市販メガネに取り付けて食べた量を計測できるデバイス「MyDJ」 低消費電力で長時間モニタリングが可能【研究紹介】

2022年4月21日

山下 裕毅

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KAIST(韓国科学技術院)とDYPHI Inc.の研究チームが開発した「MyDJ: Sensing Food Intakes with an Atachable on Your Eyeglass Frame」は、市販のメガネフレームに取り付けて、着用者の食事摂取量を検出する小型デバイスだ。着用者の咀嚼信号を取得し、食べた量を低い消費電量で自動的にモニタリングする。特注のメガネフレームを必要とせず、市販のどのフレームでも取り付けて使用できる利点を持つ。

▲市販のメガネに提案デバイスを取り付けた様子

研究背景

いつどれくらい食べたかなどの食事を監視する手法は、健康的な食習慣を維持するために臨床医や栄養士に広く推奨されている効果的な方法である。食事摂取の意識を高め、健康的な食事選択と効果的な体重および慢性疾患の管理につながる。

ウェブやモバイルの食事記録アプリなど、インタラクティブに食事を記録するツールはあるが、そのプロセスに関わる手作業は、しばしば長期的に記録する習慣を失う結果につながる。そのため、食習慣の監視を支援するウェアラブル自動食事検出システムの開発が研究されている。

これまでにもメガネ型デバイスによる自動食事検出システムは報告されているが、どれもフレーム含めメガネそのものを一から特注で制作しなければならず、一般的ではなかった。また多数のセンサーで嵩張ったり、電力消費が高かったり、長時間の摂食セッションで高い精度を達成できなかったりしていた。

開発過程

今回のアプローチは、小型デバイスを既存のメガネフレームに取り付ける食事検出システム「MyDJ」(My Dietary Journalist)を提案する。特注のメガネフレームを必要としないため、どのようなデザインのメガネにも容易に組み込むことができる。実験において、低消費電力および長時間モニタリングにも成功している。

デバイスには摂食検知を実現するために、圧電センサーと加速度センサーの2種類のセンサーが搭載されている。他にもマイコンや小型バッテリー(220mAh)などが含まれる。

▲本デバイスのプリント基板

圧電センサーは、咀嚼時に下顎を持ち上げる側頭筋の収縮を捉える機能を果たす。より良いセンシング品質を得るには人間の皮膚にしっかりと接触する必要があるため、今回はこめかみに当たるようにメガネフレームの内側に配置した。

加速度センサーは、食べ物を噛むときに発生する機械的な振動の伝搬を捉える機能を果たす。食べ物を噛み砕くときに発生する振動を、鼻や耳の付近を経由してメガネフレームに伝搬された際に捉える。

▲(a)側頭筋の収縮を表した図(b) 機械的振動の伝播を表した図

実証実験

実験では、24名の被験者から非制御環境下で237時間の摂食データを収集したところ、以下のような結果が得られた。食事エピソード検出において平均精度0.984、F1スコア0.919を達成し、先行研究のメガネ型食事検出システムに対して4.03倍のバッテリー寿命の改善を達成した。

長期的な精度を評価するために、6人の被験者を対象として非制御環境下で1週間、477時間の摂食データを収集した。1週間の調査を通して、本デバイスは120の食事や間食のうち111回の検出に成功した。

フレームデザインの違いで性能が変わるかを検証するためのパイロットスタディを実施した。リムレス、セミリムレス、フルリムの3つのメガネフレームで比較した結果、フレームの種類に関わらず良好な性能を発揮するとわかった。

ユーザーアンケートで本デバイスを装着した際の快適性を調査した結果、通常のメガネを装着した場合と比較して94.95%のスコアが得られた。

Source and Image Credits: Jaemin Shin, Seungjoo Lee, Taesik Gong, Hyungjun Yoon, Hyunchul Roh, Andrea Bianchi, and Sung-Ju Lee “MyDJ: Sensing Food Intakes with an Attachable on Your Eyeglass Frame” ACM CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI) 2022.

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