だからリバウンドする? 脂肪細胞が“肥満”を記憶する仕組み調査、減量した人の細胞やマウスのエピゲノム解析【研究紹介】

2024年11月20日

山下 裕毅

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スイスのETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)などに所属する研究者らが発表した論文「Adipose tissue retains an epigenetic memory of obesity after weight loss」は、マウスにおける肥満の記憶の仕組みを分子レベルで解明し、ヒトにおいても、肥満による遺伝子発現の変化が減量後も持続することを示した研究報告である。

この研究は、減量後も持続する脂肪細胞の変化が、体重を減らしても元に戻ってしまうリバウンド(ヨーヨー現象)の一因となっている可能性を示唆した。

ヒトにおける研究内容

研究チームは、複数の肥満に関する研究の過程で肥満手術(胃を小さくして満腹感を得やすくする手術など)を受け、術後2年でBMIが25%以上減少した計20人の患者の、手術直前と2年後それぞれの時点における脂肪組織を用いて分析を行った。また、健康的な体重をした計18人の脂肪組織も使用し、比較した。

▲肥満手術を受けた後2年で体重が25%以上減少した20人と、肥満を抱えていない18人の脂肪組織を採取し比較した

分析の結果、肥満者の脂肪細胞では多数の遺伝子発現が健康的な体重の人々と比べて変化しており、これらの変化の一部は減量後2年経過しても持続していることが判明した。これらの変化は炎症を促進し、脂肪細胞による脂肪の貯蔵と燃焼の仕組みを混乱させ、将来の体重増加リスクを高める可能性がある。

マウスにおける研究内容

さらに詳しいメカニズム解明のため、マウスを用いた実験も行った。研究チームは、マウスを12週間または25週間高脂肪食で飼育して肥満にした後、8週間通常食に切り替えて減量させた。

▲マウスを通常食または高脂肪食で12週間または25週間飼育し、その後体重減少群では8週間通常食に切り替えた実験スケジュール

分析の結果、マウスの体重や血糖値、インスリン抵抗性といった代謝指標はおおむね正常化したが、脂肪組織には変化が残存していることが判明した。また、いちど肥満を経験したマウスに再び高脂肪食を与えると、肥満を経験していないマウスよりも急速に体重が増加し、脂肪組織の炎症も強く誘導された。

特に重要な発見は、脂肪細胞のヒストンのエピジェネティック修飾(DNAの塩基配列自体は変化させずに遺伝子の発現を制御する仕組み)などに、肥満の記憶が維持されていることである。

研究チームは、脂肪細胞特異的な遺伝子改変マウスを用いて、脂肪細胞のエピゲノム状態を詳細に解析した。その結果、肥満時に変化したヒストン修飾パターンの一部が減量後も維持されていた。この記憶により、炎症関連遺伝子の発現が上昇したままとなり、一方で脂肪細胞本来の代謝に関わる遺伝子の発現は低下したままとなっていた。

このように、いちどの肥満経験が、記憶として身体に残り続けることがマウスを通して分子レベルで解明された。これは、ヒトにおいても同様のメカニズムがある可能性や、肥満治療においては単なる減量だけでなく、この細胞レベルの記憶にも対処する必要があることを示唆している。

Source and Image Credits: Hinte, L.C., Castellano-Castillo, D., Ghosh, A. et al. Adipose tissue retains an epigenetic memory of obesity after weight loss. Nature (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08165-7

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