【EMの業務解剖:調整】組織の意思決定やプロジェクトの推進を円滑にする、他部署・職種間の調整の極意

2023年7月31日

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM

久松 剛

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito

EMの業務のうち、組織によっては部署間や職種間での調整業務が存在する場合があります。組織の意思決定やプロジェクト推進をスムーズにするため、主にピープルマネジメントの観点から動くというものです。今回は、エンジニアリングマネージャーに期待される社内調整業務についてお話をしていきます。

「浮いたジョブ」問題と調整業務

以前のコンテンツでは、組織内で働く雇用形態の異なる人材の調整について取り上げました。かつての日系企業では、新卒採用された人材を中心に、補充的な意味合いで中途採用人材が入っていました。しかしいまでは、海外人材、業務委託、副業人材、インターンなど、実に様々な方が関わっています。そのため、コミュニケーションギャップを埋める人材が必要です。

※参考:評価者であり、チームの仲介者である。エンジニアリングマネージャー(EM)に求められる役割を解説

加えて徐々に広がりを見せるジョブ型雇用による影響もあります。業務委託契約などは分かりやすいですが、明確に期待される役割(ジョブ)が契約に明記されているため、それ以外の業務は任せることはできません。そのため、ジョブとジョブの隙間に落ちた「宙に浮いたジョブ」が存在している組織が多く見られます。

従来のメンバーシップ型雇用では、年功序列型の組織だったこともあり、社員同士が助け合って未着手のジョブに取り組んでいたことがほとんどでした。加えて、残業も常態化していたため、こういう取りこぼされたジョブは大きな問題にはなりませんでした。

昨今、ジョブ型雇用が定着されつつあるにつれ、一部の人材について、正社員であっても「開発エンジニアなので、開発以外はやりません」と断言する方が増えています。

コロナ禍で拡がったリモートワークは、こうしたジョブ型の働き方をさらに助長しました。オフラインで集まって仕事をしていた時には、会話をしながら気づいていた「宙に浮いている業務」も、チャットやアジェンダに沿って進められるビデオ会議では話題にされにくいものです。プロジェクト管理ツール上でも、タスクが言語化されていないとキャッチアップされにくく、着手されない傾向があります。

誰にも依頼できない浮いたジョブについて調整し、よしなに振り分けたり、自身でもやむを得ず巻き取ったりするのが、エンジニアリングマネージャーに限らず日本のマネージャー層ではよく見られる役割だと言えます。

参考:中間管理職がつまらない理由と、組織の機能不全

▲雇用形態の変化によって起きる、組織タスクの担当者不在問題。各人のジョブディスクリプションが明確化されていくと、担当者不在残タスク(左、白部分)が産まれたり、兼務メンバーが生まれたりするようになります。

プロジェクトマネージャー(PjM)、プロダクトマネージャー(PdM)との違い

これらの職務について定義や棲み分け、求められるスキルや経験は企業によって異なります。

プロジェクトマネージャー(PjM)は一般的にプロジェクトにシステム開発の文脈で責任を持ちます。プロジェクトマネージャーのキャリアパスには、プログラマからランクアップしていく方が多くみられます。稀に大手企業などで新卒採用後にプログラミング研修を受けた後、プロジェクトマネージャーとして働き始めるケースもあります。

また、昨今様々なプロジェクトで求められているのがプロダクトマネージャー(PdM)です。テックサイド、ビジネスサイド、ユーザーサイドの三者の間を取り持つケースがよくみられます。プロダクトマネージャーはエンジニアからキャリアチェンジされる方と、マーケターなどからキャリアチェンジされる方に分かれます。Offersの調査によるとプロダクトマネージャーのうち、エンジニア経験のある方は56.1%となっています。

https://offers.jp/media/sidejob/workstyle/a_2565

ではエンジニアリングマネージャー(EM)はどうか。プロダクト開発のQCD(※)でいうと、QCDのうちのCとDという、人的コストに関わっていくことに責任範囲があります すなわち、ピープルマネージメントが主業務だと捉えると良いでしょう。

※Quality: 品質, Cost: 金額, Delivery: 納期

エンジニアリングマネージャーに近いポジションとして、近年一部事業会社には「BizDev」と呼ばれるポジションが設けられています。営業組織、マーケティング組織、開発組織がひとつのプロダクトに関わっている際、お互いの主張がすれ違っていることも多い。この間に入って事業目線で通訳をし、交通整理をすることが求められる役割です。エンジニア出身者のうち、他業種との調整経験もある視座の高い豊富な経験者が就任するケースが多く見られます。

調整業務のポイント

エンジニアリングマネージャーには、立場の異なる職種間の調整業務も発生します。各職種に自身の意見を通したい理由がある一方で、事業目線や経営目線も含めて合理的な意思決定をせねばなりませんそれぞれの立場もあるため、一方的に論破すれば良いというものでもありません。相手の立場を配慮した上で説得していく必要があります。

続いて調整業務のポイントについてお話しします。開発組織内チーム間連携と、職種間連携の大きく2つに分かれる傾向にあります。

開発組織内チーム間の連携を図る

事業やプロダクトが初期段階からチーム単位やプロジェクト単位で閉じて開発が進められてきた場合、相互連携が難しいという事象があります。エンドユーザーからしては「同じ屋号なのにどうして連携しないのか」「同じ会社がやっていることに気づかなかった」と考えがちですが、開発側からすれば最初からAPI連携ありきで組み立てられていない場合プロダクト間の連携は難航します。

その場合、エンジニアリングマネージャーが主導してプロジェクト間の連携を進めることが求められます。さらに、組織内でプロジェクトマネージャーが何かしらの問題を抱えていて動きが悪くなってしまった場合も、エンジニアリングマネージャーの責任で課題解決を図り、プロジェクトマネージャーの動きを改善することが求められます。

職種間連携

職種間の連携も重要です。例えば社内向けサービスであっても、利用部門の立場が違えば、よく使う機能や、率先して実装してほしい機能なども全く異なります。

 

過去に見た事例としては、同一システムを使う異なる4つの営業部署からの要求事項が捌けず苦労している組織がありました。売上の高いチームを優先するという対応も考えられますが、新規事業や投資部門など、収益の見通しが立てられていないプロジェクトの場合はそういうわけにはいきません。

その場合、各部署と開発部門だけが向き合っていても埒が明かないため、エンジニアリングマネージャーが間に立って、さらにマーケターを巻き込んで状況打開を図る必要があります。エンジニアリングマネージャーが各部署から上がっているタスクをマーケターに「翻訳」し試算してもらい、そこから実装工数と突き合わせて事業責任者にジャッジしてもらう。事業の潤滑油的な立ち位置でエンジニアリングマネージャーが活躍することで、追加で人員を巻き込み、第三者目線でタスクの優先度を判断するスタイルです。

さいごに

2022年11月から続く外資ITレイオフ、シリコンバレー銀行破綻などの不景気により、エンジニアリングマネージャー自身の業務内容についても変化が起きています。次回コンテンツではエンジニアバブル後に起きているエンジニアリングマネージャーへの影響についてまとめていきます。

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