ITエンジニアに圧倒的不人気のクライアントワーク。その魅力と得られる価値体験とは

2022年4月25日

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM

久松 剛

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長兼「流しのEM」の久松です。IT界隈を歴史やエピソードベースで整理し、人の流れに主眼を置いたnoteを更新しています。

私自身、個人受託開発やSIerでのアルバイトプログラマーを経験した後に、自社サービスに8年間関わり、その後またクライアントワークに戻ってきました。連載8回目は、自社サービスでは手にできないSIerやSESといったクライアントワークの魅力についてお話しします。

クライアントワークが不人気なのは何故?

自分はこれまで、自社サービス、クライアントワークのそれぞれで採用活動を実施してきましたが、若手エンジニア採用をしていると「自社サービスのほうがクライアントワークより上である」という考えを持っている方に多くお会いします。

参考:若手に蔓延するフリーランス>>>自社メディア>>SIer>SESという謎図式:デメリットを見ずにイメージで叩くことなかれ

その方たちに理由を聞いても、抽象的な印象ばかりで明確な答えは返ってきません。インフルエンサーの発信を始めとするインターネット上を席巻する不確かな情報からそのように考えているようです。

実際のところ、「クライアントワーク>自社サービス」の図式は存在しません。今回は不人気とも言えるクライアントワークの魅力、そして「人気な」自社サービスの落とし穴についてお話しします。ITエンジニアの皆様には、キャリア選択やキャリアの棚卸しの一助に、クライアントワークで採用担当をされている方には求人の参考になれば幸いです。

1. 様々な企業や業界を見て回ることができる

今SIer・SESでも、本人希望で現場や案件を変えられる企業が増えています。本人のスキルセットにもよりますが、私が見た範囲では希望する複数の現場から、参画する案件を選べるというものです。自身の得意分野を単価アップの上で継続することもできれば、やや金額を下げてでも(稀に据え置きもあり)他スキルの現場に入ることで将来投資と位置づける選択もできるのです。

一方、自社サービスの場合はサービスや技術的バリエーションの乏しさという壁があります。複数の業界に跨った複数の事業展開をしない限り、部署異動ができたとしても類似のサービスばかりで、技術的にもビジネスモデル的にも代わり映えがせずに飽きがくる方は少なくありません。

また、事業の効率性から「車輪の再発明」やリファクタリングを忌避する企業もあって、いつまでも古いAPIを継ぎ足しながら使い続けなければならないケースもあります。車輪の再発明の禁止を強く謳っており、10年以上PHPのAPIを使い続けてしたりします。

このような企業では、当該システムの専門家にはなれるものの、何らかの事情により転職や異動が求められると、次の現場でこれまでのスキルを活かすのが難しい側面があります。プライベートでモダン言語を学習したり、興味のある分野のインプットを進めるなど、リスクヘッジが必要でしょう。

2. 提案ができるかどうかは営業力と座組次第

SIerやSESから出る方の転職理由でよく耳にするのが「顧客の顔が見えない」「提案ができない」「提案してもどうせ揉み消される」といったものです。

これはクライアントワークの問題というより、所属する座組の問題のように思います。商流が一次請けであるかどうか、顧客の意思決定にどこまで関われる契約形態になっているかの問題です。この関係性が上手く構築できる組織であれば、クライアントワークであっても、顧客の顔はクリアに見えますし提案もできます。

一方クライアントワークとは対照的に、自社サービス企業の採用現場では「施策提案ができる」と期待して入社する方は多くいます。ただ、自社サービスであっても企画部門と開発部門が明確に分けられていて、相互干渉できない「社内受託」感がある企業はあります。

また、大手グループ会社などの場合、配属されたグループによっても環境、制度は異なるため、一概に「この企業だから提案できる環境がある」、「ここならできない」とはいえません。気になる場合は配属先がどこか、その配属先の環境はどうなのかを把握してから入社するようにしましょう。

さらに、提案できる企業やチームに入ったとしても、サービス理解が足らずに他部署を説得できないケースもありますし、勇気が足らずに行動に移せないケースがほとんどです。サービスや業界を理解し、踏み出す勇気を持ち、行動を繰り返すことが必要でしょう。

将来を見据えたクライアントワーク経験の必要性

将来的になりたい職種があるにもかかわらず、どんな職場で経験を積んだほうがよいのかわからない。自社サービスへの盲信から自社サービスに進んだ結果、目的から遠回りしてしまう方もいます。実は今人気の職種に、意外とクライアントワークの経験を必要とするものがあります。いくつか具体例を見ていきましょう。

1. コンサルタント

憧れる人が多いコンサルタントですが、これはれっきとしたクライアントワークです。

多くのコンサル企業には「デリバリー部隊」が存在し、ITエンジニアからの転職であればこのデリバリー部隊からスタートすることが多いです。上位のコンサルタント(戦略コンサルタント、経営コンサルタント、ITコンサルタント)が先鞭をつけた後に詳細設計や実装フェーズ、外注管理をするため、ほぼSIerと類似の業務になります。また、SESと同様に人月精算されることも多いため、「高級SESだ」と自虐的に語るコンサルタントもいます。

私の周りでも実際にITエンジニアからコンサルタント職に転職した人は何名かいますが、SIerやSESを経験した方のほうが職場に溶け込みやすい傾向にあります。一方、自社サービスの経験のみの方だと、顧客との接し方や、複数の顧客を扱うシチュエーションは未経験なため、苦しい展開になりやすいようです。

実際に転職先の外資コンサルで「クライアントワークをしたことない人が来た」と入社前からマウンティングされるケースもあったとのことです。社内で調整をかければいい自社サービスと、顧客と契約という紐づきを持って交渉しなければならないクライアントワークでは、立ち振る舞いが異なります。

将来的にコンサルタントを志望するのであれば、クライアントワークの経験は積んだほうが良いでしょう。

2. 独立・フリーランス

フリーランスエンジニアの契約形態は準委任契約、もしくは請負契約です。これはSESやSIerと変わらないスタンスです。独立やフリーランスを目指すのであれば前向きにクライアントワークを増やすことをおすすめします。

私が独立を決められたのも、クライアントワークの経験があったからです。クライアントとの接し方、複数案件を並行する際の調整のポイント、新規営業の仕方を知っていたため踏ん切りをつけることができました。将来独立を考えているのであれば、クライアントワークの経験は財産になります。

まとめ

漫然と若手の中に存在する「自社サービス>クライアントワーク」の構図ですが、それぞれにメリット・デメリットがあるため一概にどちらが上かという議論は成立しません。どちらに自身が興味があるのか、はたまたサービスにどの程度関わりたいのかなども踏まえて意思決定するようにしましょう。

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