2023年9月4日
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito)
2022年11月から起きている外資IT企業や自社サービスにおけるレイオフ、さらにシリコンバレーバンク破綻に見られるスタートアップ不況。最近は、このようなネガティブなニュースが数多く見られます。こうした景気の陰りは、採用シーンを中心に、エンジニアリングマネージャーの業務にも影響を与えています。
激動が続く中、今回は時代の流れとともに、エンジニアリングマネージャーの需要や役割の変化に注目してお話します。
2022年までのエンジニアバブルでは、自社サービスやスタートアップを中心にエンジニア組織の数を集め、組織化することが求められていました。特に外資IT、コンサルティングファーム、スタートアップが強気の採用を展開していました。
コロナ禍で広く社会的には不景気でしたが、DXの文脈でIT界隈は景気が良かったこともエンジニアバブルの後半を下支えしました。
特にスタートアップに関しては「スタートアップ創出元年」という言葉が象徴するように投資が盛んでした。シード期スタートアップなどであれば、良い結果が出るのを見込んで、強気の投資が継続されていました。VCの中には「社長の目を見ればわかる」と、薄いpptのみで投資を決定するところも見られました。
スタートアップ界隈は、エンジニア経営者が少ないこともあり、投資家から「このお金で優秀なエンジニアを高待遇で採用し、事業を前に進めるように」と言われているケースも少なくありません。事業進捗報告の一環として、エンジニアの正社員採用を報告していたり、事業進捗目標に据えているところもあったことから、エンジニアバブルは膨らんでいきました。
エンジニアリングマネージャーという職種が2017年頃からメガベンチャーを中心に広がっていったのも、まさにこのエンジニアバブルに後押しされたからだと捉えています。
2022年11月から頻発した外資IT企業のレイオフや米シリコンバレーバンク破綻に象徴されるように、2023年に入ってから、外資IT企業とスタートアップのエンジニア採用にブレーキがかかりました。現職や他社に比べて圧倒的な提示年収によって採用する、いわゆる「札束で殴る採用」をする企業が形を潜め、採用提示年収のインフレは見かけなくなっています。一部のスカウト媒体でもかつての現年収1.25〜1.5倍提示される競りのような状態が無くなり、自社で提示できる現実的な給与提示にとどまるようになっているようです。
また、選考プロセスを追加したり、リファレンスチェックを追加したりするなど、ミスマッチを減らす工夫がなされる傾向があります。
※参考:エンジニア採用でも増えるリファレンスチェック。普及の背景、課題、そして取るべき対策は?
2022年までは「エンジニアファースト」という言葉があるように、採用が難しいITエンジニアの「ご機嫌取り」を打ち出す企業が散見されました。しかし、不景気に伴い企業もアウトプット志向が強くなるため、採用人数や福利厚生などよりも効率性が強く求められます。
こうした環境の変化により、エンジニアリングマネージャーに求められることもまた変化が起きています。
円滑な組織運営を行う上で、エンジニアリングマネージャーの存在は必要不可欠ではありますが、売上貢献の観点からすると説明が難しいという特徴が、残念ながら存在します。
採用人数が企業の経営目標として追いかけられていた2022年までであれば、採用コストの一環と捉える組織もありました。しかし採用が人数(量)ではなく「質」にシフトした現在では、一部の積極採用企業以外では説明が難しい状態にあります。
例えば、顧客に稼働時間ベースで請求を行うコンサル・SIer・SESといった人月ビジネスの場合、ピープルマネージメント専業のポジションについては顧客請求がしにくいです。請負契約などであれば「プロジェクト管理費」などとすることで請求できる可能性はあります。いっそのこと、ジンジニアのような人事職種として取り扱った方が、人件費按分の観点からエンジニアリングマネージャーが存在しやすい組織も見られます。
コロナの五類への以降に伴いリモートワークを撤回する組織も少なくなく、顔が見えるコミュニケーションへの回帰が起きています。最近では、リモートワークの象徴のようなZoom社からも、フルリモートを取りやめるニュースがありました。
経営層からすると、フルリモートワークであるが故の困難が無くなり、往時の状態に戻るように見えるため、エンジニアリングマネージャーの抱えるピープルマネージメントコストも軽減する可能性が期待されます。経営層から負荷の軽減について問われたり、配置換えを打診される可能性もあるため、開発生産性の可視化や組織課題の言語化を通し、理解を深めてもらう準備をしておく必要があるでしょう。
現在、エンジニアリングマネージャーの求人は存在するものの、2022年までの積極採用状態では無くなっている傾向が見られます。
上記Offersデジタル人材総研の調査結果では、プロジェクト開発に直接的に関わるポジションが優先されており、エンジニアリングマネージャーの採用注力は17.3%にとどまりました。採用継続の企業を探っていくと、純粋なピープルマネージメントを求めているのは大企業・自社サービスに限られています。
また、前述のような、環境変化と費用対効果の観点から、ピープルマネージメントコストに対し、専任者を置く傾向が少なくなっています。現在の求人を見ていくと下記のような条件となります。
採用プロセスに関わった経験だけでは不十分であり、採用や評価に対して工夫した点とその結果がしっかりと言えることが求められる傾向が強く存在しています。小規模な開発組織では、プログラミングテストが求められることが多く、コーディングから遠ざかっている候補者には厳しい傾向があります。
さらに、事業を円滑に回すためのピープルマネージメントの側面だけでなく、具体的にソースコードを書いたり、プロダクト進捗に関わることで売り上げに繋がる人が求められる傾向にあります。
一方、下記の条件に合致する企業の場合は採用を主要業務と位置づけたエンジニアリングマネージャーのポジションが残っています。
組織拡大が急務な企業が増えていくなら事態が好転するかもしれません。しかし世界的に景気後退が起きている現状では、その糸口は見えていない状態です。今後のキャリアのリスクヘッジのため、現職の中でプログラマ、PjM、PdM、BizDevのようにプロダクト貢献をする業務を増やしていくことをお勧めしています。
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