シールみたいにペラペラな「布製太陽電池」、厚さ0.05mmで発電量は従来の18倍 米MITが開発【研究紹介】

2022年12月16日

山下 裕毅

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米Massachusetts Institute of Technology(MIT)に所属する研究者らが発表した「Printed Organic Photovoltaic Modules on Transferable Ultra-thin Substrates as Additive Power Sources」は、丈夫で軽い布に接着した、髪の毛よりも薄くて軽い太陽電池(太陽光発電)を提案した研究報告である。従来のソーラーパネルの100分の1の重さで、厚さ0.05ミリメートル、キログラムあたりの発電量は従来と比べて18倍。薄くて軽いため、ほとんどの素材に取り付けて電源にすることが可能だという。

▲従来の太陽電池に比べて約100分の1の重量で、厚さ0.05ミリメートル

研究背景

従来のシリコン太陽電池は壊れやすいため、ガラスで覆い、重くて厚いアルミフレームで固定する必要があり、設置場所や設置方法が限定されていた。薄くて軽い太陽電池が開発されれば、衣服や皮膚に貼る、小型ドローンに搭載する、軽量ヨットの帆に取り付ける、災害復旧活動で使用するテントやタープに貼り付けるなど、用途の幅が各段に広がる。

そのため薄くて軽い太陽電池が求められており、これまでにもいくつもの研究が報告されてきた。だが、その多くは生産コストが高いため広い面積への拡大が難しかったり、発電量が少なかったりなど、薄くできても課題が多かった。

研究内容

本研究では、これらの課題に挑戦するため、印刷可能な導電性インクと布製品を組み合わせた丈夫で薄型でありながら、高い発電量の太陽電池を提案する。

製造プロセスでは、スロットダイコーターを使って太陽電池の構造をスクリーン印刷によりコーティングする。スロットダイコーターは、厚さわずか3ミクロンの基板に電子材料の層を蒸着できるマシンである。スロットダイコーターを使って、電極を構造体に蒸着させ、太陽電池モジュールを作る。その後、厚さ約15ミクロンのプリントモジュールをプラスチック基板からはがし、超軽量の太陽電池を形成する。

▲シールのようにペラペラの太陽電池

しかし、このままの太陽電池は薄すぎて取り扱いが難しく、簡単に破れてしまうため、研究チームは太陽電池を接着できる軽量で柔軟、かつ強度の高い基材を探した。その結果、機械的な反発力と柔軟性を備え、かつ重量がほとんど増加しない布地が最適なソリューションであると判断した。

その布地とは、1平方メートルあたりわずか13グラムの複合繊維「ダイニーマ」(市販名)である。ダイニーマは、地中海で沈没した客船「コスタ・コンコルディア」を吊り上げるロープとして使われたほど強度の高い繊維でできている。この布に、厚さ数ミクロンの紫外線硬化型接着剤を塗り、先ほど仕上げた太陽電池を貼り付ける。この加工で厚さは増すが、丈夫な太陽電池が出来上がる。それでも厚さ約50ミクロン、重量1グラム以下である。

▲どんな表面にも貼り付けることができる超薄型・軽量の太陽電池

実証実験

研究チームが発電量の試験を実施した結果、ダイニーマなしの場合だと1キログラムあたり730ワット、ダイニーマに展開した場合は370ワット程度と、従来の太陽電池の約18倍もの発電量が得られた。超薄型なのに従来の太陽電池を凌駕したのだ。

また耐久性試験も行い、太陽電池を500回以上丸めて広げても、初期の発電能力の90%以上を維持できることが示された。さらに、今回の布製太陽電池は広い面積の製造が可能な印刷プロセスなため、広範囲に広げた太陽電池の製造を可能にする。

Source and Image Credits: Saravanapavanantham, M., Mwaura, J., Bulović, V., Printed Organic Photovoltaic Modules on Transferable Ultra-thin Substrates as Additive Power Sources. Small Methods 2022, 2200940. https://doi.org/10.1002/smtd.202200940

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