フィンテックのさらなる進展のために インフラ提供企業が対処すべき課題と機会【テッククランチ】

2022年9月28日

寄稿者

LauraSpiekerman

銀行やフィンテック企業向けのID判定プラットフォーム「Alloy」の共同設立者で最高収益責任者。

「フィンテックが苦戦している」という見出しを目にしたことがあるだろう。昨年来、フィンテック企業の評価額は70〜80%下がり、取引は67%減少し、かつて人気があった業界企業の多くで解雇の嵐が吹き荒れている。

しかしフィンテックは回復力がある。融資、決済、暗号資産(仮想通貨)、そして特にインフラなどの分野では、イノベーションによって新たな展開が続いており、この業界にはまだ大きな成長余地があることを示している。また、今年の投資活動は減少したとはいえ、2019年や2020年の水準を大きく上回っている。

悲観的な状況の中で、インフラ提供企業は脚光を浴びるまたとない機会を手にしている。長年にわたりインフラは、フィンテック企業・非金融サービス企業を問わず、金融商品を自社プラットフォームにシームレスに統合できるようにしてきた。

しかし市場が混雑するにつれ、インフラ提供企業は安価な製品開発やフィンテック企業との契約獲得数を競うようになった。インフラ市場は、フィンテックの苦戦から生じる課題に対応する追加的な製品機能を構築する、極めて重要な機会を見落としている。

インフラ提供企業はフィンテック企業と既存の銀行が金利環境の恩恵を享受できるよう、両者をつなぐ役割を果たすことができる。

インフラ提供企業は優先順位を付け直し、新規顧客との契約だけでなく、既存顧客向けの機能を拡大する方法を見つけなければならない。そのためには、そうした顧客が日常的に抱えている問題をより詳細に見る必要がある。たとえば、フィンテック企業は詐欺攻撃を受けたときにどう動くか。国の新しいコンプライアンス規則は顧客のビジネスにどう影響するのか。金利やインフレの高騰に怯える顧客をどのように引き止めるべきか。

これらの課題はフィンテック業界のリーダーたちが日々直面しているものであり、インフラ提供企業はその課題解決をどのようにサポートできるかを理解する必要がある。

課題の特定とその対処法

金融インフラの分野には巨額の資金が流入したため、新規の参入者で業界は混み合っている。特定のフィンテック課題に対処するには、フィンテック業界を支援するだけでなく、インフラ提供企業が自らを差別化し、真の価値を提供することを示す方法でもある。

国際的なカバレッジ

フィンテック企業は新たな顧客と収益源を求めて国際的な事業展開に乗り出している。グローバル化が進む中、国際的なサービス提供はもはや必須条件になりつつある。

インフラ提供企業は自社のプラットフォームを米国以外の国でも利用できるようにすることで、顧客のグローバルな成長意欲に応えられるようになる。また、自社のプラットフォームでフィンテック企業が急速に変化する世界の規制に準拠できるようにする必要がある(詳細は後述)。

規制対応

国際的な事業展開は各国の規制への対応も意味する。この不況下で、世界中の消費者が今まで以上に家計で保守的になったように、規制当局も同じように対応すると企業は予想している。

今年、米消費者金融保護局(CFPB)や米連邦取引委員会(FTC)といった米国の監視機関は、フィンテック業界に対する監視を強化した。CFPBはこれまであまり使われていなかった法規定を発動して、顧客にリスクをもたらす可能性のあるノンバンク金融企業を調査することにしている。これはフィンテック業界に広く影響を与えることになりそうだ。また、欧州連合(EU)や中国など世界各地で強まりつづけるさまざまな規制を把握しなければならない。

フィンテック企業が単独で各国の規制を網羅するのは大変だ。そのため、インフラ提供企業は自社プラットフォームが顧客の地域ごとのコンプライアンス要件をすべて満たしていることを確認する必要がある。

不正行為の事前予防

2008年のリーマンショック時は詐欺事件がかつてなく多かった。米連邦捜査局(FBI)によると、詐欺事件の総件数は27万5000件で、被害総額は2 億 6500 万ドル(約380億円)にのぼった。新型コロナウイルス感染症の大流行時に詐欺事件は再び急増し、デジタル詐欺は2019年から2021年にかけて52.2%も急増した。

インフラ提供企業はこの不況時に再び詐欺の被害に遭うのをすわって待つのではなく、ID判定プラットフォームや書類確認、デバイスチェックといった詐欺対策を積極的に自社製品に実装する必要がある。そうすることで、顧客であるフィンテック企業に不正行為と戦うための武器を提供するだけでなく、自社もより良い製品を開発して発売することができる。

金利調整への対応

直近の利上げで、米連邦準備制度理事会(FRB)は基準となる翌日物借入金利を2.25~2.5%に引き上げた。同時に、消費者の借り入れもかつてないほど増えている。

このような貸出により、銀行とフィンテックのスタートアップは消費者が借金を返済できる限り、臨時の利息収入を得ることができるようになった。消費者が何らかの理由で借入の一部を返済できなくなった場合、比較的無名のスタートアップより再び取引する可能性が高いと思われる既存銀行に返済する可能性がはるかに高い。このため、消費者信用が悪化した場合、フィンテック業界は不利な立場に立たされてしまう。

インフラ提供企業は、フィンテック企業と既存銀行をつなぐことで両者が金利環境のメリットを享受すると同時に、消費者ローンの貸し倒れの可能性に備えるようサポートできる。また銀行との提携は、フィンテック企業が製品を拡張し、より低コストの資本にアクセスするのに役立つ。

インフラ部門が得られる成長とは

インフラ提供企業はこれらの課題に取り組むことで、短期的には中核事業を成長させる機会を得る。長期的には逆風が吹く業界から身を守り、次の好景気に備えることができる。

自前で構築せず購入する

ここ数カ月、多くのフィンテック企業が難しい雇用判断を迫られている。この判断は最終的に企業の効率化につながるかもしれないが、短期的にはリソースに負担をかけることになる。

こうした変化はインフラ提供企業にとって良いチャンスだ。不正防止や銀行との提携などのソリューションを自社で構築するための人員を持たない選択した企業にとって、インフラ提供企業はより効率的な「購入」の選択肢となっている。

一方、インフラ提供企業が差し迫った課題に対するソリューションを提供できない場合、フィンテック企業はインフラ提供企業を回り、自社で(おそらく質の低い)ソリューションを構築する可能性がある。だからこそ、インフラ提供企業が顧客の喫緊のニーズをしっかりと見極めることが重要なのだ。

成果 vs. コスト

インフラ提供企業にとって成果はかつてないほど重要だ。投資家はフィンテックのスタートアップをバーンレート(資金燃焼率)で、特に顧客獲得コストやマーケティング費用などをみて判断している。

フィンテック製品にサインアップする際、ユーザーは本人確認プロセスを完了させる必要がある。このプロセスがエンドユーザーとフィンテック企業の双方にとって安全かつシームレスでない場合、サインアッププロセスに支障をきたす可能性がある。誰もが損をする。

フィンテック企業は成果を積み、この不況下でもビジネスを最適化できることを投資家に示すために、購買プロセスの初期段階にある顧客に焦点を合わせている。インフラ提供企業がエンドユーザーに登録プロセスで優れたエクスペリエンスを提供しなければ、あるいはさらに悪いことに、段階を踏む中で顧客獲得の障害となる摩擦をつくり出せば、貴重な顧客獲得予算を無駄に消費することになる。

業界の今後

現在フィンテック業界は苦戦しているかもしれないが、急成長している業界でフィンテックを組み込むチャンスはたくさんある。レストランソフトウェア、旅行アプリ、トラック輸送業界などにおいてフィンテックの台頭が見られる。そうした企業が自社で組み込み型フィンテックアプリを構築できるようになる可能性はフィンテック企業より低い。専門知識を持っておらず、提携もなく、インフラ提供企業に依存することが多い。インフラ提供企業はこうしたユースケースに対応することでフィンテック業界以外の成長分野を取り込むことができる。

顧客が抱える課題の解決に特化することができれば、インフラ提供企業は事業を展開するどの市場にとっても資産となり得る。今のところインフラ提供企業は、まだ成長余地のあるフィンテック市場を支援する素晴らしい機会を手にしている。

From TechCrunch. © 2022 Verizon Media.  All rights reserved.  Used under license.

元記事:To reach fintech’s next level, infrastructure providers must address these pain points
By:Laura Spiekerman
翻訳:Nariko

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