【解説】アメリカ発「TikTok禁止」論争の現在地【テッククランチ】

2023年4月21日

執筆者

Taylor Hatmaker

TechCrunchのシニアエディター。ソーシャルメディア、ゲーミング、カルチャー分野を担当。Daily Beast、Daily Dot、ReadWriteWebでもエディターを務めた。

アメリカでTikTokの利用禁止が迫っている。ここ数年世界を席巻し、カルチャーのあらゆる側面を変えてきた、大ヒットの動画共有アプリの敗北のように見えるかもしれない。

現在、不確定要素は多いものの、TikTokをめぐる状況は封印からほど遠い。複雑でわかりにくく、絶えず変化しているTikTokをめぐる状況について、よくある質問とその答えを以下にまとめた。

米議会で何が起こったのか

TikTokの最高経営責任者(CEO)のShou Zi Chew(ショウ・ジ・チュウ)氏は3月23日に米議会で証言し、中国がTikTokを利用してアメリカの安全保障を脅かすという懸念をめぐって、5時間にもおよぶ議員からの激しい質問に耐えた。TikTokは中国のハイテク大手ByteDance(バイトダンス)が所有しているサービスで、この点でTikTokはアメリカに本社を置く他の大手ソーシャルメディア企業とは異なる。

公聴会の冒頭、チュウ氏は「このことを明確に申し上げておきたい。ByteDanceは中国やその他の国のスパイではない」と述べ、さらに、議員らを安心させるために公聴会の間この言葉を繰り返した。

ただ、国家安全保障への懸念は議員らがTikTokについて表明した気掛かりのひとつにすぎない。下院エネルギー商業委員会の委員らも、このアプリの摂食障害に関するコンテンツやバイラルチャレンジ、10代の若者のソーシャルメディア中毒を防ぐという建前だけのツールなど、さまざまな問題に対して疑念を投げかけた。主に脆弱な未成年ユーザーを念頭にしているこれらの懸念は確かに深刻なものだ。一方、InstagramやYouTubeといった、アメリカのソーシャルメディア企業も抱えている課題である。

多くの点において、TikTokの公聴会は、近年ほかのハイテク大手のCEOが臨んだ公聴会と同じようなものだった。議員たちは概してこれ見よがしに攻撃的な言葉でポイントを稼ぐことに時間を費やすだけで、TikTokやByteDance、あるいはそれらの事業に関する新しい情報をほとんど掘り起こすことはなかった。結局、この公聴会はTikTokのアメリカ内での運命を左右するものではないが、同社がこの最大市場で直面している逆風を知る有益なバロメーターにはなっているだろう。

なぜTikTokを禁止するのか

アメリカでTikTokを禁止する取り組みはトランプ政権時代に始まり、バイデン政権がそのバトンを受け取った形になる。

ここ数カ月、バイデン政権や議会、アメリカの多くの機関が国内外で定期的に人気アプリチャートの上位に入るTikTokについて警鐘を鳴らしている。TikTokが保管しているアメリカ人ユーザーのデータを中国が活用したという公的な証拠はないが、それでも米政府は、中国がその気になればデータを活用することができる可能性を強調している。

連邦捜査局(FBI)のクリス・レイ長官はこのほど、中国政府がTikTokが収集したデータに干渉する決定をしても、表ではわからないかもしれないと、米当局者の不安を端的にまとめる形で警告した。「我々の国では民間部門と公共部門の区別があり、それは非常に神聖なものだが、その境界線は中国共産党のやり方には存在しない」とレイ長官は述べた。

TikTokユーザーはどう思っているか

アメリカがTikTokを禁止する、または事業売却を強制すると脅していることを考慮すると、レイ長官のコメントや公聴会での同様の主張は多くのTikTok愛用者の感情を逆撫でする可能性がある。

コロラド大学ボルダー校で技術倫理を教える、とあるTikTokのクリエイターは公聴会の後、「指摘するリスクは完全に推測にすぎない。今ソーシャルメディアで問題になっているほかの事象より実質的にどう悪いのか、私にはよくわからない。ただ政府が注意を向けていないだけだ」とTechCrunchに語った。

多くのクリエイターが、TikTokのコミュニティ(場合によっては基本的な機能)を理解しようとする努力を大してせずに、TikTokの運命を左右しようとする議員に対する不満を表わそうとTikTokに集まった。

TikTokは3月に、アメリカだけで1億5000万人以上のユーザーを抱えていることを発表した。この巨大なユーザーベースはTikTokの人気と文化的影響の大きさを示しており、その影響力は大きくなりつつあるようだ。チュウ氏が公聴会に出席する直前にこの統計を発表したことで、TikTokはお気に入りのアプリが突然国内で使えなくなった場合どれだけ多くのアメリカ人が困るかを誇示した。

懸念は正当なものか

中国政府がTikTokを、アメリカ人のデータにアクセスするための「トロイの木馬」として利用する計画だという非難は事実無根かもしれないが、ByteDanceがプライバシーについてあまり真剣に考えていないと信じるに足る理由はある。

TikTokは昨年12月、ByteDanceの社員が内部リークを取り締まるために、アプリを通じてジャーナリストのIPアドレスを追跡していたという報道を認めた。ByteDanceの社員4人は解雇されたが、この事件は外国の規制当局と信頼関係を築きたい同社にとっては尾を引いている汚点だ。この件は米司法省が捜査を始めるきっかけにもなった。

昨年の別の報道では、中国在住のByteDance従業員が、アメリカのユーザーデータに定期的にアクセスしていたことが判明した。同社の主張とは矛盾した事実に、データプライバシーに関するTikTokへの信頼は失墜した。

このようなプライバシー面での過失に加え、中国政府が国内で活動する民間企業に多大な影響力があるという事実もある。中国政府は戦略的に一部の企業に出資して取締役会の席を確保し、水面下で意思決定に影響を及ぼしている。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは中国政府のこの慣行に関する最近の報道で、「企業に選択肢はほぼない。株式を求める政府機関に株式を売却することは事業を継続する上で極めて重要だ」と指摘している。

TikTokが完全に独立しているように見せかけようとする一方で、中国はTikTokに対して持っている権限をアメリカに思い起こさせようと躍起になっている。中国政府は3月に、2020年後半に改正された中国の輸出規則に反する行為だとして、強制的な事業売却に反対すると主張した。

繰り返しになるが、中国がTikTokの業務に干渉しているという証拠はない。また、中国がアメリカ人に関する有用なデータを得るためにTikTokに直接アクセスする必要はないと強く主張している。

TikTokは他のソーシャルメディアアプリと同様に、ユーザーに関する膨大なデータを保有している。そしてアメリカには連邦レベルのデータプライバシー保護法案がないため、企業はアメリカ人の位置、行動、属性に関するあらゆるデータを自由に売買し、最高の対価を支払う者に売ることができる。

TechCrunchのエディター、Zack Whittaker(ザック・ウィッタカー)は、アメリカの消費者を保護するための適切な法律は、TikTokをめぐる現在の動きよりもさらに踏み込んだものだと正しく論じている。

中国とデータを共有できる企業はTikTokだけではない。何千ものアメリカアプリや企業が私たちの情報を広告主やデータブローカーと共有しており、これらもそうしたデータを中国にさらしている。これは主にスタートアップから権威主義的な政権まで、データを欲する者とデータの共有や売却を抑制するものが存在しないからだ。

今後どうなるのか

中国政府の最近のコメントとTikTokの発言からして、同社が新しい所有者に事業を売却するというアメリカの提案に同意する可能性は低いだろう。同社はまた、当時のトランプ大統領の要請で行われた同様のお膳立てが最終的に崩壊したことを十分承知している。

TikTokの広報担当者であるMaureen Shanahan(モーリーン・シャナハン)氏はTechCrunch+に「国家安全保障を守ることが目的であれば、売却しても問題は解決しない。事業の所有者が変わってもデータの流れやアクセスに新たな制限を課すことはない」と述べた。

もし同社が売却を承諾した場合、頓挫したトランプ政権時代の取引を引き継ぐのではなく、おそらく最初からやり直す必要があるはずだ。そのプロセスは長く、複雑なものになる。

バイデン政権では、Oracle(オラクル)との取引は同社の共同創業者Larry Ellison(ラリー・エリソン)氏が支援していたトランプ政権下で行ったように、政治的特典をもらえるものにはならならないだろう。もしバイデン政権がTikTokのアメリカ事業の監督権をアメリカの企業に与え、新たな契約を結ぼうとする場合、2024年にバイデン氏が政権を失えば、すべてが再び崩壊する可能性がある。

強制売却の道がうまくいかなければ、TikTokの禁止はおそらく法律または執行命令の形で行われる可能性がある。しかしその手続きは長く面倒なもので、数多くの法的問題が発生する可能性があるため、すぐにTikTokへのアクセスが制限される可能性は低そうだ。

議会での最近の禁止措置の動きは順風満帆に見えるが、Rand Paul(ランド・ポール)上院議員(共和、ケンタッキー州選出)やAkexanndria Ocasio-Cortez(アレクサンドリア・オカシオ・コルテス)下院議員(民主、ニューヨーク州選出)など、アメリカの取り締まりに反対する声も出てきている。3月の最終週にポール氏はJosh Hawley(ジョシュ・ホーリー)上院議員(共和、ミズーリ州選出)によるTikTokを禁止する法案を早める試みを阻止し、禁止は憲法修正第1条に違反すると主張した。

禁止法が議会で実現しようが、ホワイトハウスで実現しようが、裁判所を経由する必要があり、最終的には裁判所が判断を下すことになる。トランプ前大統領時代のTikTok禁止令が示唆するように、TikTokはそうしたプロセスで優位に立つことができるかもしれない。

TikTokはトランプ政権時代にTikTokを禁止するアメリカの大統領令に対する複数の異議申し立てで勝利した。そのうちの1件はTikTokのクリエイターのグループによるものだった。クリエイターらは、禁止令は実体を欠き、禁止で収入を失うことになると首尾よく主張した。異議申し立てが相次いだ後、最終的にバイデン政権はトランプ時代の大統領令を取り消したが、このことは大統領令による禁止という路線への警鐘となるはずだ。

ByteDanceはこのような試練を乗り越えつつも、チャンスをうかがって他の事業に取り組みを広げている。ByteDanceが所有する独立したビデオ編集ツールCapCutはApp Storeの人気チャートで3位につけている。また、賢くもタイミングよく投資した結果、ByteDanceが運営するInstagramのライバル、Lemon8がApp Storeのトップ10に初めてランクインしたのだ。

From TechCrunch. © 2023 Verizon Media. All rights reserved. Used under license.

元記事:What’s going on with the TikTok ban?
By:Taylor Hatmaker
翻訳:Nariko

関連記事

人気記事

  • コピーしました

RSS
RSS