「臓器の製造」「遺伝子編集ツール」「古代のDNA解析」など 2023年にブレイクする技術10選をMITが発表【研究紹介】

2023年1月16日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」(https://shiropen.com/)を運営。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディア企業Technology Review社が刊行する科学技術誌「MIT Technology Review」は、2023年にブレイクするだろうと予想する技術分野10を発表した。ここでは、その10個の技術を説明したいと思う。

1. 遺伝子編集ツール

過去10年、ゲノム編集技術「CRISPR」(Clustered Regularly Interspaced Palindromic Repeats))は研究室から臨床へと発展してきた。CRISPRとは、DNA配列の任意の場所を切断できる遺伝子編集技術である。

これまでの実験的治療では、遺伝性疾患に焦点を当てたものに留まっていたが、最近では高コレステロールなどの一般的な疾患の臨床試験へと拡大した。

昨年、血中コレステロール濃度を下げるため、ニュージーランドの女性(心臓病持ち)が遺伝子編集治療を世界で初めて受けた。患者にCRISPRを注射投与し、肝細胞のDNAの1文字を編集するというものである。これによって、動脈硬化に起因する心筋梗塞や脳梗塞になる悪玉コレステロールの血中濃度を恒久的に下げる効果をもたらすという。

さらにCRISPRの欠点を補うように登場した、Prime Editing(PE)がより良い未来を示してくれる可能性がある。PEは、DNA配列を思い通りのDNA配列に書き換える技術である。これによって、病気の原因となる遺伝子を置き換えることができるようになるかもしれない。PEの登場により、遺伝子編集の幅が広がり、遺伝的なものばかりでなく、例えば高血圧など一般的な症状に適応できる可能性が期待されている。

2. 映像を生成するAI

OpenAIは2021年、テキストから画像を生成するText-to-Imageモデル「DALL-E」を発表した。ユーザーが入力したテキストに応じた画像を生成するモデルである。

それ以降、「DALL-E 2」やGoogleの「Imagen」、オープンソースの「Stable Diffusion」や「Midjourney」などが続々とリリースされ、昨年は画像生成AI元年となった。

進化は早く、テキストから画像への変換だけでなく、テキストから3Dモデルや動画を生成するモデルも続々と登場した。GoogleやMetaなどの大手企業から大学の研究室や各国の研究機関など、世界中の研究者が開発を進めている。しかし、まだ精度は低く、動画に関しては数秒のノイズの多い映像しか出力できていないのが現状である。

今は期待される出力結果ではないが、画像生成モデルの成長スピードを考えると、精度が高くなるのも時間の問題だろうと予想される。台本だけで生成した長編映画が登場する未来もそう遠くないかもしれない。

3. 誰でも簡単に作れるチップ

Intel社やARM社のような巨大チップメーカーは、長い間、設計図を独占してきた。そのため、これらの企業からチップ設計のライセンスを受けなければチップ製造はできなかった。だが、オープンソースライセンスの命令セットアーキテクチャ「RISC-V」の登場が、こうした勢力図を覆し、誰もが簡単にチップを作れる世界に変わろうとしている。RISC-Vは、UCバークレーの教授が中心となって作った命令セットである。

現在、企業や学術機関など世界の約3,100のメンバーが、非営利団体RISC-V Internationalを通じて協力し、普及や管理を担っている。

RISC-Vチップはすでにイヤホンやハードディスク、プロセッサなどに搭載され始め出荷もされている。また、データセンターや宇宙船向けのRISC-V設計に取り組んでいる企業もあり、さまざまな分野で広がりつつある。

4. 量販店向け軍用ドローン

軍事用ドローンは、その費用と厳しい輸出規制のために、かつては小国には手が届かない存在だった。しかし、民生用部品と通信技術の進歩により、メーカーは軍事用ドローンを安い価格で製造できるようになった。

ウクライナ戦争ではプレデターやリーパーといったハイエンドなアメリカ製航空機ではなく、中国、イラン、トルコ製の低予算機が活躍している。この低予算機の普及により、ドローンによる戦闘のあり方が変わってきている。

例えば、中国のDJI社のような市販の民生ドローンで偵察と近距離攻撃に使用されるケースがある。また、ロシアがキエフ市民を攻撃するために使用したイラン製爆発型ドローン「シャヘド」のように、より長距離の任務が可能なものもある。ドローンが安いがゆえに、自爆ドローンという攻撃方法が採用されたわけだ。

最も注目すべきは、トルコのBaykar社が製造したバイラクタルTB2である。バイラクタルTB2は、時速最大138マイル、通信距離約186マイルで何十時間の連続飛行が可能という。さらに翼に搭載したレーザー誘導弾の照準を合わせたり、地上からの砲撃の指示を出すのに強力なツールとなる。

5. 遠隔医療による中絶薬

米連邦最高裁判所は昨年の6月、「中絶は憲法上で保障された権利ではない」との判決を下した。これにより、中絶の可否の判断が各州に委ねられることになった。州によっては、レイプや近親相姦、胎児に遺伝的異常がある場合でも中絶ができなくなるわけだ。

各州で中絶禁止法が施行されると、中絶薬への関心と需要は急増した。ほとんどの州では中絶を求める人を罰則対象から外しているからである。結果的に自宅で容易に中絶ができる経口中絶薬にニーズが向いた。クリニックに出向くリスクがなく、中絶が完了するまで日数はかかるものの内密に中絶でき、しかも安全性はFDAが認めているからだ。

そこで医療従事者やスタートアップ企業は、自宅で安全に中絶を行える錠剤を処方・配達するために、遠隔医療に注目した。患者は写真付き身分証明書を持って登録し、ビデオ通話などを通じて医療提供者に相談する。医療提供者は薬を処方し、薬を患者に発送するといった流れである。遠隔医療による中絶を提供する団体としては、Aid AccessやCarafem、Choix、Just the Pill、Hey Janewereなどが挙げられる。

6. 臓器の製造

昨年、57歳の男性が遺伝子操作された豚の心臓を移植した。男性は移植後2ヶ月で死亡したが、移植しなければもっと早く亡くなっていたかもしれない。このように、人間の臓器を移植できない状態の患者は沢山いる。臓器移植を必要とする人の数は、臓器提供者よりはるかに多いのが現状である。

この問題に対して、動物の臓器を移植する方法はひとつの解決策になる。だが動物の臓器に対する人体の反発を克服するのは簡単ではない。例えば、豚の組織の表面にある糖分は、人間の免疫系を攻撃モードにする場合がある。そのため遺伝子操作によってその糖質分子を取り除き、他の遺伝子を追加して対応しなければならない。このようにいくつかのバイオテクノロジー企業は、現在も、豚のDNA配列を編集することによって臓器がより人間の体に適合するように実験を繰り返している。

一方で動物の臓器を使うのではなく、臓器そのものを作る「オルガノイド」の初期段階の研究も行われている。オルガノイドとは、幹細胞やips細胞を培養して3次元の組織を形成するもので、生体外で人為的に創出された臓器を指す。課題も多いがこれからの技術である。

このように動物の臓器にせよ、細胞から臓器を作るにせよ、将来的に工場で臓器が生産されるようになれば、より多くの人の命が救われるようになるかもしれない。

7. 電気自動車

5,000ドルを少し下回る価格で購入できる中国の上汽通用五菱汽車が生産、販売する小型車「Hongguang Mini」は、世界で最も売れている電気自動車(EV)である。またHero ElectricやAtherなどの2輪車や3輪車のラインアップが増えたことで、インドでのEV販売台数は昨年1年間で3倍になった。このように、電気自動車の需要が高まっている。

後押しする流れで、政府による電気自動車推奨も高まってきている。カリフォルニア州とニューヨーク州では、2035年までにすべての新車、トラック、SUVをゼロエミッション車(環境を汚染する廃棄物を排出しない車)にすることを義務付ける予定であり、EUでも同様の規則が行われようとしているという。

課題も多いが、バッテリーはますます安価になり、政府はより厳しい排ガス規制を制定し、今後、電気自動車の購入が増加傾向になることが予想される。それに伴い、電気自動車周りの技術も発展していくと考えられる。

8. ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が打ち上げられたのは2021年12月、今は地球から約160万km離れた宇宙空間を浮遊しており、去年の夏から本格始動した。JWSTは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が主となり開発が行われた、「NIRCam」(近赤外線カメラ)と「NIRSpec」(近赤外線分光器)を積んだ宇宙望遠鏡である。米国、欧州、カナダの100億ドル規模のプロジェクトである。

JWSTはこれまで宇宙に送られた望遠鏡の中でも最大で、前身のハッブル宇宙望遠鏡の約100倍の性能を持つ。赤外線の検出に特化しているため、塵を切り裂き、宇宙で最初に星や銀河が形成された時代までさかのぼることができる。

鏡の直径はハッブル望遠鏡の3倍にあたる21フィート(約15メートル)で、解像度は桁違いに優れている。また、太陽の熱や光から鏡や観測機器を守るために、テニスコートほどの大きさのサンシールドが搭載されている。

すでに様々な画像が撮影され公表されているが、JWSTの目標は宇宙誕生ビッグバン後に輝き始めたとされるファーストスターを観測し、銀河がどのように誕生したかを確かめることである。他にも、未確認の惑星、星雲の壮大な画像の撮影、銀河の構造を調べるなど、宇宙に関連する多くの発見が期待されている。

9. 古代のDNA解析

古代人の歯や骨を研究するため、これまでは保存状態の良いサンプルを古代の遺跡から探し回らなくてはいけなかったが、今ではゲノム解読ツールにより、非常に古いヒトの損傷したDNA配列でも読み取りができるようになった。

ネアンデルタール人が排尿した汚れの中から発見された微量のDNAを分析することさえも可能だという。このように古代のDNA解析が進化している。

遺伝学者スバンテ・ペーボ教授は昨年、その基礎となる研究でノーベル生理学・医学賞を授与され、古生物学が一躍脚光を浴びた。教授は、ネアンデルタール人のDNA配列の解読に初めて成功し、後に全ゲノムの解読に成功した。 またこれまで知られていなかった絶滅したヒト科の一種「デニソワ人」を特定し、人類の歴史に大きな影響を与えた。

古代のDNA解析によって様々なことが明らかになる。例えば、インドの人口が様々な祖先から生まれたことを示し、カースト制を根底から覆すことになった。またシチリアの2500年前の戦場から採取されたDNAは、古代ギリシャの軍隊が歴史家が描いていた以上に多様であったことを明らかにした。

他にも古いサンプルは現代の健康の謎も解き明かす。昨年、人骨のゲノム解析から黒死病の大流行を引き起こしたペスト菌の祖先株であったことを明らかにした。それがクローン病などの自己免疫疾患の危険因子であることも明らかにした。このように、今後も古代のDNA解析により、さまざまな真実が明らかになっていくことが期待されている。

10. 電池のリサイクル

電気自動車の普及に伴い、リチウムイオン電池の需要は急増している。だが、電池の製造に必要な金属の供給が追いついていないのが現状である。これまでのリサイクル手法では、これら金属をカバーしきれなかった。

最近では金属をより効果的に溶解し、電池廃棄物から分離することに成功している。現在では、使用済み電池や電池製造時のスクラップから、コバルトとニッケルのほぼ全量、リチウムの80%以上を回収できるようになった。また、アルミニウム、銅、グラファイトも回収されるという。リサイクル業者はこれらの金属を採掘品とほぼ同等の価格で再販する。

現在、電池のリサイクルでは中国が世界をリードしており、CATLのような電池メーカーの子会社が中心となっている。EUは最近、電池メーカーに義務付ける大規模なリサイクル規制を提案した。北米ではRedwood Materials社やLi-Cycle社など、数十億ドルの公共・民間投資を受けた企業が急速に事業規模を拡大している。

このように電池のリサイクル技術の進化はこれからさらに必要不可欠であり、市場も拡大すると考えられている。

元記事:10 Breakthrough Technologies 2023

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