錠剤1個に複数の薬を混ぜて3Dプリント 薬剤ごとに時間差で溶解、ねらったタイミングで放出【研究紹介】

2024年5月21日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。

英ノッティンガム大学に所属する研究者らが発表した論文「Enabling high-fidelity personalised pharmaceutical tablets through multimaterial inkjet 3D printing with a water-soluble excipient」は、最新の3Dプリンティング技術を用いて、パーソナライズされた医薬品としてオーダーメイド錠剤の製造に成功した研究報告である。この技術により、ひとつの錠剤の中に複数の薬物を組み込んだうえで、それぞれの薬剤を体内にて時間差で放出させることが可能になる。

▲提案手法により3Dプリントした薬剤の外観

研究内容

研究チームは、マルチマテリアルインクジェット3Dプリンティング(MM-IJ3DP)を用いて、錠剤内部の素材を自在にデザインするとの試みに挑戦した。溶けやすい水溶性ポリマーと溶けにくい非水溶性ポリマーを組み合わせ、その形状や配置を工夫することで、薬の放出速度を思い通りに制御するというものだ。

▲MM-IJ3DPによりさまざまなデザインで造形された錠剤

水溶性ポリマーとしては、poly-ACMOという新しい素材を採用。このpoly-ACMOは生体適合性試験で毒性を示さないことや、アスピリンなどの薬を混ぜても安定して印刷・硬化できることがわかった。一方、非水溶性ポリマーは薬物放出を妨げる壁の役割を果たす。

たとえば、錠剤の中心に薬を含むpoly-ACMOを配置し、その周りを非水溶性の殻で覆うようにデザインすれば、ゆっくりと長時間かけて薬が放出される徐放性の錠剤になる。逆に、錠剤表面にたくさんのpoly-ACMOを配置すれば、一気に薬が溶け出す速放性の錠剤になる。両者を組み合わせれば、最初は速く、後からゆっくりという具合に、放出速度の時間的な制御が可能になる。つまり、服用後、任意のタイミングに合わせて薬物を放出させられるというわけだ。

▲4つの異なる放出デザインを持つ錠剤例

しかも、この技術では1回の印刷で56個の錠剤を同時に製造でき、それぞれに異なる放出プロファイルを持たせられるため、カスタマイズされた大量のオーダーメイド錠剤を一度につくれる

Source and Image Credits: Geoffrey Rivers, Anna Lion, Nur Rofiqoh Eviana Putri, Graham A. Rance, Cara Moloney, Vincenzo Taresco, Valentina Cuzzucoli Crucitti, Hannah Constantin, Maria Inês Evangelista Barreiros, Laura Ruiz Cantu, Christopher J. Tuck, Felicity R.A.J. Rose, Richard J.M. Hague, Clive J. Roberts, Lyudmila Turyanska, Ricky D. Wildman, Yinfeng He. Enabling high-fidelity personalised pharmaceutical tablets through multimaterial inkjet 3D printing with a water-soluble excipient. Materials Today Advances, Volume 22, 2024, 100493, ISSN 2590-0498, https://doi.org/10.1016/j.mtadv.2024.100493.

関連記事

人気記事

  • コピーしました

RSS
RSS