盗聴を妨害しつつ指定したスマホだけ録音可能にするシステム 中国の研究者らが開発【研究紹介】

2024年1月31日

山下 裕毅

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中国の浙江大学に所属する研究者らが発表した論文「Phoneme-Based Proactive Anti-Eavesdropping with Controlled Recording Privilege」は、盗聴を防ぎつつも、許可した録音機だけを録音可能にする盗聴妨害システムを提案した研究報告である。部屋にあるスマートフォンなどの録音機の中から、ひとつだけ(複数も可)を指定して録音可能にし、他のデバイスは録音不能にすることで、盗聴を防止しつつ、録音が行える技術である。

▲指定した特定の録音機(緑色のマイクマーク)だけ録音を可能にし、他の録音機(赤色のマイクマーク)を録音不能にして盗聴を防止する。

研究背景

スマートフォンやスマートスピーカーなど、マイクロフォンを備えた電子機器が日常生活にあふれている。これに伴い、誰でも室内の音声をこっそりと盗聴できる時代になった。自動音声認識(ASR)システムを活用し、個人データが抽出され、プライバシーが侵害されるケースも報告されている。

対策として、人の耳に聞こえない超音波を用いて録音機による盗聴を妨害する方法が探求されている。ただ、既存のシステムは、音声の妨害を目的として高いエネルギーを使用するノイズを発するため、周囲にいる人の耳に負担がかかり、聴覚に影響を与え得る。ノイズ除去技術により、音声が容易に復元される可能性もある。また領域内のすべての録音機が妨害対象となるため、利用可能な場面が限られる。

研究内容

これらの課題に対処するため、本研究は「InfoMasker」という盗聴妨害技術を用いて、許可された特定の録音機以外のすべてのデバイスによる盗聴を阻止するシステムを提案している。InfoMaskerは、ユーザーが制御可能な送信機アレイに基づいた盗聴妨害システムで、超音波を利用して妨害ノイズを生成し放射できる。

▲「InfoMasker」の送信機アレイ

InfoMaskerは、「音素」ベースのノイズを生成し、これを超音波によって周囲のマイクロフォンへ送信する。このノイズは、話されている言葉の音素構造を不明瞭にし、音声認識を困難にする効果がある。音素は単語を識別するための音の基本単位であるため、混乱した音素のパターンによって音声が理解しにくくなる。また、このノイズは既存の先進的なノイズ除去技術に対しても強い耐性を持ち、高いエネルギーを必要とせず、周囲には聞こえない状態で効果的な妨害範囲を拡大することが可能である。

▲音素ベースのノイズの生成

InfoMaskerは本来、部屋全体のすべての録音機に対して妨害を行う。そこで、本研究が提案するシステムでは、特定のデバイスだけが録音を実行できるように特別な方法を採用している。具体的には、許可された録音デバイスに、あらかじめ生成された妨害ノイズを除去する機能を組み込む。InfoMaskerは妨害ノイズとそのタイムスタンプを記録。後からこの情報を利用し、録音された音声からノイズを除去する。このプロセスには、トランスフォーマーベースのノイズ除去技術が使用される。

一方、許可されていない他のデバイスには、この特別なノイズ除去機能が備わっていないため、妨害された音声を正確に認識できない。結果として、許可された録音機のみ正確な録音が可能となり、他のデバイスによる盗聴や録音は防がれる。

研究結果

実験では、音素ベースのノイズを生成し、様々なASRシステムでテストすることで録音機への妨害効果を評価した。このノイズを音声データに混入させた後、ASRシステムを使用。音声認識の精度を測定した。結果として、録音の認識精度を50%以下に低下させる効果が確認された。また、異なる言語(英語、中国語、ポルトガル語、日本語)での効果を評価するテストでは、複数の言語においても有効であることが示された。

実世界のオフィス環境でのケーススタディでも、提案システムは効果的に録音機を妨害し、音声プライバシーを保護できると示された。また、録音ができるように指定したデバイスで採録した音声のノイズ除去にも成功した。この結果は、音声プライバシーを保護する上でシステムが高い効果を発揮でき、さらに特定の条件下でのみ録音を許可する柔軟性も有していることを示している。

Source and Image Credits: Peng Huang, Yao Wei, Peng Cheng, Zhongjie Ba, Li Lu, Feng Lin, Yang Wang, Kui Ren. Phoneme-Based Proactive Anti-Eavesdropping with Controlled Recording Privilege.

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