米国からの制裁をどう生き抜いた?時の運に助けられたファーウェイの2021を振り返る

2022年2月17日

中国アジアITライター

山谷 剛史

1976年生まれ、東京都出身。2002年より中国やアジア地域のITトレンドについて執筆。中国IT業界記事、中国流行記事、中国製品レビュー記事を主に執筆。著書に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』(星海社新書)『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンククリエイティブ)など。

ファーウェイ(HUAWEI/華為)といえば、スマートフォンを思い浮かべるのではないだろうか。スマートフォンマニアの中からは、PシリーズやMateシリーズなど、高スペックで高く評価されている。しかし、20209月から続いてきた米政府による半導体輸出規制のため、5Gスマホ用チップの供給が停止(4Gはクアルコムより供給が可能となっている)。さらにAndroidGMSGoogle Mobile Service)が利用できない状況が続いている。

気になるのは、ファーウェイはあれからどう生き残ったのか?

優勢だったスマートフォン市場で苦戦するも

ファーウェイは2021年に、「P50」と横開きスマホ「Mate X2」、縦開きスマホ「P50 Pocket」を発売した。そのうち、「P50」と「P50 Pocket」は4Gまでしか対応していない。「4Gの割にはすごく速い」と評価されるほど技術努力はしたものの、5Gが求められる時代になったこともあり、スマートフォンの売れ行きが振るわなかったことは統計からも見て取れる。

▲米の制裁が原因か、ファーウェイは2021年に世間の流れに逆行し、4Gまでしか対応していないスマートフォンをリリースした

しかしながら、ファーウェイには時の運があった。新型コロナウイルスやスマートカー量産による半導体不足である。VIVOやXiaomiなど、中国で高いシェアを持ったメーカーも軒並み新モデルが例年より少なめだったそのため、懸念されていたファーウェイの失速は売上は大幅に減るも新モデル発売については他社よりやや少ない、という印象にとどまったのだ。

「第3のOS」でデバイスを跨いで自由すぎる動きを実現

スマートフォン市場では成長の停滞が目立つ一方、ファーウェイはソフトウェアと周辺ハードウェアの強化を行った。その中でももっとも力を入れているのは、「第3のOS」と言われているAndroid互換のHarmony OS(ハーモニーOS/鴻蒙OS)の開発である。

2019年に公式発表されたHarmony OSだが、2021年に入り、ファーウェイは同社製品を中心に、Harmony OSに適応できるデバイスを増やした。Harmony OSはAndroidのアプリが動くだけでなく、ほかのHarmony OSと画面やデータなどを簡単につなげることができるため、スマートフォン以外の搭載製品も続々と出てきている。

例えばビデオチャットの画面を他のデバイスに表示させたり、同社開発のノートパソコン「Mate Book」内の動画をタブレットの「Mate Pad」で再生したり、MateBook内での製図作業にMatePadをペンタブレットとして利用することもできる。また、スマホをタブレットやノートパソコンとつなぎ、ワンタップでファイルをデバイスでドラッグ&ドロップし、メールやメッセージに添付することも可能。さらに、Harmony OSが搭載されているスマートフォン同士を繋げ、片方をカメラとして設定し、もう片方からシャッターをリモートで切ることも実現できる。

つまり、Harmony OS搭載のパソコンやスマートフォン、タブレットなどを複数所有すれば、簡単にマルチディスプレイ環境を構築できるわけだ。これにより、既存ユーザーに他のファーウェイ製品購入を促している。

▲情報端末同士が便利に繋がることに重点を置いた「HarmonyOS」

加えて、ファーウェイのHarmonyOSは、NFC技術を活用し、ワンタッチでスマート家電や情報機器とリンクできる。スマート家電では「美的(Midea)」「九陽(Joyoung)」「老板(ROBAM)」といった中国では定番のキッチン家電メーカーも、HarmonyOS対応製品を発売し、情報機器ではエプソンが対応のプリンターを発売した。

さらにXiaomiの「米家」に対抗する、「Huawei HiLink(華為智聯)」という、IoT家電プラットフォームを用意し、中小企業から大企業まで様々な企業が対応製品を開発した。これは必ずしもファーウェイのスマートフォンが必要というわけではないが、消費者にとって、ファーウェイのスマートフォンや情報端末を買うきっかけにもなるだろう。

Harmony OSは2021年10月にメジャーバージョンアップを行った。このメジャーアップデートでは、ARや3Dモデリング機能、OCR機能、手話認識機能といったビジュアル面での強化も行った。これらの機能により、プラットフォーム上でかつて日本でローンチされていた「セカイカメラ」のようなARサービス開発が容易になった。またパノラマ撮影のような要領でモノの周辺を回って撮ることで3D画像を取得できるようになった。いくつかソリューションや街ぐるみのキャンペーンは既に出ている。

変わった取り組みとしては、中国でプログラミング教育のニーズが高まる中、Harmony OS対応のロボット掃除機をはじめとしたスマート家電をプログラミングでコントロールできる「Petal Kids Code」というプログラミングツールをリリース。普段使われるスマート家電製品をプログラミングで動かして学ぶという環境を提供したわけだ。

ハードウェアの主戦場はスマホのほかにあった

ファーウェイが2021年にもう1つ力を入れている領域はスマートフォン以外のハードウェアだ。ファーウェイは中国市場に向けて、家庭用スマートテレビ「ファーウェイスマートモニター」(華為智慧屏)やスマートディスプレイ「HUAWEI IdeaHub」を発売し、ハードウェアのラインアップを拡充している。

▲家のスマート家電のハブとなるスマートテレビ「ファーウェイスマートモニター」

これらのデバイスはいずれもファーウェイのスマートフォンとの連携を前提に発売されている。家庭用の「ファーウェイスマートモニター」は、ファーウェイ開発の動画アプリや音楽アプリが入っていて、大量のコンテンツをオンデマンドで楽しむことができる。また、コロナ禍でニーズが高まっている在宅運動系のサービスも入っており、テレビ1台で複数のエンターテインメントを実現した。一人だけでなく、家族3人での同時プレイもAI認識技術の導入によって可能になっている

一方ビジネス向けの「HUAWEI Ideahub」は、カメラを内蔵し、タッチ操作と音声操作が可能で、オンライン会議や教育現場や医療現場での利用を想定した製品だ。スマートフォンからの画面転送が簡単にできるほか、スマートフォンにIdeaHubの表示を転送する機能もある。ファーウェイは現在、タイで遠隔医療を実現するソリューションとして、現地の医療現場に「IdeaHub」の導入を推進しているという。

▲情報端末ほか、ファーウェイのテクノロジーが入った車も販売されるファーウェイ旗艦店

スマートシティソリューションで社会価値を発揮

ファーウェイは2017年に「ファーウェイのスマートシティ概論」をリリースし、スマートシティソリューションの開発に注力することを発表した。そこから4年が経った2021年には、都市部のみならず、農村部にもソリューションを展開し、人々の日常生活に入り込みつつある。

観光地としても知られている上海の商業地「田子坊」では、水道・電気・ガスなど生活インフラの異常を自動検知するアラートシステムを構築。冬は寒さが厳しい中国北部で稼働するセントラルヒーティングに対して、AIを活用した温度の自動調整コントロール機能を実装し省エネにもつながる。

渋滞が長年課題となっている都市に向けて、交通事故発生時に自動的に状況を把握し、二次的な渋滞や事故が発生しないように信号を調整し、地図サービスに情報を送るサービスも展開。そのほか、港湾に来航する船舶の停泊位置をAIで指示するソリューションや、飛行機の移動指示を自動で行うソリューションなど多数のスマートシティ案件で成果を上げた。

スマートシティソリューションに加え、ファーウェイは2021年にSDGsを目指す「追光者100行動計画」を発表した。公平な教育環境、環境保護、健康福祉、地域発展、生産の安全性と効率アップを中心に、各地で様々なプロジェクトを進めていくとしている。とくに農村部では、農家から電気を回収し農村家庭の所得を増やすメガソーラーの建設計画や、汚染源を特定し記録するモニタリングシステム、山村学校で子供に映像を活用して説明できることを目指した学校の情報化を進めている。

まとめ

ファーウェイの2021年は、こうした慈善系プロジェクトを進め、スマートシティなどの大型案件を受けつつネットインフラを構築した。

世の中が半導体不足になり、不利な条件が緩和される中で、ユーザーの他社製品への鞍替えを防ぐべく、コンシューマー向け情報機器やビジネス向け情報機器のハードウェア、ソフトウェアを開発した2021年だったわけだ。

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