2021年12月21日
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito)
LIGの久松です。IT界隈を歴史やエピソードベースで整理し、人の流れに主眼を置いたnoteを更新しています。連載4回目の今回はフリーランスの生存戦略について取り上げたいと思います。
正社員エンジニアの採用が難しい、複数のプロジェクトを同時に動かしたい……様々な理由でフリーランスに依頼している企業が増えています。今はまさに「フリーランス全盛時代」と言えるでしょう。実際、現場で活躍できるフリーランスは限定的で、長く一緒に仕事をしたいエンジニアは企業側も離しません。
しかし、いざ事業の状況が変化したとき、最後まで「生き残る」のは正社員。フリーランスとの契約に関しては、パフォーマンスをもとに優先順位をつけたうえで、順次終了の判断を下していきます。
フリーランスから正社員になる方の中には、大口顧客との契約終了がきっかけだと話す方も一定数いらっしゃいます。
私自身、大学で研究員をしていた際に大学と業務委託契約を結んでいたのですが、事業仕分けや震災に伴う予算縮小もあり契約満了に従い終了し、それに伴うワーキングプアも経験しました。
このように、フリーランスの契約終了は企業の経営状況や外部環境と大きく関わっています。今回はフリーランスとして長くキャリアを続けるためのポイントをいくつか解説していきます。
以前一緒にお仕事をした個人事業主の方より頂いた言葉として、「複数のお財布」を持つというものがあります。
1ヶ所としか契約を結んでいない場合、それが切れるとインカムも途絶えてしまいます。複数ヶ所の契約があれば、契約が切れてもリカバリーがきくというものです。インカムの冗長化というところでしょうか。ITエンジニアの場合、ここに加えて「適度に」という言葉を付けさせていただきます。
正社員と比較してフリーランスは直接支払う税金が多く、福利厚生もほぼないので、手元に残る金額は少なくなります。手元の金額を増やすために、複数案件を掛け持つのは良いことではあります。ただ、一般的にITエンジニアの場合は請負契約か、時間ベースの準委任契約です。同じ時間で付加価値を創出するためにはスキルアップするか、レアスキルを習得する必要があります。しかし、どちらも長い準備期間を要するものなので、短期間で収入アップするためには労働時間を増やすしかありません。
複数案件を抱え無理をして心身を壊したり、突然連絡が取れなくなったりするエンジニアが以前より増えているようです。
計画的に無理のない範囲での複数契約をおすすめします。
契約が欲しくても、できないことをできると言ってはいけません。
契約がないとインカムが発生しないフリーランスでは、契約を取るために多少経験を盛る方もいるのではないでしょうか。特に未経験・微経験層や、経験はないがやってみたいモダンな言語を経歴に加えておきたい、というモチベーションの方に見られがちです。
これからその言語を習得しようと思っていたとしても、発注者からすると時間もお金も無駄ですし、訴訟にもつながるお話ですので辞めましょう。
また、フリーランスだけでなくSESなどでもよく見られるのは、所属企業の営業担当者が作成したスキルシートを永続的に使っているケースです。こういうスキルシートの問題点は、何のプロジェクトに参加し、何のスキルで何ヶ月稼働したのかは伝わるものの、その方が当該スキルで契約時間分働いたこと以外に情報がないことです。
発注者側はプロジェクトに参画するエンジニアのスキルに対して、市場の相場に合わせて「適価」をあらかじめ決めています。フリーランスの方が需要のあるスキルを適価で提示しているうちは契約してもらえますが、そうでない場合はスキル以外で組織にプラスとなる経験がないと、意思決定は難しくなります。
そのため、スキルシートには通常のプロジェクト情報に加え、次のような具体的な内容を入れると差別化できます。
関連する話で職務経歴書について解説している記事もご参考ください。
【保存版】職務経歴書が魅力的に見えないのはなぜ?伝わる職務経歴書をつくる7つのポイント
フリーランスにとって、案件を好条件で受け続けることは、長期的なキャリアを描くための生命線ともいえます。スキルセットの将来性と単価のバランスをみて、案件選択を行うことが重要です。そこで本記事の執筆にあたり、フリーランスの単価について、レバテックフリーランスの事業責任者からヒアリングを行いました。下記のような傾向があるとのことです。
・ 単一のスキルセットで15年継続して働くよりも、モダンなスキルを2年経験したほうが単価アップの可能性が高い
・ 今の技術の延長線上でできる案件よりも、単価は少し下がっても、ちょっと背伸びして新しい技術を身につけられる案件を選んだほうが、3年後、5年後の投資につながる可能性がある
先の「経験を盛る」とは対照的なお話です。企業側の求めるスキルがレアスキルの場合、近しいスキルセットがあるなら妥協もやむなしと思っていたり、すでに契約がある人に契約内容を更新してでもお願いしたりするケースがあります。
その場合、「経験はありませんが、キャッチアップする形で頑張ります」という返事をしていただけると、企業としてはとても助かります。フリーランスの方にとってもスキルアップにつながるでしょう。
ただ、スキルアップを見込んだ発注は、発注者側にとって業務が完遂されないリスクを伴うため、期待値調整はしっかりと行い、契約書面にもリスクがないようにしてください。
フリーランスはプロジェクトの実行メンバーとして契約することが多いので、指示のあった内容について忠実なアウトプットを出す作業者であることが求められます。しかし、求められている範囲の仕事をこなすだけでは、替えがきいてしまうのも事実です。
そこで、「替えがきかない人」と発注者に思ってもらいやすいのがプログラムやプロダクトについて改善提案を行うことです。最近では週3日、週4日で稼働するフリーランスも多く、少ないコミュニケーションの中で改善提案を行うのが面倒だと感じる方もいるかもしれません。
私自身クライアントとの折衝に立つことが多いのですが、契約延長の決め手になるのは突き抜けたスキルセットがあるか、事業に役立つ改善提案ができるかのどちらかですね。自身の経験や知識に基づいた改善案を提示するのは、フリーランスとしての価値をアピールする良い方法だと思います。
私はフリーランスの方とお仕事を初めて10年目になりますが、たまに伝説的なコミュニケーションをする方に出会うことがあります。
今でも忘れられないのが、「私は3人分のパフォーマンスを発揮できるので、150万円を希望します。ただし一緒に働く人がローパフォーマーだった場合、辞めさせてしまうことがありますが良いでしょうか」と言われたことです。
事業の明暗を分ける大きなブロジェクトだったため、この方はお断りしましたし、紹介いただいた企業さんともすっかり恐縮して連絡が取れなくなりました。仮にスキルが高くても、コミュニケーションしづらいとリスクや管理コストが大きくかかることが予想されます。こういう方はチームにジョインするより、個人受託開発をやっておいていただきたいところです。
フリーランスには傭兵のような側面があるため、スキルさえあれば良いと誤認される方が少なくありません。しかし、強い副作用がある薬を飲むことに覚悟が必要なように、1回の面接だけでスキルをはかるのは難しく、進んでリスクを取る企業は少ないものです。
まずは気持ちよく社会人としてお取り引きできることを心がけましょう。
近年、ご自身の意志で3ヶ月以下の短期契約を繰り返す方が増えているようです。現場が合わなかった、思ったスキルが身につかなかった、飽きたなど、いろいろな理由を耳にします。現場に縛られないのもフリーランスのメリットではあるものの、書類審査の段階で短期契約終了する懸念を抱かれる恐れがあるうえ、低スキルなのではと邪推されるケースも少なくありません。
1年以上の在籍案件をつくることによってこうした懸念は払拭されやすいですし、「現場に気に入られた高スキル人材である」と企業側の期待値を高めることもできます。1年以上同じスキルやプロダクトに関わることで伸びるスキルもあるため、在籍年数も意識しながらキャリアをつくっていくことをおすすめします。
私はnote記事で「免震構造型キャリア」というものを提唱しています。
これはエンジニアとしての基礎を固めたうえで、複数の専門性とスキルを身につけたほうが長期的なキャリアを構築できるということです。フリーランスの場合も、依頼内容に応えられるスキルや、基本的な知識、コミュニケーションに加え、教育経験や採用経験など、いくつかのプラス要素があると差別化しやすいでしょう。
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イラスト:Jonnas CHEN
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