2022年10月11日
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito)
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長兼「流しのEM」の久松です。IT界隈を歴史やエピソードベースで整理し、人の流れに主眼を置いたnoteを更新しています。
採用担当者の皆様とお話しする際、かなり序盤にご相談いただくことが多いのが「書類通過率の低下」です。下記レバテックが行った調査からも、「面接の通過率が低い」、「自社の魅力づけができない」に続いて、「書類通過率が低い」がランクインしています。ちなみに、「自社の魅力づけができない」という悩みに対して、過去には企業のテックブランディングをテーマに書いた記事があるので、よかったらそちらもご一読ください。
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では、書類通過率が低いのはなぜでしょうか?その理由は内部要因と環境要因に分かれます。それぞれの傾向を見ていきます。
採用の現場では、多すぎる自己応募や、的外れな紹介を真面目に人事採用担当が対応した結果疲弊してしまうことが多く見られます。このような書類通過率の低下をもたらす環境要因について、チャネル別の事情を見ていきましょう。
採用を初めて日が浅い担当者の場合、コーポレートサイト経由で応募が集まることについてとてもポジティブな印象を持つ傾向にあります。なんとなく求人ページを開いただけでITエンジニアを名乗る人たちからの応募が殺到するわけでなので「弊社、イケているのでは?」と錯覚しやすいのです。
現在はやや沈静化した動きではありますが、2020年頃に見られた現象としては「ほとんどの応募が未経験、もしくはプログラミングスクール在籍者だった」というものです。当時、オンラインプログラミングスクールの中には「転職保証制度」を謳うものが多く存在していました。しかしこれには条件があり、「毎週20社にエントリーしなければ転職保証は無効」というものでした。毎週20エントリーというと、3ヶ月程度のカリキュラムであれば20✕4✕3=240社にエントリーすることになります。これを各受講者が実施するわけで膨大な数のエントリが企業に集まります。
未経験ITエンジニアの多くは各種インフルエンサーの影響で「フリーランス>>>自社メディア>>SIer>SES 」という根拠の乏しいヒエラルキーを持っています。そのため、本来であれば未経験者でも教育する気概のあるSIerやSESには応募せず、自社サービスに優先してエントリーするため、未経験ITエンジニアの一部企業への集中が発生します。
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こうした変遷に最も晒されてきたのが「コーポレートサイトの直接応募窓口」です。99%が未経験なのですが、ごく稀に経験者が現れるととんでもなく輝いて見えるという人間心理があります。結果、選考が「経験者の直接応募だから」と採用基準が甘くなり、入社後のトラブルで大反省会が行われたという話もよく聞きます。
ちなみに今では、未経験エンジニアをターゲットにしているプログラミングスクールの多くは転職保証制度を声高には叫ばなくなり、「いつでもどこでも働けるフリーランスになれる」という打ち出しに切り替えていきました。内定が必要な正社員転職に対し、フリーランスは開業届だけで済むため、ハードルが格段に低いからです。そして代わりに「営業手法」をセット売りしていきました。それにより、コーポレートサイトの直接応募窓口から「なんだか最近応募数が落ち着いている」と感じる企業もすくなくないようだ。
媒体の仕様にも寄りますが、気軽にポチッと応募を押せるが故の課題です。観察をしていると次の2層に分かれる傾向があります。
共通する項目としては、待遇は維持しつつ、経験職種と応募職種の一致が全くない人が多いことにあります。
よく見る例としては、営業職中間管理職の方が開発プロジェクトマネージャーに応募するなどがあります。おそらくはマネージャーというキーワードと給与レンジだけのマッチングなのでしょう。
正直これについては、対策がありません。特に有名企業、大企業の場合は有名税だと思って諦める必要があります。強いていえば、直接応募の機能を閉じる、直接応募の概念がない媒体を採用するといったことが有効です。
有効求人倍率が高すぎる現在では、人材紹介会社の中の人の処理が追いついていないケースがあります。紹介会社によっては、相手が欲しい人物像を全く理解していないような会社も残念ながら存在しています。
紹介フィーを上げることでいくらか人材紹介会社の中での優先順位を上げることはできます。ただしその紹介フィーは現在では50%以上となっているため、自社の財務状況とも合わせてよくご検討された上での決定をお勧めしています。
内部要因の最たるものは、言語化の不十分さによる現場が求める人物像と、人事採用担当が認識している人物像の不一致です。
スキルセット、スキルレベル、前職までの経験、性格、そして多くの現場では年齢が重要な要素になってきます。これらについて現場の要望に合わせていくと、転職市場に全く人がいないということもよくあるため、スカウト媒体の実データや、条件別の人数を出しながら現場の期待値調整と譲歩を求めていくことが必須となります。
前述した内部要因と環境要因のうち、環境要因の改善は困難です。採用フォームを閉じることくらいしか具体策はありません。
それに対し、内部要因は面接官との対話により改善可能です。以下では、いくつか改善のヒントについてお話しします。
人材紹介などでは個人情報を隠したマスクレジュメというものがあります。これらを現場にも見てもらうのが効果的です。
単に可、不可だけではなく「ここの経歴が良かった」「ここの部分がこうだったら良かった」などと理由を言語化していきましょう。
どんな検索キーワードを入れると良いのかだけでなく、どういったキーワードがあるとNGなのかを擦り合わせていきます。
過去に内定を出した人や、中途入社して活躍する人について、どのあたりが良かったのかを現場からヒアリングし、言語化していきましょう。
開発チームによっては「こういう企業にいた人とはうまくやれたことがないのでNG」というケースも多々あります。
検索条件を入れても、要件が高すぎて該当者が少なすぎることがあります。
現場メンバーと実際の検索画面を見ながら、ある程度自社で育成ができる、もしくはオンボーディングコストを見越しても許容できる譲歩条件を引き出しましょう。
ある程度の応募者数が見込めるようになってくると、マーケティングのようにKPI管理をすることが求められます。よく見かけるものは下記のような数字を記録し、残った人数のパーセンテージを見ていくことができます。
しかし、これまでお話ししてきたように、応募数はいたずらに増えるケースが一般的です。また、スカウト返信率も媒体に寄り切りのところがあるため、返信率を評価軸にすると、採用担当者の評価が外部要因で下がる懸念があります。
そこで、私は書類通過数を母数にした各プロセスのパーセンテージをKPIとすることをお勧めしています。この値をみると、選考するにあたって、求めている人材を効率的に面接官に渡せているかどうかがわかります。
現場(エンジニア面接官)の立場からすると、面接の基準に達していない応募者が多いと、無駄に採用時間を取られたような気持ちになりやすいです。現場の負担を軽減することで、現場は採用に協力しやすくなります。
人事とエンジニアが協力して採用活動を行うためにも、互いの本業を意識した協力体制と励みになる数字管理をしていくようにしましょう。
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