中国におけるインターネット医療の現在地。アリババに続くEC大手JD.comが展開するインターネット医療戦略を解説

2022年10月17日

中国アジアITライター

山谷 剛史

1976年生まれ、東京都出身。2002年より中国やアジア地域のITトレンドについて執筆。中国IT業界記事、中国流行記事、中国製品レビュー記事を主に執筆。著書に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』(星海社新書)『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンククリエイティブ)など。

インターネット医療市場において、京東健康が頭角を現す

アリババに続く中国のEC大手「京東(JD.com/読み:ジンドン)」には、「京東健康(ジンドンヘルス/以下:JDヘルス)」というインターネット医療事業を行う子会社がある。アリババもまたインターネット医療を行う企業「阿里健康(アリヘルス/以下:アリヘルス)」があり、ともに「BATH」と呼ばれている中国のIT巨頭「騰訊(テンセント)」と「百度(バイドゥ)」も医療事業を展開している。中でもJDヘルスとアリヘルスは、業界トップシェアを競い合う関係にある。

▲京東健康が運営するECサイト

JDヘルスのインターネット医療事業は多岐にわたる。薬や医療機器などを扱うECサイト運営が稼ぎ頭で、これはアリヘルスも同様だ。稼ぎ頭のEC事業だが、個人向けに医薬品を販売するだけでなく、病院や薬局に向けて医療用消耗品や医療機器、医局用のオフィス文具なども販売する。

▲栄養食品の購入相談サービスのイメージ

AIやオンラインを駆使したさまざまな医療サービスを展開

EC事業以外では「これぞインターネット医療」というところに個人や企業向けのオンライン診察が可能なインターネット病院事業がある。インターネット診療のメリットは、医師の稼働効率が良くなること、それにいつでもどこからでもすぐ相談できるというという点にある。利用者は自己判断で「対話型AIロボットに相談」か、「医師に相談」かを選べられて、AI相談を選んだ場合、まずAIロボットに病状を話し状況整理、そこから医師に聞く必要があるかそこまでする必要がないかを判断する。このワンステップで、医師の診断が必要な人々に医師のリソースを集中的に割りあてられる。

フードデリバリーや配車のスタッフのように登録した医師が待機しているので、24時間いつでも、アプリを起動すれば各診療科の医師に相談することができる。ちなみにオンライン診断の相場は10〜20元(約400円)で、スペシャリストの医師になると100元(約2000円)以上となる。デジタル処方箋を発行することで、JDヘルスやアリヘルスのECサイトから処方箋に応じた薬を購入することが可能だ。また、薬の購入についても同様に、薬剤師との対話サービスも登場した。本当にお勧めの薬は何かを、個人や薬屋のスタッフが問い合わせることを想定している。

▲アプリで薬剤師に薬について相談することもできる

そのほか、高齢者や成人病対策のサービスも開発している。たとえば、北京市が高齢者の健康促進事業をJDヘルスと提携して、高齢者向けに健康食品販売サービスを提供している。中国では数年前から、悪意のある者が高齢者に対して高価かつ効果のない健康食品を売りつけることは社会問題になっているので、正しく効果的な健康食品を販売する窓口をつくることにも意味があるとのこと。

インターネット医療事業はほかにも、病院で発生する作業のDX化を推進する事業が展開されている。病院向けにはインターネット受付の提供、企業向けにはオンライン診療や健康管理サービスの提供、さらに、医学の研究開発のためのビッグデータ収集・販売、レントゲン画像を判断するAIの開発も行われている。

▲肝臓病感染病センターなど診療科に特化したセンターの構築も発表されている

毎年5割の伸びを見せるインターネット医療市場

現状、医薬品販売のオンライン市場規模は中国全体の市場から見れば小さいもので、2021年のオンライン市場はまだリアル市場の1割程度だ。とはいえ、リアル店舗の市場では毎年1割前後の伸びであるのに対し、オンライン市場は毎年5割前後伸びている。すぐにオンラインでの医薬品販売が主流になることはないが、毎年その存在感は大きくなっているわけだ。

JDヘルスが直近で発表した決算の2022年中期業績報告によると、2022年上半期の総収入は202億元(約4040円)で、前年同期比で48.3%増と、売上面では好調だ。ジンドンは自前で医薬品の倉庫20カ所と非医薬品の倉庫450カ所を抱え、一部の商品はここから発送する。毎年の11月11日に行われる中国のメガバーゲンセールでは、独自の物流網を使い他社よりも滞ることなく荷物が届くと評判だ。そのイメージを持っている消費者は医薬品購入でもJDヘルスを選ぶということもあるだろう。

中国のインターネット診療はこの2年で急激に増えた。2020年始、新型コロナウイルス感染者が武漢をはじめとした湖北省各地で増えたときには、インターネット医療を提供し、場所によっては無料でサービスを提供し、社会認知とブランド好感度を高めた。2022年6月末でのJDヘルスアクティブユーザー数は2,270万人増の1億3,100万人、インターネット医療利用者数は一日平均25万人を超えた。

利用者に偏りがある。オンライン診療にいかに慣れてもらうかが拡大のカギ

ところで、インターネット医療はどんな層に多く利用されているのか。中国紙によるJDヘルスのインターネット診療担当者への取材記事では、「100人の問い合わせ者のうち、90人以上が女性」と書かれている。夏の猛暑で子供の相談をするために、小児科のオンライン診療に受診する女性ユーザーが数倍にも上昇しているという。心配なときにサッと専門の医師とビデオチャットで写真やテキストをやりとりできるので安心なわけだ。また、成人病患者などの継続的な経過観察が必要な患者が受診をオンラインで済ませたり、ゆっくり会話ができ病院や医師を選べることから外国人にも歓迎されたりしているという。

ちなみに、JDヘルスとアリヘルスは競合関係にあると前述では伝えたが、どうもインターネットの反応を見ると、JDヘルスのほうが評判がいい。ジンドンは自社で物流網を構築しているため、どんなときもそこそこ早く注文商品配達してくれるという安心感がある。さらに、各地の薬局チェーンや製薬会社と提携し、ニセモノを販売しないだろうという信頼感があるようだ。

▲住宅地に展開されるリモート医療センター

JDヘルスは、薬局と倉庫と診療室を大都市を中心に展開しており、さらに住宅地にネット端末や血圧計を備えたリモート診療所を設置し、ネットリテラシーの低い人を相手に、インターネット医療を利用するための窓口を設置する取り組みも行われている。これらの窓口を通して、医薬品を買う際にアプリを開き、体調が悪いときもとりあえずアプリを開く、そうやってインターネット医療に慣れていく人も多くなりそうだ。

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