25歳、元メルカリのテックリードが挑むエンジニア採用のミスマッチ。コーディング試験のSaaS化が成す最高のCXとは

2021年7月12日

株式会社ハイヤールー 代表取締役兼CEO

葛岡 宏祐

1996年生まれ、京都府出身。バックパッカーとして世界一周を経験後、独学でiOSのアプリを開発。旅行アプリ『AminGo』をリリース。2018年にAIエンジニアとして株式会社DeNAに入社し、数々のイベントに登壇。2020年2月、画像検索プロジェクトのテックリードとして株式会社メルカリに入社し、在籍中の2020年12月に株式会社ハイヤールーを創業。

採用面接において、自分のスキルが正しく評価されていないと思っているエンジニアは少なくない。一方で、面接で自社に必要なエンジニアを採用できているか不安に思っている採用企業もいる。

この課題に立ち向かったのは、2020年12月に創業したスタートアップ株式会社ハイヤールーだ。現場の8割で起きている(※)エンジニア採用のミスマッチを防ぐべくオンラインコーディング試験サービスを提案している。25歳の若さでDeNAのAIリサーチエンジニア、メルカリのテックリードを経験した創業者の葛岡さんに、ハイヤールーを立ち上げた経緯を尋ねてみた。そこには、日本のエンジニア採用に抱える課題感と、IT業界で実現したい理想の採用CX(候補者体験)があった。

※ハイヤールー社による企業ヒアリング調査結果。

6時間のコーディング試験?! 原点はGAFAの面接

——最近日本でも話題になっているコーディング試験サービスですが、『HireRoo』の特徴は何でしょうか?

『HireRoo』の特徴の一つは、GoogleやFacebookでも実施されているライブコーディングをオンラインで実現しているところです。日本でコーディング試験といえば、多くの企業ではまだ事前に出題した課題をメールで提出してもらう「宿題式」が一般的。でもそれでは、エンジニアの解答過程が見えづらいです。『HireRoo』は宿題形式選考のサポートだけでなく、候補者に採用面談の場で会話をしながらコーディングしてもらい、そのコーティング画面を録画することで、コードだけではわからない問題解決までのロジックなどを見られるようにしています。

結果判定をするときは、AI技術を活用して候補者の提出されたソースコードを自動採点した上で、GitHubのアカウントをはじめとする外部に発信している情報を自動収集し、より総合的に技術力のスコアリングを行っています。今後は、オンライン面接機能を導入し、候補者のしぐさや感情の動きなどもスコアリングできるようにしていく予定です。

▲『HireRoo』が提供しているコーディング試験ソリューション

——葛岡さんが『HireRoo』を立ち上げたきっかけは何でしょうか?

一番のきっかけは、前職のメルカリと同時期に受けたGoogle と Facebook での選考体験でした。電話面談と「Technical Screen」(オンラインで行われるライブコーディング面接。コンピュータサイエンスに関する基礎的な問題が出題される)通過後、両社とも6時間近くのオフラインコーディング試験が行われたんです。さらに、試験終了後はすべてのエンジニアに対してアンケートを取り、面接体験のフォローアップをしていました。

僕はその、技術力に対して妥協しない姿勢と、一人ひとりのエンジニアに真摯に向き合う態度に強く衝撃を受けました。日本のエンジニア採用は売り手市場のため、採用時に「コーディング試験」というワンステップを増やすこと自体に懸念を持っている企業も多いんです。こうした徹底的な選考ができるのは、GAFAの圧倒的な技術力と社会への影響力が背景にあるから。正直ほとんどの日本企業には難しいことだと認識しています。

その後メルカリに入ってあらためて実感したのは、技術力の高さを支えるのはほかでもなく強靭なエンジニアリング組織と優秀な人材です。技術に対する真摯な姿勢に共感して強いエンジニアが集まってきて、エンジニアリング組織の技術力に貢献する。そしてより一層、エンジニア自身の技術力が高まるという「勝ちのループ」に入っているんですよ。

GAFAやメルカリのような強いエンジニアリング組織をつくりたい。だけど技術力の高い人材を採用できる力もノウハウもない。我々はこのギャップを埋めるために、企業側からコーディング試験を出題する手間とスキル評価の工数を巻き取りたいと考えました。そして企業規模を問わず、多くの企業にオンラインでもできる手軽なコーディング試験を採用プロセスに取り入れてほしい。そう思って、『HireRoo』というサービスを立ち上げました。

▲技術力に対して妥協しない姿勢に衝撃を受けた。起業のきっかけについてそう語る葛岡さん。

ミスマッチ解消にとことんコミット 技術の次はカルチャーマッチ

——葛岡さんが思う、日本企業が直面しているエンジニア採用の課題は何でしょうか?

主に2つ大きな課題があると思います1つは企業の求める水準に達しているエンジニアがいないため、完全に売り手市場になっていることです。これはエンジニア採用を行っているほとんどの企業が感じていることだと思います。

また、もう1つの課題は採用のミスマッチ。ミスマッチによって、組織やチームが崩壊することすらあるんですよ。これまで経験したことがあるのは、優秀なチームの中に技術力の足りないエンジニアがいて、孤立してしまうことです。チームから取り残されて。ついてこられないエンジニアに歩幅を合わせようとすると、チームとしての進捗が遅れてしまいます。すると、そのエンジニアは居場所がなくなって、さまざまな部署を転々とすることになる。このような課題を解決したいという思いも、起業のきっかけになりました。

——組織やチームが崩壊することもあるんですね。採用のミスマッチはどんな現場でも起こり得ることなんでしょうか?

ハイヤールーを起業してから、メルカリやDeNAクラスのメガベンチャーから、受託開発をしている会社やIPO一歩手前のスタートアップまで、さまざまな企業にヒアリングしてきました。

その結果、どれだけ強いエンジニアリング組織を擁していても、採用のミスマッチは避けられないとわかってきた。現場のミスマッチの深刻さと、それについての危機感をより実感できました。ある会社にヒアリングした際に、「当社で扱っている技術の熱狂的なファンを採用したけれど、入社後にイメージとのギャップでアンチになり、離職の際にソースコードの一部を物理削除されてしまった」という話を聞いたくらいです。採用のミスマッチが、企業やプロダクトにとって「致命的なエラー」になりうることもある。それくらい、ミスマッチの解決は大きな問題だと思っています。

——採用のミスマッチを解消するために、どんな取り組みができるんですか?

いま現場で起きているのは、主に技術力のミスマッチと、カルチャーのミスマッチです。

技術力のミスマッチの根源にあるのは、採用に定量化された基準がなく、面接が現場で属人化していること。そこで、コーディング試験を導入し技術力を定量化することで、ある程度解消できると見込んでいます。僕たちがフォーカスしているのも、まさにこの領域。

SaaSとしての特徴を活かし、企業横断でコーディング試験の解答データを集めることで、より正確なスコアリングができる。最終的には前職のデータも全部集めていこうと考えており、「このスコアが高いエンジニアにはこういう傾向がある」など、より精度の高いマッチングが実現できると踏んでいます。

ただ、技術力のマッチングだけで解決できる問題は、ほんの一部です。組織のビジョンに共感できるか、開発チームの雰囲気になじめるかなど、カルチャーフィットしているかどうかを見極めることも非常に重要です。AI解析技術を活用して、候補者の面接時の受け答えや企業カルチャーに関する質問への解答、前職の経歴情報などをかけ合わせ、行動面接を通してそのエンジニアの個性をデータで可視化することも実現していきたいですね。

▲現場のミスマッチ問題の深刻さに危機感を抱き、解決法を探るハイヤールー創業者の3人。

候補者だけにアピールさせてない? 企業側の自己開示でCXアップ

——最近、「採用のCX(候補者体験)」が大切だと叫ばれるようになっています。採用候補者にとって最良のCXは何だと思いますか?

エンジニア面接とは、採用候補者のスキルと企業が採用したいポジションが本当にマッチしているのか見極める場だと思っています。企業の期待値と、採用候補者の実力の目線合わせができていることが、CXを測る一番重要な指標です。そして、採用された後も幸せに働き続けてもらうために重要なことです。CXというと、採用現場の体験を思い浮かべますが、僕は候補者が入社した後に力を最大限に発揮できることこそ実現すべき最良のCXだと思います。

それを実現するためには、採用する企業側の自己開示が重要。企業が自社のことを包み隠さず候補者に話すことで、情報の透明度を上げ、双方の期待値調整ができるようになるんです。そういう小さなことが、最良のCXにつながるのではないでしょうか。

——ミスマッチのないエンジニア採用が実現したとき、日本のIT 業界はどのように変化すると思いますか?

いろいろな企業にヒアリングして思ったのは、現場には優秀なエンジニアがいっぱいいるということ。一人ひとりの人材の力が最大限に発揮することができれば、それが組織の力につながっていきます。

トップに立つ人がものすごい情熱を持っていても、現場のエンジニアにはその熱量が伝わっていない、そういうことはよくあるんです。採用のミスマッチを減らすことで、「熱伝導率」の良い組織ができれば、日本発の世界に戦える企業が増えていくのではないでしょうか。

執筆:大竹利実
取材・編集:石川香苗子

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