2023年5月23日
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スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に所属する研究者らが発表した論文「Deployment of an electrocorticography system with a soft robotic actuator」は、脳のモニタリング用に頭蓋骨に穴を開けて挿入するソフトロボットを提案した研究報告である。中に入ってから折りたたみ式の平らで柔軟なセンサー6本を伸ばして脳の皮質上に設置することで、脳活動を記録する。
皮質脳波(ECoG)は、脳の皮質表面に電極を配置することで電気的に脳活動を計測する革新的な手法である。この手法は、てんかん発作や他の神経疾患を抱える患者の監視や治療に貢献するだけでなく、ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)との連携も可能性として模索されている。
しかし、ECoGは頭皮脳波(EEG)とは異なり、計測に使用される電極を開頭手術によって挿入する必要がある。頭蓋骨に穴を開け、電極を皮質に配置し、電極につながるケーブルを頭部の外に出す形で設置される。
従来は、脳に電極を配置するために、外科医が頭蓋骨に装置のサイズに合った穴を開ける必要があった。研究者たちは、この負担を軽減するために、穴の大きさを小さくする方法を模索してきた。新しい提案手法では、頭蓋骨の入り口を小さく開け、内部で展開するセンサーを利用することで、従来の手法よりも低侵襲なアプローチを目指している。これにより、患者への負担が軽減されることが期待される。
全長2cmのソフトロボットは、柔軟なシリコンポリマーで平らにつくられた足センサーが6本あり、中央の胴体を中心に螺旋状に広がるように取り付けられ、タコのような形状をしている。足センサーは折りたたみ可能で、完全に伸ばすと直径4cmになり、それぞれの足センサーには脳の活動をモニターするための電極が取り付けられている。頭蓋骨に穴を開け、6本の足センサーを折りたたんだ状態で挿入し、内部で展開することで電極を皮質上に配置する。
実験では、プラスチックとハイドロゲルから作られた脳の模型を使用し、ソフトロボットが挿入できるかテストした。結果、挿入後に足センサーが展開され、設置できることが確認された。
さらに、実際に豚の脳を使って設置し、脳活動が記録できるかをテストした。試験用にソフトロボットの足センサー1本だけを脳内に設置した。挿入された状態で豚の鼻を電気的に刺激し、ソフトロボットの電極が脳活動を記録できるか試した結果、脳のパターンを精度良く記録することができた。
Source and Image Credits: Sukho Song et al. ,Deployment of an electrocorticography system with a soft robotic actuator. Sci. Robot.8,eadd1002(2023).DOI:10.1126/scirobotics.add1002
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