『ITエンジニア採用とマネジメントのすべて』出版記念・今日から始めるテックブランディングの4箇条

2022年8月29日

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長 兼 流しのEM

久松 剛

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。博士課程(政策・メディア)修了。その後高学歴ワーキングプアを経て、2012年に株式会社ネットマーケティング入社。マッチングサービス SRE・リクルーター・情シス部長・上場などを担当。2018年にレバレジーズ株式会社入社。開発部長、レバテック技術顧問としてエージェント教育・採用セミナー講師などを担当。2020年より株式会社LIGに参画。海外拠点EM、PjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを担当。現在は合同会社エンジニアリングマネージメント社長 兼 流しのEMとして活動中。X(@makaibito

合同会社エンジニアリングマネージメント 社長兼「流しのEM」の久松です。IT界隈を歴史やエピソードベースで整理し、人の流れに主眼を置いたnoteを更新しています。

この度、ITエンジニアの「採用・定着・活躍」を主題にした著書『ITエンジニア採用とマネジメントのすべて』を発売いたしました。今回は自社エンジニア組織の魅力をどうアピールしていくかという、テックブランディングの初手と、著書の読み手別推奨する読み方についてお話します。

人材の流動化と、なし崩し的に進むジョブ型採用

ITエンジニアの採用・定着・活躍を語る上で人材の流動化は避けて通れません。従来の新卒一括採用、年功序列、終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用であったり、表向きはベンチャー企業であってもメンバーシップ型雇用企業を模倣していたりする企業であれば、「一度採用した正社員はすぐには辞めないはず」という前提があるでしょう。

しかしここに来て「2年程度いてくれたら良い方」というくらい、定着率の低さが一般化しつつあり、平たく言うと「ITエンジニアを正社員採用し、内製化をする行為のコストパフォーマンスの悪さ」が気になる経営者が登場しています。

また、もう1つの観点は、エンジニアにおけるメンバーシップ型採用からジョブ型採用への変化です。本屋の人事コーナーを見ると、「ジョブ型雇用は何か」といった解説本がずらりと並びますが、ITエンジニアに関して言えば、すでになし崩し的にジョブ型雇用が始まっています人材の流動化に伴う経験者採用と待遇の向上、フリーランスの一般化といった事柄は企業が提示するジョブディスクリプションとのマッチングと、その業務内容やレベル感に対していくら払う契約をするかという点においてジョブ型雇用と言えます。

現在はこうした雇用スタイルについてもまさに過渡期です。時代の流れを見つつ、自社で取り入れられるところを取り入れないと、採用にも定着にも苦戦します。

今日から始めるテックブランディング

ITエンジニア採用において、日頃からの認知を高める行動は必須になってきました。広く一般的に有名な企業であっても、「どんな人がいるのか分からない」「何をしているのか分からない」ということを理由に志望しないITエンジニアは多く見られます。

そこで求められるのがテックブランディングです。テックブランディングの代表的なものとしては、テックブログ、セミナー・ウェビナーといったものがあります。ここでは、自社の魅力をアピールできる上記のチャ

テックブログでストック型コンテンツを溜める

ブログを通じて技術発信をするテックブログは一般化したテックブランディング手法と言えます。

一般的にITエンジニアは開発や運用時に問題に直面したり、リサーチをしたりする際にはGoogle検索を行うわけですが、検索で自社のテックブログが出てくるようになると認知に繋がります。そのためにはコンテンツを貯める(=ストックする)ことが重要です。

いきなりPVやLGTMの数字を目標にしても、「良いものを書こう」と気負うばかりで空回りし、やがてブログ自体が過疎化していきます。まず初手としてのポイントは、継続をKPIに置くことです。ある程度習慣化してきて初めて品質の問題に着手しても良いと考えています。

オワコン化が近いウェビナーより、倍速再生できるYouTube

Zoomなどを用いリアルタイムに行われるウェビナーですが、どうも最近は芳しくないようです。コロナ禍以前のオフラインでのセミナーは天候に左右されやすくドタキャンも多かったため、参加表明の半数程度が来れば良しとされていました。

その後、コロナ禍とともに広がったウェビナーですが、当時は物珍しさや移動コストの少なさ、ノウハウの少なさもあり、7割程度の参加が見られました。

しかしここに来て、ウェビナーが乱発されるようになり、参加者も登壇者と実際対面しないオンライン形式でドタキャンの心理的ハードルが下がったことから、参加率は5割程度になってしまいました。

先にお話したテックブログのストック型コンテンツに対し、ウェビナーのようなリアルタイム性の高いコンテンツは「フロー型」と言えるでしょう。フロー型はリアルタイムに目撃している人しかアプローチできないため、参加者が少ないウェビナーは費用対効果は低い。このデメリットを克服するために、編集の手間をかけてもアーカイブをYouTubeで公開することをお勧めします。アーカイブしてしまうと、視聴者は興味のない箇所をスキップができますし、仕事しながらラジオ代わりに聞けて、倍速で再生したりもできるので好評です。オンラインアーカイブとして残るので、長く視聴され、採用の裾野を広げるためにも検討するべき手法です。

エンジニアのイベントがない企業はイベント登壇から

イベント登壇も、テックブランディングに非常に有効な手法です。これまでイベント登壇などを行ってこなかった企業を想定して、2つの方法についてお話していきます。

・社内のエンジニアを巻き込む

まず最初に社内にいるエンジニアのうち、対外的な露出に興味があるかどうか、初対面の人達に対するコミュニケーションは任せて良いレベルかといったことについて棚卸しをする必要があります。イベント登壇などへの興味や過去実績を一人一人に聞いてみても良いでしょう。

完全なボランティアですと「時間外の有志による活動」となってしまい、サービス残業のような形になってしまうことから継続は困難です。そのため、継続のためのインセンティブ設計も必要で、さらに目標に組み込み評価に入れることも有効です。広報などに取材してもらい取り上げてもらうのも「公認の活動としてのイベント登壇」と見えるためお勧めです。

・知名度のある企業と組むのも有効

1社だけでイベントを実施するにはどうしても限界があります。また、運営のノウハウや集客といった事柄も経験者がいないと厳しいものです。

イベントを実施したい場合は、イベントの開催に慣れている企業とのタイアップや共催から始めたほうが良いでしょう。その際、共催相手にも何らかのGiveをしないと相手企業に旨味がありません。登壇者を出す以上の何かがあると理想です。オフラインイベントであれば会場の提供、軽食の負担、スタッフの提供などが多く見られます。相手企業との打ち合わせで意識していただけると良いでしょう。

2015年に終わった「求人広告を出せば経験者が来る」時代

就職氷河期は2015年にアベノミクスとともに終わったと言われています。ITエンジニアについては顕著で、2015年より前とその後では大きく事情が変わりました。

2015年より前は階層の深いSIerやSESのエンジニアに対し、「自社サービスである」というだけで訴求ができましたし、前職より低い年収を提示しても「自社サービスである」だけで決まることがありました。

2015年以降ではそのようなことは全くありません。どのような人が働き、なぜ募集をし、どのようなことができて、どういうキャリアを描けるのかを選考を通じて知ってもらわなければなりません。現在のように高度化した採用シーンでは人事採用担当だけが気を吐いても採用できなくなりました。年を追うごとに候補者の目も肥えてきているため、スカウト文もしっかりと書いた上で、面談の場で「なぜスカウトしたのか」をスラスラと言えないと厳しい状態です。

こうした状況を整理しどのような形でITエンジニアを採用するのか、定着・活躍してもらうのかを、予算計画も含めてご検討いただくきっかけとして、この本を手に取っていただければ幸いです。

▲『ITエンジニア採用とマネジメントのすべて 「採用・定着・活躍」のポイントと内製化への道筋が1冊でわかる』久松剛、かんき出版

読み手別、著者が推奨する読み方

この本をつくるにあたり、編集者の方と想定したのは経営層であり、人事の方でした。しかし下記の方々にも読み方によっては「参考になった」「モヤモヤしていたことがスッキリした」「キャリアの意思決定をする前に読みたかった」などのお声をいただいています。そのため、それぞれの読み手別に推奨する読み方を解説いたします。

経営層

現在、ITエンジニアの求人倍率は上昇し、採用にかかる費用、人件費、そして支払い給与も全てが上昇しています。採用チャンネルと採用ターゲットを見誤ると事業が傾くリスクがあります。

分かりやすくSESやSIerのような人月精算をするタイプの事業を想像してください。現在、Web開発ができるSESのメンバー層の相場は、80-90万円程度です。仮にこのメンバー層を正社員として600万円で雇ったとしましょう。人材紹介会社を使うと40-50%の人材紹介フィーが発生します。その場合300万円程度を人材紹介会社に払う計算になり、企業はこの300万円を毎月の月額単価から分割払いをするような格好になります。福利厚生や販管費などもあるため一概には言えませんが、仮に10万円を採用費用の返済に使うと30ヶ月かかります。つまり、採用費用だけで言うと30ヶ月以上在籍してもらわないと赤字になります。しかし、実際のところ2年程度で離職してしまう人材は少なくありません。収支だけで考えると「雇わないほうが良かった」という判断にもなりかねません。

正しく情報を収集し、予算を確保し、制度を整え、経営に生かさなければ事業が傾きかねません。場合によっては著書の後半に出てくる外注(コンサル、SIer、SES、海外)といった選択肢が現実的になる場合も多いです。

従来の採用であれば求人票をつくるところから始めれば良かったのですが、現在の求人票は働くイメージを湧かせる内容にしないと応募が集まりません。そのための第一歩としていかにして「自社の売り」「自社開発組織の強み」を発見するかという社内との対峙が必要です。ここで発見したことを求人票や会社説明資料に入れ、訴求をしていかなければなりません。

人事

「採用が課題だ」という企業は多いです。そのため、人事の中でも特に人事採用担当を専任で割り当てるケースが増加しています。採用と一言でいっても業務内容は複雑化しているため、闇雲に着手するのではなく、業務を細分化した専任のチームが必要になります。中には「私の仕事は内定承諾までです」と言い切る採用担当者にも会ったことがあります。

とはいえ、細分化した業務をそれぞれが突き詰めれば良いというわけでもありません。採用だけに特化したとしても、採用はあくまでも通過点です。かけた採用コストを回収するためには入社した人たちに定着・活躍してもらい、企業貢献をしてもらわなければなりません。

各人事担当者のキャリアのバリエーションやロバストネスを鑑みても、労務、評価、研修といった一般的な人事機能を学び、経験することをお勧めします。その切り口としてこの本を通じて俯瞰していただければと思います。

エンジニア

この本は経営層が抱える悩みに対し、俯瞰的に解説をしたものになります。そのため、エンジニアの方にはこの本をもとに企業の意図を読んでいくと、就職や転職時の企業の意図がわかり、より優位に振る舞うことができるでしょう。また、何が期待されるかを逆算することで評価アップや出世を期待することができます。多くの企業が採用する行動評価や、その際に重要視される観点である「視座」が何であるかも理解できるでしょう。

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