と出世を嫌がる方も少なくありません。今では転職や副業をした方が効率よく稼げるということも一因として考えられます。

特にマネージャーや部長などの中間管理職ポジションは、世間一般で楽しそうな顔をして仕事をしているマネージャーが非常に少ないという傾向があります。「折を見てメンバーに戻りたい」と考える中間管理職も散見されるほどです。

こうしたことから、リーダーやマネージャーというポジションに対して興味を持ったり、打診した際に嫌がらない人材は、年々減少していくと考えて良いです。

人材不足の昨今において、外部からのマネジメントができる人材の調達もいつになるか分かりません。だからこそ、社内で素養がある人材を常にチェックし、目をつけて育成していくことも組織にとってまた必要なのです。

関連記事

人気記事

  • コピーしました

RSS
RSS