【EMの業務解剖】ついやってしまいがちな1on1のアンチパターン4選と、成功させるポイントを解説

2023年7月3日

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM

久松 剛

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito

EMの業務のうち、メンバーとの1on1がカレンダーの多くを占めている方も多いのではないでしょうか。1on1は実に多様な形が存在しており、実施効果もピンキリです。今回は、効果的な1on1のやり方と、嫌われてしまう1on1の問題点を解説します。

こんな1on1は部下に嫌われる

1on1と言っても、共通しているのは1対1のショートミーティングであるということだけです。なかには実施する内容によって、退職者リスクが高まってしまうような1on1もあります。ここではいくつか見てきた実例を紹介しながら、陥りがちなアンチパターンについてお話をします。

アンチパターン1:進捗確認を兼ねて「詰める場」になっている

1on1は、何か悩みが産まれた際、上司に1対1で相談できる場として機能すべきです。これに対し、1on1という名の進捗確認ミーティングを実施しているケースがあります。例えば、予定よりも進捗が悪かったとすると、それに対するなぜなぜ分析やリカバリ施策、場合によっては納期に間に合わせるための誓約が行われたりと「上司が部下を詰める場」になっていたりします。とくに開発の現場であれば、こうした課題はペアプログラミングで解消したり、チームで手助けし合うことが望まれます。

1on1なのに進捗確認をしてしまうことで、メンバーは業務上やプライベートの状況の相談を誰にもできず、結果として不安や不満を抱え込み、退職リスクが高まるケースが散見されます。

アンチパターン2:評価フィードバックを兼ねて「相談しにくい場」になっている

1on1の時間で評価フィードバックをしても、カレンダー上で見ると合理的なスケジュールに思われるでしょう。ポジティブフィードバックであれば特に問題ありませんが、ネガティブフィードバックを伴うことも多いのが評価フィードバックです。ネガティブフィードバックを実施した上で「何か困っていることはありますか?」と言われても、相談事はしにくいものです。

スケジュール的に厳しいことではありますが、評価フィードバックと1on1の日程は1週間程度の間隔を開けて設けることをお勧めしています。評価フィードバックを冷静に咀嚼した上で、1on1に前向きな行動プランを持って臨んで貰えるケースもあります。

アンチパターン3:上長がずっと一人語りする場」になっている

私自身も経験があるのですが、1on1担当である上長がずっと経営層の愚痴や、自身の辛さについて一人語りする1on1が時折見られます。この場合、1on1の対象者は実質、上長という構図になってしまいます。このような上長の愚痴を聞く1on1を展開してしまうと、自社で出世を希望する人が更に減ってしまうリスクが高くなってしまいます。こうした1on1は実施しないほうが良いでしょう。

アンチパターン4:カレンダーが1on1で埋まっていて隙間がない

マネージャーを魅力的に感じない若手からの声においてよく耳にするのが「上司のカレンダーが1on1と面接で埋まっている」というものです。事業に関する相談ができないため、1on1の時間で確認するという事象も散見されます。また、その場で事務的な合意形成をするために、1on1の時間を伸ばして次の予定を押してしまうケースも見られます。

現在の30代中盤以下の世代については1992年に小学校教育において新学力観に基づいた個性尊重を打ち出した指導要領が導入されたこともあり、団体主義的なそれまでの世代と比べるとリーダーシップを発揮する経験が少ないことからリーダーやマネージャーに対して価値を感じにくい傾向があります。

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1on1の目的と成功させるポイント

1on1は対象者の成長を促進するための支援が目的であると一般的に言われています。つまり、1on1では部下の業務上の悩みや不安などを吸い上げる場であることを主目的にするべきだと考えています。そのためには、ベストセラーでもあるヤフー株式会社の1on1に見られるような傾聴ベースの場を設ける必要があります。

また、リモートワークやフレックスなどの浸透によって、社員の姿がオフィスで目視できる範囲で働くというケースも減少しています。フルリモートワークを基調にまわしている、ある企業では「定例会議より1on1」とお話されていました。定例会議や進捗確認のミーティングでは業務連絡しかなされませんし、そこでお悩み相談をされることは少ないでしょう。

働き方の多様化、各メンバーを取り巻く状況も多様化している今、本音を引き出すための1on1は意識して実施する必要があります。続いて私が1on1実施時に気をつけていることについて触れていきます。

カレンダー登録は上長から

忙しすぎる上長の場合、「カレンダーの空いているところに予定を入れてください」と対象者に指示するケースがあります。こうしたプル型のスケジュールが設定されるケースは多くありません。設定されたな、と思ったときには退職連絡だったりすることもあります。上長が対象者のカレンダーを見ながら入力するようにしましょう。

カレンダーを入力する際、私はメモ欄に下記のものを入力するようにしていました。

3点目については、明らかに即座に解決する必要がある問題が相談されることもあるため、人事労務などに相談する必要もあります。その際も一言断って共有を合意するようにしましょう。

初対面のときは上長の自己開示から始める

新入社員に対し、初めての1on1を実施する際には上長の自己紹介から実施するようにしています。どのようなバックボーンを持ち、どのような経緯で今に至るのかを話すことによって、「この人に何を期待して良いのか」「どこまで話して良いのか」といった関係性の構築ができます

最適な実施頻度と時間

私は過去、実施頻度は2-3週間に1回、1回15分を基準としていました。毎週実施するのでは、スケジュールを圧迫してしまいます。また、4週間以上は間隔が長すぎて、この間に何かしらの不満が溜まって、退職の意思がまとまってしまうことも何度か見たことがあります。2週間程度でカジュアル面談から内定まで出す企業も存在しているため、しばらくコミュニケーションを取らないうちに退職意志を固めてしまう場合もあります。突然の退職や転職につながることも十分にあるため、最適な実施頻度を意識しましょう。

可能なかぎり上長都合で流会にしない

上長が忙しいという理由で流会にしてしまい、そのまま再設定されないというケースも散見されます。この対応が続くと「上長は自分のことより業務タスクの方が大切だ」と対象者に思われてしまいます。特にフルリモートワークのような接点が少ない状態で1on1を流会にしてしまうと、帰属意識がどんどん希薄になります。やむを得ずに流会にした場合は、きちんとその場で再設定するか、翌実施回は必ず履行するようにしましょう。

業務委託フリーランスとの1on1

1on1というと正社員を対象にすべきだと前提がある組織が多いように思いますが、業務委託フリーランスとの1on1についても実施する必要があると考えています。

あくまで業務委託なのでタスクの履行をして貰えれば問題はないように思われますが、戦力化している業務委託の場合、契約の解約時期のタイミングで業務委託側から終了を申し渡され、事業への影響が出てしまうケースがあります。そのためには現場を気に入ってもらう必要があります。場合によっては正社員化に繋がるケースもありますので実施してみることをお勧めします。

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