2023年6月12日
執筆者
Anna Heim
TechCrunch+のレポーター。SaaSなどを担当。The Next Webで中南米・メディア担当エディターを務めた。スタートアップ創業者でもある。パリ政治学院卒業。
開発者が短時間でより多くのことを行えるようにすることは企業にとって優先すべき課題となっている。SaaSの範囲がますます広がり、DevOpsがより一般的になるにつれ、利用可能なすべてのマイクロサービスを認知しなければならない開発者にかかる認知負荷を軽減する必要があることに企業は気づきつつある。
この問題は当初、サービスカタログで対処されていたが、このカテゴリーはより野心的なものに変化している。開発者がエコシステム内のすべてのマイクロサービスやツールにアクセスできるワンストップショップだ。
社内開発者ポータルと呼ばれるこのカテゴリーは、開発者体験の向上、ひいては効率化を目指す、ソフトウェアを多用する企業で急速に注目を集めている。
米調査会社Forrester Research(フォレスター・リサーチ)によると、DevOpsを率いる人の87%が開発者の生産性向上が今後12カ月の優先事項であると考えている。
米IT調査会社Gartner(ガートナー)は「これらのポータルは、ソフトウェアの再利用を増やし、開発者のオンボーディング体験を向上させ、ソフトウェアデリバリーを合理化し、知識の共有を促進する多用途の『アプリストア』をソフトウェアエンジニアリングのリーダーが作れるようにする」としている。
だがこうした開発者向けポータルは単独で登場したわけではない。プラットフォーム・エンジニアリングの出現という別のトレンドと密接に結びついている。
Boldstart Ventures(ボールドスタート・ベンチャーズ)のパートナーであるShomik Ghosh(ショミク・ゴーシュ)氏は、簡単に言うとプラットフォーム・エンジニアリング・チームとは「一般的に大きな組織の中で、その組織内の他の開発者のために開発者体験を改善する役割を与えられているグループ」だとTechCrunch+に述べている。
プラットフォーム・エンジニアリング・チームは社内開発者向けポータルと同様、大規模な組織でますます一般的になってきている。ガートナーは、2026年までにソフトウェアエンジニアリング組織の80%がプラットフォームチームを持ち、2025年までにプラットフォームチームを持つ組織の75%がエンジニアにセルフサービスの開発者ポータルを提供すると予想している。
社内開発者向けポータルが生まれた理由と経緯をよく理解するために、少し過去にさかのぼってみよう。
社内開発者向けポータルはプラットフォーム・エンジニアリング・チームにとって重要なツールだが、実はいずれも概念が完全に確立される前に生まれていた。実際、これらはDevOpsをきっかけに登場した。エンジニアは自分たちが書いたコードのデプロイと運用をますます任されるようになっていると突然気づいた。だが現実には、稼働中もマイクロサービスを誰が所有しているかは往々にして不明だった。
つまり、エコシステム内のすべてのマイクロサービスを追跡し、アクセスすることに問題があることを企業は知っていた。そして、サービスカタログのようなもので解決できるかもしれないこともわかっていた。
しかしこの問題を解決するには表計算ソフトだけでは不十分だった。Cortex(コルテックス)の共同創業者でCEOのAnish Dhar(アニシュ・ダール)氏はUber(ウーバー)で働いていたときにまさにこの問題を抱えていた。チームは 「エクセルで使用している200~300のサービスを追跡し、誰がそのサービスを所有しているか把握に努めつつ、一方でそれらのサービスがセキュリティと運用において最良の慣行で構築されていることを確認するのに多くの時間を費やしていた」とダール氏は語る。
ダール氏はこの問題を解決しようと2019年にCortexを設立。開発チームがマイクロサービスを使いこなす」のを支援しようと、2021年5月にシード資金を獲得し、その数カ月後にはシリーズA ラウンドで1500万ドル(約20億円)を調達した。
この分野ではすぐに同じ問題に取り組む複数の企業が登場した。
Cortexと競合するOpsLevel(オプスレベル)も、集約化された開発者ポータルを通じて企業がマイクロサービスを整理・追跡できるようにすべく、2022年初めに1500万ドルを調達した。
同業のEffx(エフックス)は「マイクロサービス・アーキテクチャに対するより優れた洞察を開発者に提供する」ためにシード資金を調達した後、2021年にFigma(フィグマ)に買収された。
CortexとOpsLevelは現在、企業に焦点を絞っている。同様に、Atlassian(アトラシアン)のCompass(コンパス)は大企業のニーズに切り込んでいるようだ。
しばらくは順調なペースで進んでいたが、Spotify(スポティファイ)の社内プロジェクトがその流れを一変させた。Backstage(バックステージ)の登場だ。
Backstageは社内開発者向けポータルではなく、「開発者向けポータルを構築するためのオープンプラットフォーム」だ。
そのため、カスタマイズされた開発者ポータルを構築できるようにし、すべてのツールやアプリ、データ、サービス、API、ドキュメントを一つのインターフェースにまとめることで、企業のインフラに秩序をもたらすことができる。ユーザーはBackstageを通じて、例えばKubernetesの監視、CI/CDステータスの確認、クラウドにかかる費用の表示、セキュリティインシデントの追跡などができる。
このプラットフォームは2016年にSpotifyの社内プロジェクトとして始まったが、2020年にSpotifyがオープンソース化した後、今では当初の意図を大きく超えて利用されている。
インキュベーションプロジェクトに参加している非営利団体クラウド・ネイティブ・コンピューティング・ファウンデーション(CNCF)によると、Backstageはアメリカン航空、Expedia Group(エクスペディアグループ)、HelloFresh(ハローフレッシュ)、Netflix(ネットフリックス)、Peloton(ペロトン)、Roku(ロク)、Splunk(スプランク)、Wayfair(ウェイフェア)、Zalando(ザランド)といった上場企業100社で利用されている。「また、500人以上の開発者がPRを提出し、新機能を追加し、プラグインを構築する盛んなオープンソースコミュニティもある」とCNCFのウェブサイトには書かれている。
BackstageをオープンソースにするというSpotifyの判断はBackstageの回復力を高める一つの方法であり、Backstageで収益をあげるためのものでもあった。同社はコンテナオーケストレーションの分野で、自社開発のプロジェクト「Helios」を、より成功したKubernetesに置き換えるという苦渋の決断をしたことから教訓を得ていた。
Backstageは現在、大企業に広く受け入れられ、オープンソースプロジェクトとして成功しているため、大型の鳥ドードーが絶滅したように消えていく可能性は低い。だがBackstageには競合相手がいる。その1つが軍事情報を収集するイスラエル国防軍の「8200部隊」をルーツとする独自のソリューションであるPort(ポート)だ。
Portを立ち上げる前、共同創業者のZohar Einy(ゾーハル・アイニー)氏とYonatan Boguslavski(ヨナタン・ボガスラフスキー)氏は、イスラエル国防軍の大規模開発者ポータルの構築に携わっていた。軍役を終え、2人は最初のイテレーションで学んだ教訓のいくつかを応用して、一般向けに同様のものを立ち上げることにした。
「Portを思いつき、そしてよりクラウドネイティブ指向のソリューションとして設計していたとき、我々はBackstageや他のソリューションとは差異化を図るいくつかの点を念頭に置いた」とアイニー氏は話す。
これらの違いは「シンプルさ」と「柔軟性」という2つの原則に基づいている。ビルディングブロックに頼るコーディング不要のアプローチにより、Portは「ウェブサイトビルダーのようなものだが、DevOpsとプラットフォームのためのもの」とアイニー氏は言う。「自分たちの組織に必要な家を建てるために使える、非常にシンプルなツールセットをプラットフォームのチームに提供している」とのことだ。
建築との類似から、Portは設計図という概念を思いついた。「設計図はPortの一般的に言うビルディングブロックだ。マイクロサービス、環境、パッケージ、クラスタ、データベースなど、Portで管理できる資産を示す」とPortの説明にはある。
PortもBackstageもサービスカタログだとは正確に言えない。サービスカタログはこれらのプロダクトが行うことの一部ではあるが、より幅広い要素を抱え、開発者が実行できるセルフサービスのアクションを企業が構築できるようにしている。
BackstageのSaaS版を提供するスタートアップRoadie(ローディー)では、プロダクトの説明はカタログとスキャフォルダー(scaffolder)の2つに分かれている。Backstageの用語を使うと、スキャフォルダーは開発者がアプリを作成したり、インフラを要求したり、テンプレートを通じて社内の慣習を採用したりできるようにしている。Roadieの開発者広報マネージャーであるJorge Lainfiesta(ホルヘ・ラインフィエスタ)氏は「カタログ以上に付加価値があるのはスキャッフォルダーだ」とTechCrunch+に語っている。
開発者ポータルとは何かを理解したところで、自分の組織にポータルが必要かどうかを知る必要がある。
もし必要であれば、Spotifyのように社内でソリューションを構築するというのは選択肢ではないだろう。「初めの頃は構築する動きが少しあった。だが現在では、社内でソリューションを構築しようと言う人はおらず、誰もがBackstageを購入するか、Backstageを使って構築する必要があるとわかっている」とアイニー氏は話す。
企業の規模がこの決断に影響を与えることは明らかだ。どの開発者向けポータルソリューションがよりカスタマイズしやすいかについては、誰に尋ねるかによって異なるが、TechCrunch+が話を聞いた人全員がBackstageは拡張・維持の点で面倒という意見で一致した。
Portのシンプルさとフリーミアムモデルはすぐに使い始めたい企業にとっては魅力的かもしれない一方で、Backstageはオープンソースであるため、特定ベンダーの技術に大きく依存することで他社への乗り換えが難しくなるベンダーロックインのリスクがないことが大きなポイントだ。
Roadieは、サポートとコミュニティを備えたBackstageのホスト型バージョンに関心のあるスケールアップ企業を対象にしている。Roadieはまた、自動アップグレードにより、活発なオープンソースプロジェクトに典型的な、次々と押し寄せる重要なプルリクエストや新機能にプラットフォームエンジニアがついていけるようにする。
どのオプションを選択するにしても、開発者向けポータルはすぐに使えるソリューションではないことを認識する必要があるとガートナーは警告する。これらのポータルは「有用で効果的なものにするためには、既存のツールやシステムと統合する必要がある」という。
しかし適切に設定されれば、開発者向けポータルはBackstageが言うように「自律性を犠牲にすることなく、プロダクトチームが高品質のコードを迅速に出荷できるようにする」という約束を果たす。
このことはこの部門が現在、エンジニアリングワークフローにおける人工知能の幅広い浸透によって間もなく加速されるかもしれない追い風を享受している理由だろう。
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元記事:What you should know about internal developer portals
By:Anna Heim
翻訳:Nariko
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