2022年12月27日
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito)
年末になりボーナスの話題で賑わっています。
私も含め、年俸制の人たちは何やら景気が良さそうな話題を横目にしらけた気持ちになるわけですが、いくつか注意点があるのがボーナス制です。私自身のキャリアは年俸制からスタートし、その後の転職でボーナス制に移行、程なくして部下のボーナスを査定する側になりました。今回はITエンジニア目線でボーナス制についてお話をしていきます。
ボーナスは一般的に前期の売り上げ成果に対して付与されるものです。ではITエンジニアとボーナス制について考える上で、どのように捉えるのが良いかをお話ししていきます。
特にSESなどでは工数ベース(人月)の請求が行われます。このような人月ビジネスでは、ボーナスが2回出る場合は想定年収を14分割して普段の給与を支払い、ボーナスには1ヶ月分の給与を上乗せして支給する形式をよく見かけます。
ボーナスに向けた積み立てのように見えますが、分かりやすい計算方法です。
成果が見えやすい人月ビジネスに対して、自社サービスのボーナス査定は非常に難しいものです。
あるサービスや機能をリリースし、それによって売上を上げる自社サービスの場合、企業の利益に対するITエンジニアの貢献度が見えづらいことがあります。例えば、プロダクトを開発・リリースしたというのは事実ですが下記のような場合はいかがでしょうか。
このように、他職種との協働や外部要因による影響が大きいため、企業側からはプロダクトの売上をもとに、エンジニアの成果を判断することが難しいものです。一方、エンジニアも「成果を上げられたのは開発のおかげなのでボーナスで評価してほしい」と強気に交渉しづらいため、結果ボーナスの評価があやふやになってしまう場合が多いです。
ITエンジニア経験者採用市場では、2022年10月以前はかなり売り手市場だったため、給与が上振れして提示されることが多々ありました。そこで企業側から問題視されるのが、自社の給与水準が他社よりも低いことによる離職です。
私のところにも数多くご相談いただ頂くのですが、給与のベースアップは全社に影響が及ぶため、他職種の顔色を見て二の足を踏む企業が多々見られます。
この対策として、ボーナスに色をつけることで想定年収を市場にあわせに行くという企業をよく見かけます。
逆のケースも存在しています。何かしらの理由でパフォーマンスが想定よりも発揮できなかった場合、想定年収を下げる方向で調整することもあります。
ボーナスの査定者として一番調整が億劫だったのが前回支給との差分説明です。際立った成果が見られボーナスに色をつけた回があったとして、翌支給時に同等のボーナスを出せるのかというところです。
特に企業全体の売上が芳しくない時期だと、「他の上層部を説得できるだけの売上貢献に繋がったのかどうか」ということが議題にあがります。本人は前回と変わらない働きぶりをしたつもりであったとしたら、そこにギャップが生じてしまいます。中にはボーナスが同程度支給されるだろうという見込みを勝手に立て、使ってしまった後に青ざめる人も何名か会ったことがあります。
ボーナス査定が前回よりも上下した方には「なぜ今回の査定が高いのか(低いのか)」を、評価担当者へのヒアリングなどで明らかにし、自身の次回ボーナスに対する期待値調整をしておくことをおすすめします。
ボーナス制と年俸制には、もはや文化ギャップと言って良いほどの違いがあります。以下では、年俸制からボーナス制に転職したいと考えるエンジニアのために、もっとも留意していただきたいことを2点お話します。
まずボーナスを「どの程度期待して良いか」という点でギャップが生じやすいです。ボーナス制企業の場合、年間給与は内定通知時に「想定年収」という形で提示されることが多いです。あくまで「想定」年収なわけですが、年収という体裁なので「満額貰える」と捉える方が多々います。そして、残念なことにあまりそのギャップを意識せずに説明してしまう人事もいます。私が過去内定をいただいた企業でも、満額貰えるような説明をする人事の方がいましたが、契約書では確約していないので注意が必要です。
例えば毎月の月収は想定年収を16分割したものが支払われる場合を考えます。ボーナスについては業績ベース判断なわけですが、年俸制からやってきた方の中には入社後に「この月収だと暮らせない」という方もいます。年収すり合わせ時には月収と併せて確認し、お互い納得できる金額で着地するようにしましょう。
実際、ボーナス制か年俸制かという協議を企業側が押し切り、前職より低い月収で着地するケースも耳にします。自分が出会ってきた方の中には、月額給与が足りないためにキャッシングし、ボーナスで返済することを繰り返すケースもありました。早期退職に繋がる内容なので、人材定着の観点からも、エンジニアと丁寧にすり合わせるように心がけましょう。
良心的な企業であれば試用期間も含めて分割査定してボーナスを支払いますが、中には「試用期間はボーナス査定期間に入らない」という規則のところもあります。オファーを受ける際にはボーナス査定期間と、初回ボーナス支払い月についてもしっかりと確認をしましょう。
ボーナス支給の時期になると、支給時期を見計らって退職をする方が一定数見受けられます。より高度な方であれば、ボーナス査定が確定したタイミングで退職届けを出すという方もいるようです。1日でも多くここにいたくないという強い意志を感じます。
ボーナスは過去業績に関わるところなので、論理的には問題はありません。しかしボーナス査定経験者の1人としては、いくらかの将来への期待も含めているのも事実です。ボーナスが出たり決定したタイミングで辞められると査定担当者としてはつらいものがあります。
また、近年では苦肉の策として、3ヶ月ごとにボーナスを支給する企業も登場しています。分割して均すことにより、一定の引き留め効果があるとのことです。
退職を促すボーナス、退職を思いとどまらせるボーナス。どちらもボーナス制の側面です。いろいろな経営層と中間管理職の思いを含んでのボーナスだと感じていただけると幸いです。
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