【UI Crunch】仮想空間に接続するデザイン——業界の最先端を走る4社が語り合う、メタバースの現在と未来【イベントレポート】

2022年3月2日

REALITY株式会社 代表取締役社長

DJ RIO

2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後に大学を卒業し、4人目の正社員としてグリー株式会社に入社。事業責任者兼エンジニアとして、モバイル版GREE、ソーシャルゲーム、スマートフォン向けGREE等の立ち上げを主導した後、2011年から北米事業の立ち上げ。2013年に日本に帰国し、グリー株式会社 取締役に就任する。2014年にゲームスタジオWright Flyer Studiosを立ち上げ(現WFS)、2018年にはWright Flyer Live Entertainment(現REALITY)を立ち上げ代表取締役社長に就任。2021年、REALITYを中心とした「メタバース事業」への参入を主導。

REALITY株式会社 UIデザイナー

超簡単

インバウンド観光系のスタートアップ株式会社VoyaginにてUIデザインを担当した後、2019年にREALITY株式会社にジョイン。趣味は料理で、最近は寿司を握っている。

クラスター株式会社 代表取締役CEO

加藤 直人

京都大学理学部で、宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にVR技術を駆使したスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、大規模バーチャルイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。現在はイベントだけでなく、好きなアバターで友達としゃべったりオンラインゲームを投稿して遊ぶことのできるメタバースプラットフォームと進化している。経済誌『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。

クラスター株式会社 デザイナー

吉岡 航

スマートフォンのゲームやアプリ、ウェブサイト、子供向け電子玩具の開発などを事業とした会社に従事。クラスター社には2015年の創業よりデザイナーとして参画。現在はclusterのVR・モバイル・デスクトップのUIデザインを中心に携わる。

株式会社ディー・エヌ・エー執行役員 デザイン本部長

増田 真也

多摩美術大学環境デザイン学科卒。2008年デザイナーとしてDeNAに中途入社。スマホ版Mobageなどの立ち上げを経て、音楽ストリーミング配信サービスや地域SNSなど新規事業のプロダクトマネージャーを経験。大手ゲーム会社とのプラットフォーム開発におけるプロダクトマネージャー、デザイン戦略室の副室長を兼務後、2018年4月からデザイン本部本部長に就任。

株式会社グッドパッチ 代表取締役

土屋 尚史

2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、様々な企業の事業戦略からUI/UXまでを支援し、企業価値の向上に貢献。ベルリン、ミュンヘンにもオフィスを構え、世界で200名以上のデザイナーを抱える。2020年6月、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。

「日本のUIの底上げをする」ことをミッションに、UI開発にまつわるトークイベントを中心に主催するコミュニティー「UI Crunch」は、「メタバースのUI -仮想空間に接続するデザイン-」をオンライン開催。

2021年10月にはFacebookが社名をMetaと変更するなど、世界的に盛り上がりを見せている「メタバース(仮想空間)」。イベントでは、REALITY株式会社、クラスター株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、株式会社グッドパッチの4社によるトークセッションが行われた。メタバースの現在地と未来像について、業界の最先端を走る4社の担当者が討論を繰り広げた。

メタバースだからこそできる体験とは?

DJ RIO(REALITY株式会社・以下、DJ RIO)アバターに対する自己投影感の高さは、メタバースと従来のゲームとはやはり違うと思います。REALITYのユーザーの中には、リアル世界の自分の外見をアバターデザインに合わせるもいらっしゃるようです。

普段からアバターが手鏡のように自分と連動して動くのを見ていると、やはりどんどんそれが自分だと思うようになってくるんですね。リアル世界の自分に合わせてアバターをつくるユーザーもいますが、アバターに合わせて髪型や髪の色、メイクなどをアバターに寄せて、さらに同一化が進んでいくということが起こっています。

加藤 直人(クラスター株式会社・以下、加藤):clusterのようなバーチャル空間でコミュニケーションすることは、放課後にマクドナルドに集まって話したり、サークルの部室に溜まったりするイメージに近いと思います。

ときどき取材などで「メタバースはTwitterやInstagramの上位互換になるんですか?」と聞かれるんですが、ちょっと違うんです。既存のSNSはどちらかというと、情報発信・情報共有のためにあるもの。clusterでは最近、バーチャル喫煙所が流行っていますが、空間の共有ができるのは、従来のSNSと圧倒的に体験の違いがあるかなと思っています。

土屋 尚史(株式会社グッドパッチ・以下、土屋):おそらくこの先、メタバース空間の中にも、いろいろなプラットフォームが生まれると思います。今のようにプラットフォームごとに違うアバターを創るのではなく、ユーザーごとに1つのアバターですべてのプラットフォームをシームレスに行き来できるようになると、よりメタバースの世界の自分が大事に思えるのかなと思います。

DJ RIO:ここはよく話題に出る部分なんですが、僕はあえて使い分けるユーザーも多いと考えています。たとえばSNSで、FacebookとTwitter、LINE、Instagram、TikTokに、全部自分の実写の顔写真と実名を使う人はあまりいないと思います。ほとんどのユーザーは自分のいる場所、すなわち使っているサービスに合わせてアイコンやニックネームを使い分けている。メタバース時代になっても、アイデンティティとアバターを持って行きたい場所もあれば、全然違う自分を伝える場所も出てくると思います。

増田 真也(株式会社ディー・エヌ・エー):必ずしも100%今の現実の世界が置き換えられる必要もないということですよね。ソードアート・オンラインもプロトコル部分は全部一緒なんですけれども、別サービスに行く場合はアバターを変えないといけないんですよね、多分そんな感じの未来になるかなと思っています。

どこまでリアルさを取り入れて、どこからバーチャルらしくするのか?

吉岡 航(クラスター株式会社・以下、吉岡):最初の段階では、バーチャルの世界にリアルさを取り入れることで、VRになじみのない人でも入りやすくなるのかなと思っています。たとえば、初期のiPhoneは「スキューモフィズム」といって、現実のテクスチャーの素材感を取り入れてUIに対して親しみを持たせ、初めて触る人でも直感的に操作できるようにしました。VRの世界でも同じことが起きるのではと感じています。

DJ RIO:そこは同感できます。僕が初めてバーチャルライブに参加したとき、なぜスポットライトやスピーカーがあって、現実世界と同じようなステージが設置されているんだろうと、不思議に思いました。物理的な制約のない空間で、物理的なものを再現してどうするって。

でも、実際に自分たちでバーチャルライブをつくってみると、そういった物理的な装置がないと、観客は空間のどこに注目すれば良いかわからなくなってしまうことがわかったんです。やはり最初は現実世界で見たことのあるものを再現するところから始める必要があると実感しました。

ただ、徐々にユーザーがバーチャルの世界に慣れていくと、デバイスやプラットフォームに適したよりバーチャル・ネイティブなUXもできてくると思います。昔は出っ張ったボタンのように見せていたiPhoneのアイコンが、だんだんフラットになり、今はテキストだけでも押す場所が認識されるようになったのと同じですね。

土屋:メタバースのUI/UXデザインは、従来のWebやスマホアプリなどのデザインに比べて参入しづらいイメージがあるかもしれません。デザイナーからみて、その辺りはどうなんでしょう?

超簡単(REALITY株式会社):僕はREALITYに入る前は、iOSやAndroidのことも、Unityのことも一切わかりませんでした。でも、最初からわかっているデザイナーはいないと思います。それより重要なのは、わからないことが出てきたときに、エンジニアに聞くなり自分で勉強するなりしていくことじゃないかと思っています。

吉岡:3D空間になったからといって、今まで学んできたWebデザインとかUIデザインの知識、知見が全く生かせないということはまったくないですむしろ、もっとその知見が入ってきた方がより良いUIがつくれると思います。

▲cluster上で行われるトークセッションの会場風景

メタバースが一時的なブームで終わらず日本で今後発展するには?

DJ RIO:僕はこの先も、メタバースの流れがずっと続いていくと思います。僕らは以前からずっと仮想空間のサービスをやっているので、変わらず続けるだけですね。バーチャル空間上で自分のアイデンティティを投影できるアバターで活動したりコミュニケーションしたりというのは、不可逆なトレンドだと思います。

加藤:今のメタバースブームについて、実は10代20代の人たちからしては、「そんなの当たり前じゃないか」と思われているんですよね。その世代は、普段からアバター使ってゲームをしたり、リアルタイムにボイスチャットで友達つなげたりして、日常的にメタバースに触れている。なので、一時的なブームで終わることを心配しているのは、普段そういったことをしないわれわれおじさん達だけかもしれません(笑)。

とはいえ、UI/UXの観点でいうと、普段ゲームをしない30代、40代の方々でも戸惑わずに使えるようにハードルを下げていかないと、と感じています。

DJ RIO:難しいところですよね。今のメタバースサービスというのは、普段からゲームなに慣れ親しんでいる人たちには、違和感なく使えるものだと思うんです。ただこれから、ライブ配信やボイスチャットに触れてこなかった世代にまで使いやすくする必要があるのか。そうなったときに、若者たちは離れていってしまうんじゃないかというジレンマもあります。「どこまでユニバーサルにすべきなのか」、そういうのはサービスを提供する側の悩みどころです。

加藤:「おじさん向けメタバースもあれば、女子高生向けメタバースもある」みたいな世界にならないと、おそらく全てのエンドユーザーにメタバースをていくことができないと思います。SNSもそうですが、なかなか1つのプロダクトで全部をカバーしていくのは無理な話なのかなと。

DJ RIO:UXに関するところだと、最強のUXは「慣れ」だと言われているんですよね。たとえば、昔は携帯でメールをしているのは若い世代だけという時代もあったわけですが、今は誰でもLINEを使っている。でも、それは携帯メールやLINEが特定のユーザー向けに最適化してきたわけではないんですよね。

ユーザー自身が「みんなが使っているから自分もやらなきゃ」となって、最初は若い人に聞きながら徐々に慣れていくみたいなことを繰り返してきた結果、ユニバーサルなものになっています。なので、UXデザインはもちろん重要なのですが、やはり慣れというのは最強のUI/UXじゃないかとも思っていますね。

文:酒井 麻里子

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