2021年12月9日
中国アジアITライター
1976年生まれ、東京都出身。2002年より中国やアジア地域のITトレンドについて執筆。中国IT業界記事、中国流行記事、中国製品レビュー記事を主に執筆。著書に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』(星海社新書)『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンククリエイティブ)など。
近年の中国メーカー製スマートフォンは、サムスンやアップル製品と比較しても劣らない製品ばかり。中国メーカーは数多くあるが、小米(Xiaomi/シャオミ、以下Xiaomi)をまず思いつく人もいるだろう。日本では、格安でありながら腕につけるだけで心拍数や消費カロリーなど日々の健康データを記録できるスマートバンドが売れ、人気を獲得しつつある。本記事は、今年10周年を迎えるXiaomiの現在地を紹介したい。
Xiaomiのトップは雷軍氏。中国でも有名なIT業界を代表する起業家だ。もともとはパソコン用Officeソフトやセキュリティソフトの「キングソフト(金山軟件)」のトップで、スマートフォン時代到来後はXiaomiを立ち上げ、世界に名を馳せるスマートフォンメーカーに。
世界のスマートフォン出荷台数ランキング(IDC)では、2021年第3四半期(7月~9月)にはGalaxy(サムスン)が6900万台、iPhone(アップル)が5040万台に続いて、Xiaomiが4430万台で3位となっている。直近では中国メーカーの中でTOPの成績だ。
さらにその前の第2四半期(4月~6月)は、アップルを抜いて初めて世界2位の出荷台数を記録し、5G対応スマートフォンでは世界1位となった。雷軍氏は8月の同社新製品発表会で「3年間でスマホシェア世界一を達成する」と次なる目標を発表し、Xiaomiの世界市場での活躍は目立っていた。
地域別では、ヨーロッパで出荷台数1270万台、市場シェア25.3%を記録し、初めて同地域最大のスマホプロバイダーになっていた。また中欧東欧地域の5Gスマートフォン分野においてもアップルとサムスンを上回った。さらに、インドにおいては、チベット地域での国境紛争をめぐって抗中運動が行われ、Xiaomiの市場シェアが一度は低下したものの、再び勢いを取り戻した。
一方で同四半期の中国国内におけるランキング(IDC)では、上位3位はvivo、OPPO、ファーウェイから独立したHonorの3社が占め、Xiaomiが1100万台で4位にランクイン。中国国内で常にランキングは動いているものの、Xiaomiは競合他社と比べ売上はいまいちのようだ。
世界で人気だけれど、中国ではそれほど人気ではないというXiaomi。その理由はなんだろう。
Xiaomiが中国市場からスタートした2010年当時は、格安でコストパフォーマンスが良いものとして打ち出していた。このブランドイメージは近年の躍進で薄くなりつつあるものの、「Xiaomi=格安」と連想してしまう消費者もまだまだいるようだ。
先日中国最大のECセール「双11(ダブルイレブン/アリババが運営するECプラットフォーム「タオバオ」が毎年11月11日に開催するメガセール)」では、高性能を売りにしている「Miシリーズ」とコストパフォーマンスを売りにしている「Redmiシリーズ」が同時に販売されていたが、売れたのは後者のモデルばかりだ。
Miシリーズからも、2019年発売の1億800万画素の5眼カメラを搭載した「Mi Note10」など、意欲的なフラッグシップモデルが発売されているが、その人気は点止まりでなかなかブランドイメージを塗り替えられず、上位モデルの売上にはつながっていない。
さらに、Xiaomiは創業当初から、販促活動としてインターネット限定販売やユーザ参加型のベータテストを行ってきた。「Just For Fans」のスローガンを打ち出して端末UIを自由にカスタマイズできるファームウェア「MIUI」を発売するなど、「電子機器マニアに受けるブランド」というイメージも根強い。
一方で、中国国内でXiaomiと市場を奪い合うOPPOとvivoは、操作が便利かつ自撮りがきれいということを売りに、女性から広く支持されている。両者は地方都市や農村部にまで販売店舗を積極的に展開しており、高いシェアを獲得できている。
ファーウェイは今でこそ米国からの制裁で5G市場に乗り遅れ、スマートフォン市場では下火だが、以前は最も性能が良いという印象があり、性能重視な人々に男女問わず支持された。
ただ、前出のデータを見ると、2021年第2四半期に定価300ユーロ以上(日本円に換算すると40,000円前後)のモデルの出荷数が1200万台を超えるなど、海外では中国国内に先立って、Xiaomiが過去のブランドイメージから脱却しつつある。今後モデルの使用感に慣れたリピーターによる買い替えが進み、「次はよりいいモデルを買おう」と新機種が発売されるたびにどんどんミドルレンジ以上のモデルを買い替えていくストーリーは十分ありうる。
さて、中国国内での認知拡大のために、Xiaomiは2016年から大規模なオフライン展開を始めた。ショッピングモールや繁華街に、洗練された内装を施した専門店・直営店を大規模に出店して、スマートフォンにそんなに詳しくない人々にも訴えかけるようになった。「小米之家(Xiaomiハウス)」という名前で、国際的大都市から内陸省の省都クラス以上の都市部を中心に展開していた。例えば筆者が長らく滞在していた雲南省昆明市というところでも、市内数カ所の大規模モールの目立つところにも「Xiaomiハウス」が入っている。
Xiaomiハウスで売られているのはスマートフォンだけではない。XiaomiはライバルのファーウェイやOPPOより一歩先に、スマート家電をはじめとしたIoT機器に注力するようになった。スマートウォッチやスマートスピーカー、テレビ、キックスクーター、ドローン、それにスマートフォンで操作できる炊飯器、空気清浄機など、各種スマート家電を展示販売している。CEOの雷軍氏が電業界に参入した当初、「(Xiaomiは)IT界の無印良品を目指す」と宣言したこともあり、デザインはほぼ白で統一。シンプルなデザインと使用感、そしてリーズナブルな価格設定で、若者や都市で働くホワイトカラーから高い人気を誇った。
世界基準で見てもスマート家電が飛び抜けて売れている中国で、Xiaomiは家電業界に参入し、スマートフォンに特段興味がない顧客層からのブランド認知を獲得した。とくに若者が集まる都市部では、「コスパのXiaomi」から、人々のライフスタイルを変える「ハイテックのXiaomi」へのイメージチェンジに成功している。現在Xiaomiのスマートカメラやスマートテレビ、スマートロックは中国国内ではヒット商品になり、市民の生活空間に浸透するプランドになりつつある。
さらに、中国は中小都市と農村部のほうが圧倒的に人口比重が大きい。競合が占めているこちらの市場から認知を獲得すべく、Xiaomiは2021年に入ってXiaomiハウスを中国全土に展開。2016年最初の実店舗オーブンから、5年で2000店舗を出店したところ、今年に入って中小都市を中心に新たに8000店舗をオーブンした。
ではどうやって僅か数年で、ここまでの商品ラインアップを揃えたのか。キーワードはIoTの周辺機器メーカーを育てる同社の手法「Mi Ecosystem」だ。
Xiaomi自身が開発・販売するIoT製品は対応製品全体のごく一部だ。ラインアップの多くはXiaomi以外で商品を開発し、Xiaomiが価格設定を行って販売するもの。
メーカーだけで開発して販売すると目立たず売り上げが伸びないところ、Mi Ecosystemに加入することでXiaomiのアプリから利用できるようになり、なによりXiaomiのショップや小米之家で販売してくれるので企業の知名度があがるわけ。ただ一方で、Xiaomiは利益率が極めて低くなるような価格設定を全商品に対して行っている。
すなわち、Mi Ecosystemに入らないと製品を出しても売れないが、Xiaomiで売るからといって大した金儲けになるわけでもない。そこで加入企業はエコシステム内で貯めた資金をもとに自社のIoTプラットフォームを開発したり、XiaomiとIoTで競合するファーウェイやアリババ向けにも製品をリリースしたりするなど、ほかの金儲けの道を探す。その先に「華米科技(huami)」や「雲米(Viomi)」など「Xiaomiエコシステム出身」の上場する企業が生まれる。
こうした新興企業にとっての「勝ち筋」ができているため、無数の若いメーカーが企業発展の初期資金のために、自分の製品をもってエコシステムに加入してくるわけだ。
さらに、XiaomiはもともとIoT機器の開発に注力していなかったメーカーに対しても、エコシステムに加入してもらうように、IoT関連の研究費として出資することが多い。最近では、清掃家電の「順造科技(Shunzao Technology)」や美容家電目の「米谷智能(inFace)」、水中ドローンメーカーの「鰭源科技(QYSEA Technology)」など、多数の新興企業に出資している。
Xiaomiはさらなる事業の柱としては自動車部門「小米汽車」を9月1日、登記資本金100億元(日本円換算で1775億円)で立ち上げた。雷軍氏が代表を務め、約300人体制で新規事業に臨む。コアメンバーの大半はXiaomiからだが、BMW のデザイナーも。まだまだ開発には時間がかかるが、IoT製品のように同社の自動車製品も柱のひとつになっていくだろうし、開発力強化のために各コア部品に強い企業や研究力への投資を行っていくのは間違いない。
ただしいずれの事業にしても目下問題になっているのは世界的な半導体不足だ。これをどうフォローしていくかが同社の成長の鍵のひとつとなる。
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