まさに課題だらけ。大都市圏でドローン配送を実現した中国デリバリー大手の「戦略的配送網」とは

2023年8月30日

ITジャーナリスト

牧野 武文(まきの たけふみ)

生活とテクノロジー、ビジネスの関係を考えるITジャーナリスト、中国テックウォッチャー。著書に「Googleの正体」(マイコミ新書)、「任天堂ノスタルジー・横井軍平とその時代」(角川新書)など。

現在、日本ではAmazonや日本郵便などがドローンによる配送の実証実験を進めている。しかし、両社はいずれも人口の非密集地域での導入を目指したドローン配送となる。一方、中国のデリバリー企業「美団」は、深圳市という大都市の市街地でドローン配送を実現した。大都市でドローン配送を実現するためには、ビルの乱反射がもたらす測位システムの混乱や騒音問題など、さまざまな課題があるものの、それを一つひとつ解決していった。大都市でのドローン配送にはどのような課題があり、どう解決したのか紐解いていこう。

日米のドローンによる輸送の取り組み

さまざまな分野での活用が始まっているドローン(無人航空機)。別名クワッドコプター、クワッドローター、マルチコプターと呼ばれることもある。映像撮影や監視、建造物の検査、農薬散布などのほか、最近では玩具や競技としても注目をされている。

生活面でも、物流におけるドローンの運用が注目されている。ただ、ドローンによる輸送の実用化にはさまざまな課題を乗り越える必要がある主な課題として下記2つが挙げられる。

  • ・墜落のリスクヘッジ
  • ・着陸地の確保

ドローン配送で最も懸念をされるのが、墜落をした場合の被害だ。機械である以上、故障する可能性がゼロではないため万が一、墜落をしても築物や人に被害を与えない方法を考えなければならない

Amazonのドローン配送サービス「Amazon Prime Air(アマゾン・プライム・エア)」は、逆転の発想をしている。それは墜落をしても被害を与えない地域を選ぶという考え方だ。実証実験を行なっているのはカリフォルニア州ロックフォードとテキサス州カレッジステーションで、いずれも口密度は高くない地域だ。飛行をしながら地上を監視し、人や動物などを発見すると、迂回をして飛行をする。ただし、道路を横切る許可を連邦航空局から取得できておらず、配達先はまだ限られているようだ。

▲アマゾンのPrime Airは、人口が密集していない地域での実証実験が続いている。しかし、道路を横切るための許可が得られないため、配達できる場所がまだ限定的だ。Amazon公式ビデオ(https://www.youtube.com/watch?v=3bDyeUiWL3M)より引用。

次に、日本の例を紹介しよう。日本郵便は、東京都奥多摩町で郵便物のドローン配送の試行を行なっている。奥多摩郵便局からの荷物を同じ奥多摩地区の送り先まで届けるというものだ。基本はルートに沿った自律飛行だが、操縦士が常時リモート監視を行い、問題がある場合は操縦に介入をして安全誘導する。また、機器や飛行姿勢に異常が発生した場合は自動的にパラシュートが放出され、不時着をする仕組みだ。

つまり、日米いずれのドローン配送も、人口密度の低い地域で飛行させている。そのため、そもそも事故被害が起きる確率は少ない上に、さらに事故被害が起きる可能性を排除する工夫をしている。

また、着陸地の確保も重要だ。ドローンが不用意に着陸をすると、子どもや動物は好奇心から触れたがる傾向があり、思わぬ事故を招く危険性がある。そのため、ドローン着陸地は立ち入り禁止にする必要がある。

日本郵便のケースでは、着陸地が個人宅の庭になるケースがある。万が一、人がいた場合はリモート監視をする操縦者が音声で退避するように求めてから着陸をする。これに対しAmazon Prime Airは、より大胆な対策方法をとっている。ドローンは上空12ft(約3.6m)でホバリングをし、荷物を切り離して投下するというものだ。ガラス製品などの配送でも投下して大丈夫なのか不安になるが、荷物の梱包を工夫することで対処するようだ。

▲Amazon Prime Airは、大胆にも上空12ftから荷物を投下する方式。梱包を工夫することで破損を防いでいる。

中国のデリバリー企業「美団」のドローン配送戦略

Amazonも日本郵便も共通しているのは、人口非密集地域での配達の効率化だ。件数が少ない地域での配達を自動化するで、人員配置などの効率化を図ろうとしている。

一方、この2つとはまったく異なり、中国深圳市という人口が密集した大都市でドローン配送を実現したのが、中国のデリバリー企業「美団」(メイトワン)だ。2020年1月に試験飛行を行ってから実証実験を続け、現在は5つのショッピングモールと18のオフィスビル、マンションを結び、2万世帯に相当するオフィスワーカーと住民に飲食品や日用品、電子製品などを配達している。2022年の実績では、10万件の飲食品と2万件の一般商品をドローンが配達した。

このような大都市でのドローン配送は、先の墜落事故と着陸地確保だけでなくほかにも複数の課題をクリアしなければならない。

  1. 1. 新たな測位技術の開発
    大都市では測位衛星の信号が乱れるため、新たな測位技術が必要になる。
  2. 2. 騒音問題の処理
    ドローンは意外に飛行音が大きい。高層マンションなど住宅付近を飛行するドローンは、住民から騒音に対する苦情が出される可能性がある。
  3. 3. 管制システムの整備
    大都市では配達数が多いため、同じルートを複数のドローンが往復することになる。ドローン同士が衝突せずに飛行するための管制システムが必要になる。

このような課題を美団はどのように解決していったのだろうか。

▲測位衛星の信号が乱れる原因となっている、大都市圏にあるビルの窓ガラス。測位衛星の信号をガラスが乱反射してしまうため、正確な測位ができなくなる。美団デモ映像より引用。

日米と異なり、美団は独自ドローンの開発へ

美団のドローン配送プロジェクトは2017年11月から始まっている。最初は市販のドローンを購入し、配送に適しているかどうかの実機テストをすることから始めた。しかし、すぐに市販機は市街地での配送には向いていないことがわかり、翌2018年2月からオリジナルドローンを開発。同年6月に最初の試作機「FP300」が完成した。

この「FP300」が市販のドローンと異なるのは、通常ローターが4つあるのに対して、6つであるという点だ。万が一、ひとつのローターが故障をしても残る5つのローターが使えるため、制御しながら不時着誘導をすることが可能になる。2つのローターが同時に故障をしても、4つのローターが使えるため安全な不時着が可能になる。

また、ローターひとつあたりの負荷を減らすため、プロペラの形状を工夫し、なおかつ騒音が発生する回転数をできるだけ使わないようにすることができた。その結果、静かに飛行が可能なドローンとなり、騒音問題も解決できた。

現役機「FP400」は、2つの着脱式バッテリーとひとつの固定バッテリーを搭載している。ひとつは飛行をするための主バッテリーで、この主バッテリーが失われた場合、副バッテリーに切り替わり、制御された不時着を試みる。この副バッテリーまで失われた場合は緊急用バッテリーに切り替わり、パラシュートが開いて降下し、最悪の場合でも被害を最小限にとどめるようにしている。

▲美団が開発したオリジナルのドローン機「FP400」。最高高度120m、秒速10m、連続飛行時間20分。3kgまでの荷物を積載することが可能だ。美団公式サイトより引用。

開発チームが最も力を入れたのが不時着戦略だった。「FP400」には地表に向けたカメラが搭載され、地上を常に映している。AIが「人、車など移動するもの」と「一定面積以上の平地」を認識し不時着をする場合は、人や車を避けて広い平地へと誘導する。この不時着戦略は飛行中常に再計算を行い、問題が発生した場合は不時着戦略に切り替わる。これにより、人や車に被害を与えることなく、公園や建築物の屋上などの平地にドローンが着陸できる仕組みだ。

▲ドローンのカメラによる、撮影された地上の様子。最適な不時着ルートを再計算しながら飛行をしている。美団テックチームサロンWeChat公式アカウントより引用。

新たな測位技術の開発

前述したように、大都市ではマンションや商業ビルなどガラス張りの建造物が多い。中国では中国版GPS「北斗」が使われるが、ビルのガラスが測位衛星の信号を乱反射するため、ドローンの測位精度が大きく落ちてしまう

この測位を補助する仕組みとして美団が考えたのは、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping=自己位置推定とマッピングの同時実行)技術だ。お掃除ロボットの高級モデルにも搭載されている技術で、撮影映像を元に地図をつくりながら、自分の位置を推定していくというものだ。美団のドローンの場合、飛行区域にある高層ビルなどの立体地図はあらかじめデータとして持っておくことができる。ドローンの飛行中複数の撮影映像から、三角測量の要領でビルまでの距離を計算し、自分の位置を正確に推定をする。

しかし、このような推定を行うのは演算量が多く、十分な精度が得られない。そこで開発チームは、位置推定の演算量を減らす工夫もした。特定の点までの距離を測定するのではなく、撮影映像からビルの辺や窓枠のなどの直線を抽出し、この直線までの距離測定を行う。人間の目も両眼で見ることで視界を立体化して、外界の物体までの距離を測定しているが、パチンコ玉のような小さな点に近いものは距離を把握しづらい。一方、バットのような棒状のようなものは把握をしやすいが、いわばそれと同じ理屈だ。

このアルゴリズムは論文発表もされ、国際学会ICRA(IEEE International Conference on Robotics and Automation)の2022年のナビゲーション部門の最優秀論文にも選ばれている。

▲美団は風景から線分を抽出し、その線分までの距離を高速で計算できるアルゴリズムも開発した。「EDPLVO:Efficient Direct Point-Line Visual Odometry」(Lipu Zhou他)より引用。

管制システムの整備

大都市で飲食品などを配送するには、もうひとつ大きな課題がある。それは管制システムだ。多数のドローンが固定されたルートを往復することになるため、衝突の危険性が生じやすい。航空機などでは往復で高度を変えることで衝突を防いでいるが、ドローンは気候条件の影響を受けやすく、不時着戦略も再計算しながら飛行をしているため、高度を固定するのは難しく、飛行ルートは自律的、動的に変わっていかざるを得ない。

そこで開発チームは、4次元で閉鎖区間管理をする管制システムを開発した。飛行ルート付近を、3次元に時間軸を加えた4次元の仮想セルに分割。飛行をするドローンはまずこの仮想セルを予約していく方式にした。すでに他のドローンにより予約されている仮想セルに入ることはできず、別の仮想セルを予約せざるを得なくなる。4次元空間で行っているだけで、鉄道の閉鎖区間による管理と同じ考え方のものだ。

これにより、空間容量を超えたドローンを飛行させない限り、衝突やニアミスが起きることは避けられるようになった。

戦略的に配達網を構築。効率化で大都市の物流を変えていく

ドローンは、各家庭やオフィスのベランダなどに配達をするのではなく、屋上や敷地内に設置された専用ステーションに配達される。荷物は自動的にステーション内に取り込まれ、宅配ロッカーとなるため、注文者はスマホで解錠をして自分の商品を取り出す仕組みだ。

▲美団のドローンステーション。この天井部にドローンが着陸をすると、荷物は自動的にステーション内に格納される。人がドローンに接触することが避けられる。美団公式デモ映像より引用。
▲ステーションは宅配ボックスになっており、注文者は自分でスマホを使って解錠する。美団公式デモ映像より引用。

オフィスビルやマンションでは、セキュリティの関係からデリバリースタッフを敷地内に入れないようにしているケースが多い。このため、荷物を受け取るためにはデリバリースタッフから連絡を受けると、エントランスホールや門などまで行かなければならない面倒があった。宅配ボックスに配達をしてくれれば、自分のタイミングで受け取りに行ける。

また、ドローンはステーションの屋上部分に着陸をするため、安全に着陸をすることができるのも利点だ。

中国のSNSでは、このドローン配送の実用化のニュースに対して「美団の配達スタッフは全員失業」などという冗談が飛び交った。しかし、実際にはそうではなく、美団ではドローンや無人カート、人の配達を効果的に組み合わせていくことを考えている。ドローンが担当するのは、ショッピングモールとオフィスビルなどの需要が多い路線だ。ここは人が担当をすると、帰りは空で帰ってこなければならず効率が悪い。ドローンであれば空で帰ってきても大きな問題にはならない。戦略的に配達ネットワーク全体を考え、最適な配達方法を組み合わせることで、ネットワーク全体の効率を高めようとしているのだ。

美団はドローンによる配送を深圳市だけでなく、上海市や北京市でもデモンストレーションを行っており、大都市を中心にドローン配送を広げていく計画だ。大都市の物流の新たな手段が加わることになり、利用可能地域で暮らす人々の暮らしの利便性は今後さらに増していくといえそうだ。

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