「この人なんか期待と違う」はなぜ起こる?エンジニア中途採用の“見極め方”を改善するサイクル

2025年3月18日

合同会社タラクテ

佐藤賢吾

北海道出身。筑波大学心理学類を卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社し、テクノロジー部門でPR・マーケティングを担当。その後、研究職の採用人事へとキャリアを移す。株式会社エクサウィザーズで採用部長として100名以上のエンジニア採用に携わったのち、2024年には採用領域でのスタートアップ支援を目的に合同会社タラクテを設立。ネオンサインが好き。

多くのマネージャーにとって採用は焦りと悩みの連続です。

人材採用は様々な制約の中で行われており、最高の人材が現れるまでひたすら待ち続けるわけにはいきません。現実的には「予算内でいつまでに◯人採用しないといけない」といった事業計画のもと、激化するエンジニア採用市場における自社の立ち位置を鑑みて、予算制限の緩和や計画の後ずらし、最終的には募集要件の引き下げを検討せざるを得ない場合もあります。

限られた期間と予算の中で採用を進めた結果、「この人なら大丈夫だろう」と判断した人のオンボーディングに思いのほか時間がかかったという話はよく耳にします。こうした「あれ?なんか想定と違うぞ」というギャップが生じることは、マネージャーの方にとっては心当たりのある出来事ではないでしょうか。

この記事では、エンジニア採用特化のフリーランス人事として様々な企業のエキスパート採用を見てきた経験から、採用後のギャップが発生する原因、採用要件で妥協していいポイント/妥協してはいけないポイントの見極め方について考えてみました。採用に再現性を見出すのはなかなか難しいですが、アンチパターンの回避にはある程度の信頼性があるように思います。やっていきましょう。

採用後の「なんか違う」は“人物面”の妥協で起こる

採用後の「想定となんか違うなあ」というギャップは、その人が入社してすぐに顕在化するよりも、徐々に違和感が大きくなり、気づけば看過できないレベルになっていることが多いのではないでしょうか。

表面上は問題なくタスクをこなせている場合でも 、考え方やコミュニケーションスタイルに何となく引っかかるものがあり、周囲のメンバーからも同様の指摘が上がってくる。そして評価タイミングのような節目で「なんか違う」が確信に変わるイメージです。

たとえば、中途エンジニア採用のボリュームゾーンである「半年後~1年後にチームを任せたいリーダー候補」の場合、「オンボーディング期間を過ぎてもリーダーを任せるのは難しいとの判断になった」「いざリーダーを任せたらうまく行かなかった」という話をよく耳にします。

このような状況が発生してしまう背景には、往々にして“人物面”の見誤りがあると考えています。“人物面”とは採用活動で慣習的に使われる表現で、単に性格特性を切り出したものではなく、考え方・コミュニケーションスタイル・志向性など、その人物の個性を包括的に捉えた概念です。より端的に言えば「スキル面(技術・経験のような明確に把握できる要素)以外の全部」というニュアンスがあります。

代表的な項目は「変化への適応力」に関わる「学習意欲」「素直さ」「思考の柔軟性」のほか、困難な状況から立ち直るための「レジリエンス(自己回復力)」あたりでしょうか。「明るくて人当たりが良い」といった表層的な印象だけでなく、思考や行動の根本にある特性までを含みます。

抽象的すぎるので、人物面の評価を見誤るとどうなるのか、特に重要な観点である「変化への適応力」を取り上げながら考えてみましょう。

大前提として、やはり「必要とされるスキルセットが採用時点から変わらない」なんてことはあり得ません。

技術や経験の採用要件をしっかり満たしている人であれば、短期的に「採用時点のスキルで可能な仕事」を任せている間はうまくいくことが多いです。しかし、新しいことを学ぼうとする学習意欲チームの意見に素直に耳を傾ける柔軟性といった人物面の要素に想定とギャップがあると、オンボーディングの過程で「能力はある人なのになんか違和感がある」という事態に陥りかねません。

さらに、オンボーディングを終えて現職に馴染んだ後でも、事業状況や組織体制は中長期で変化し続けます。環境に適応し続けるためには、スキルセットの拡張はもちろん、これまでの経験を柔軟に取捨選択すること(いわゆる「アンラーン」)が求められる場面が必ずあります。技術としてのリーダーシップやコミュニケーションスタイルなど、個人のアイデンティティに関わるレベルのアンラーンが必要になることも少なくないでしょう。前述のリーダー候補のように、ポジションを引き上げる前提で採用するのであればなおさらです。

このように、人物面の妥協は短期的にも中長期的にもリスクを伴います。採用活動でしばしば用いられる判断基準に「悩んだらやめとけ」というものがあるのですが、これはまさしく「人物面を妥協すると採用後に“なんか違う”が発生するぞ」という意味だと捉えています。

人物面は「既存メンバーとの噛み合い」を見る

それでは人物面をどのように評価すればよいのか。代表的な項目は先に述べた通り(「変化への適応力」「学習意欲」「素直さ」「レジリエンス」など)ですが、各項目をどのような強度で重視し、何をもって判断すべきかは、ある程度の数をこなしながら組織ごとに調整していく必要があると思います。

そのうえで、試行錯誤の出発点となるシンプルな基準を提供するならば、私は「既存のメンバーと噛み合うかどうか」が何より重要だと考えています。

これは「カルチャーフィットしているメンバーとどれだけ共通点があるか」「良質なコラボレーションが発生するか」というふたつの軸で成り立っています。前者は直感的に分かりやすいでしょう。共通点が多ければ組織へ円滑に適応してくれる可能性が高いです。一方で、たとえ相違点があったとしても、その違いが互いに良い刺激をもたらし合うのであれば、それも噛み合いと言ってよいでしょう。

まずは活躍中のメンバーを参考に共通点から評価基準を仮置きしつつ、面接では相違点も含めて総合的に確認していきましょう。

最近は日系の企業でも人物面とスキル面を複合的に確認できるコーディングインタビューを行う企業が増えてきました。採用候補者にお題を提示し、コーディングをしてもらいながら会話することで、実際の業務場面に近い状況でのコミュニケーションスタイルや課題解決プロセスを可視化する方法です。リアルタイムにコーディングすることで、取り繕えない無意識レベルの思考過程まで確認できるメリットがあります。

同じく人物面とスキル面を同時に評価する手段として、宿題形式で事前に書いてもらったコードについて議論する方法もあります。しかしこちらは思考過程や所要時間が見えづらく、何より候補者の負担が大きいため、応募ハードルを上げることにつながります。基本的にはリアルタイムのコーディングインタビューを実施しつつ、ある程度まとまった量のコーディングを確認したい事業状況においてのみ、慎重に検討したうえで宿題形式にするのがよさそうです。

総じて「スキル面は軽視してよい」と言いたいわけではありません。大切なのは人物面を軽視しないこと。そのためにスキル面の許容ラインを明確に設定することです。

スキル面の許容ラインを見極める方法

それでは、その「スキル面の許容ライン」をどうやって設定すればよいのでしょうか。

基本的にはある程度の期間をかけて仮説検証を行う必要があります。……が、そんな時間はありませんよね。「すぐに試せる短期的なTips」「中長期的にPDCAを回す観点」についてお話します。

メンターも面接に参加してもらう【短期的】

まさにTipsという感じの小技ですが、意外と馬鹿にならない効果があります。

ハードスキルの水準を下げることで直接的に負担がかかるのは現場のメンター(=オンボーディング係として同じチームで働く人)ですから、メンターが「この人であればオンボーディングを引き受けられる」と納得しているかどうかが重要です。「自分が面接で選んだ人を採用した」と「よく知らない人が入ってきた」では本人の心情が全く違います。

面接に関わるタイミングはいつでも構いません。とにかく自分の目で見て納得してもらうことが目的ですから、まずは面接に同席して、質問があればしてもらう、くらいが準備の工数もかからず、面接慣れしていないメンターでも対応しやすいでしょう。むしろ面接時よりも振り返りで意見を出してもらい、最終的に一緒に腹を括れることが理想的です。

また、この方法の副次的なメリットとして、具体的な採用候補者を対象にメンターと話し合うことで、マネジメントに必要なチームづくりの考え方を共有する機会が生まれます。マネージャー不足の悩みと無縁の組織は少ないはず。日頃からメンターと「今・将来の組織のありかたからどのような人物を採用すべきか」「オンボーディングの体制をどう担保していくか」のような議論を重ねておくことで、マネージャー候補の育成につながるだけでなく、体制変更やオンボーディングコストの許容レベルが上がって組織設計の柔軟性が格段に向上します。

期限を区切って仮説検証のサイクルを回す【中長期的】

今度は中長期的な観点についてです。理想の人材を待ち続ける期間が長引けば長引くほど、メンバー1人あたりに求められる業務のレベルが増していき、採用要件もますます厳しくなる悪循環に陥ってしまいます。

そうならないためにも、やはり期限を区切って「スキルの許容ラインを仮置きする」→「応募を募る・面接する」→「許容ラインが適切だったか検証する」→「要件と方法を改善する」というサイクルを持つことが大切だと考えています。

強調すると「応募人数」ではなく「期限」で区切ることがポイントです。応募人数で区切ると、許容ラインを高く設定しすぎている場合に想定人数を集めるまでに長い時間がかかり、結果として改善サイクルが回らない可能性があります。

そして、許容ラインを適切に設定するうえでは、組織の内側と外側の両方に目を向けることが重要です。

組織の内側に目を向けるとは、まさに許容ラインの位置を具体化する作業といえます。「オンボーディングコストを組織がどこまで受容できるか」「採用要件を分割できるか」という観点です。

「オンボーディングコストを組織がどこまで受容できるか」に関しては、先述したようにメンターと一緒に腹を括り、ボトムアップ的に現場の意見も吸い上げながら許容ラインの位置を調整していく方法があります。

後者の「採用要件を分割できるか」はより重要で、もし改善できれば劇的な効果をもたらす可能性があります。

たとえば「A,B,C,D」の4種類のスキルが求められる際に、それらが全てできる人を1人採用するのではなく、業務内容や配属先を分割することで「A,B」ができる人と「C,D」ができる人をあわせて2人採用する。あるいは「A,B,C」ができる人を採用して、「D」は既存のメンバーのリソースを調整する。このように許容ラインを広げられれば、採用可能なターゲットの母数が大きく広がるからです。

改善には組織体制の検討や人員計画の修正といった大きい動きが求められますが、取り組みが実を結ぶと、途端に採用できる状態になる可能性があります。

一方で、組織の外側に目を向けるとは、採用市場における自社の競争力を適切に把握することです。仮定した許容ラインに基づいて採用活動を行ったとして、求めている人が本当に来てくれるのかシミュレーションする作業といえます。

採用したいターゲットはどのような企業群にいるのか? そこからどんな企業に転職していくのか? なぜ自社には転職してくれないのか? この問いに明確な答えを出せない場合、採用できない人・存在しない人に向けて採用活動を行っている可能性があります。マーケティングやプロダクトマネジメントのフレームワークで整理してみると良いかもしてません。

基礎的なフレームワークで恐縮ですが、たとえば「3C分析」を例に挙げてみます。「Customer (顧客)」「Competitor (競合)」「Company (自社)」を分析して戦略立案に繋げる考え方ですね。

第一に「Customer (顧客)」、すなわち採用要件にあてはまるターゲットの母数は何人で、どのような企業に所属しているのか。各所で公開されている数値を基にしつつ、想定値で市場全体の規模を推定します。これは現実的な採用要件を考える目安になると同時に、組織をいつまでにどれだけ拡大させられるのかという上限を考えるうえでも重要です。

第二に「Competitor (競合)」が提示している環境や条件はいかほどか。具体的な情報が不足している場合は、エージェント企業にヒアリングをしたり、スカウトサービスや企業口コミのサービス等でリサーチすることもできます(外部サービス等を用いる場合は利用規約に注意してください)。特に年収は表に出づらい情報のため、数年前の市場感からアップデートされていないケースがたまにあり注意が必要です。また、近い採用要件の会社が年収を上げただけでも全く応募が来なくなるような事態も起きるため、こまめに把握する必要があります。

第三に「Company (自社)」は競合に勝てる強みを有しているか。商品のキャッチコピーのように「自社を選んで入社する、他社にはない理由」をシンプルな一言で表せるでしょうか? それは届けたい人に届いているでしょうか? チェック時におおよその目安になるのは既存メンバーの入社理由です。「採用する側の認識」と「採用された側の認識」が大きくズレている場合、訴求点や伝達方法(もしくは両方)の修正が必要かもしれません。

こうしたシミュレーションの時点で計画が破綻している場合、試行回数を増やすだけではどうしようもない可能性が高いです。スキルの許容ラインを修正し、現実的な条件を設定していきます。

おわりに

ここまで「なんか違う」を回避するうえでの「人物面」の重要性と、スキル面の許容ラインについて考えてきました。

繰り返しになりますが、スキル面の要件を軽視するものではありませんし、各社にのっぴきならない事情があることは重々承知しています。あくまで一つの観点として、スキル面の要件は、常に「その要件で本当に市場と自社がマッチするのか」問い続ける必要があるということを述べたいのです。

スキル面の採用要件を高いまま固定しているとしたら、その背景には多かれ少なかれ「即戦力」への希望があるのではないでしょうか。しかし、そもそも各社が取り組んでいる事業・プロダクトは、長い時間をかけた熟考と研鑽の末に現在の形になっているわけで、入社してすぐ全容を理解できてしまうようなものではないはずです。ですから個人的には、入社時の能力を近視眼的に捉えた「即戦力」という概念には議論の余地がある気がしています。

Top of Topのヘッドハンティングを鮮やかに決めることも当然すごいのですが、オンボーディングの体制を整えながら間口を広げていくための地道な改善もめちゃくちゃカッコいいと思っています。やっていきましょう。

関連記事

人気記事

  • コピーしました

RSS
RSS