2021年6月2日
株式会社スナックミー CTO&co-founder
三好 隼人
1991年生まれ。2013年東京理科大学工学部建築学科卒業後、建築設計事務所を経て、独学でソフトウェアエンジニアに転身。人材系IT企業で技術本部リーダーとして経験を積み、2015年に株式会社スナックミーを共同創業。現在はCTOとして開発チームを率いる。
いくつかの質問に答えるだけで好みのおやつが定期で手元に届くフードサブスクリプションサービス『snaq.me(スナックミー)』。サービスリリースから5周年を迎えた今でも、「最高のおやつ体験を届ける」という企業理念のもと進化を続けている。
2020年のコロナ禍で次のサブスクサービス『otuma.me(オツマミー)』をリリースし、新しいチャレンジに乗り出した。5月にはヤッホーブルーイングとコラボし、「よなよなエール専用オツマミー」も実現。その技術シーンを創業から支えてきたのは、株式会社スナックミーのCTO三好隼人さんだ。彼に、ユーザーに喜んでもらえる「幸せなサービス」を生み出す条件を聞いてみた。
『snaq.me』のユーザー数は、創業から毎月5~10%増で成長しています。現在社員は30名弱で、今年4月にも3名入社してくれました。エンジニアリング組織もかなり充実し、フロントエンド、バックエンド、データサイエンティストや機械学習エンジニア、専任のSREまで含めて9人体制になりました。
システム面では、AWS上の本番環境とステージング環境をマルチアカウントで制御するようにしたり、SSO(シングルサインオン)を取り入れたりして、よりセキュアに開発できるように改善を進めています。
基本の仕組みは『snaq.me』と同じで、様々なおつまみが定期的に届くフードサブスクサービスです。SNSなどでは「おつまみ版『snaq.me』」と言われることも多いですが、『snaq.me』とは大きく2つ異なる点があります。
1つ目はコンセプトが違います。『snaq.me』は「頑張った自分へのご褒美」をコンセプトにしています。届けるものは焼き菓子や米菓などがメインで、午後3時のおやつタイムにほっと一息ついて、幸せな一時を過ごしてほしいというイメージです。一方、『otuma.me』は晩酌のお供に組み入れてもらって、ユーザーとともにちょっと贅沢な日常をつくることを目指しています。ラインナップにはチキンジャーキーや干しイカなど塩気の強いものが多く、晩酌の時間に酒のお供として楽しんでいただきたいと考えています。
2つ目は、『snaq.me』のようなパーソナライズ機能が実装されていないところです。『snaq.me』には、ユーザーに「おやつ診断」に答えていただいてから、その回答に合わせて送る商品を自動で変えるアルゴリズムが実装されています。一方、『otuma.me』にはこのアルゴリズムをあえて導入していません。
『snaq.me』は「診断」を受けたら食べたいおやつがうちに届くという遊び感覚を取り入れることで、非日常的な体験をつくっています。それに対して、『otuma.me』は基本的におつまみが中心なので、塩気が苦手な方の場合、送る商品が限定されすぎてしまう可能性があります。そのため、こちらから厳選したラインナップを送るようにしています。
ただ、もしユーザーから「パーソナライズ機能を実装してほしい」という要望があれば、将来的に導入していくことも全然ありえますし、それとは別の付加価値を追加していくことも考えられます。
実は2、3年前からSNSなど通して「『snaq.me』のおつまみ版が欲しい」という要望はちょこちょこいただいていたんです。社内でも「そういう声に応えていきたいね」という意見は上がっていました。もともと『snaq.me』には定期便のほかに欲しい商品を追加購入できる「ストア」機能が実装されています。試しに2019年3月に期間限定で魚介系のおつまみを販売してみましたが、当時はそこまで大きな反響が得られなかったのです。
ところが、去年のコロナ禍で宅飲みする方が増えて、「自宅に届く酒のお供がほしい」という声がますます強まりました。そこで、昨年の4月にもう一度「ストア」で、ビールに特化したおつまみ7種セットを販売しました。すると、ほぼ即日完売くらいの勢いで売れて、前回の7倍以上の売り上げを記録したんです。その後も「オツマミー for ワイン」など、テイストを変えながら限定販売を繰り返しているうちに、『otuma.me』の需要を体感でき、サービス化に踏み切りました。
社員一丸で、商品のラインナップ決めからシステム実装まで3日ほどでやり遂げました。エンジニアチームは過去に「ストア」機能をうまく活用して、「CLR BAR(クリアバー)」というプロテインバーや「JQ」というジャーキーを追加したことがありました。そのおかげで、スムーズに実装できたと思います。
今回はユーザーの声を受けての発売ということもあって、いかにシンプル且つスピーディに実装できるかというところで工夫しましたね。
全く新しいサービスをつくり上げる感覚ではなく、『snaq.me』の開発思想はそのままに、既存の注文機能やオペレーションシステムなどをフル活用することを心掛けましたね。
これまでは新しいサービスを開発するたびに新規メンバーを招集して、システムをフルスクラッチでつくり直していました。しかし、事業をスケールさせるフェーズにおいてこのような開発体制は効率が悪いと感じていました。ユーザーのニーズも日々変化していますし、このスピードでは次々とサービスをリリースしていくのは難しい。なので、今回はすでに市場で有用性が実証された『snaq.me』のシステムを活用した上で、UIのカラーなどディテールの部分を『otuma.me』のユーザーに最適化するようにアレンジしました。
理想を言えば、将来的には1つの機能を実装したら、全サービスに同時に反映される仕組みをつくりたいと考えています。それができれば、新サービスリリースの工数は今の1割ほどに抑えられるかもしれませんね。
そうですね。リソースの節約だけでなく、プランドをつくるという観点からも機能の再利用は重要だと考えます。細かいところですが、『otuma.me』ではユーザーに送るパッケージのサイズを『snaq.me』と同一にしています。それは『snaq.me』で掲げている「最高のおやつ体験を届ける」という理念を『otuma.me』でもしっかりつくっていきたいと考え、ブランドイメージの維持を強く意識したからです。
ただ、『otuma.me』はアヒージョなどの汁物も届けているため、各個包装の大きさを少し大きくしたり、鮮度維持のためにアルミ素材も導入したりと、細部の調整は行っています。
「おやつを食べる」という体験の価値をより一層高めることですね。『snaq.me』ではそれを「7つのme」と定義しています。おやつを食べる体験を、「おいしい」だけにとどまらず、受け取ったユーザー一人ひとりに「ぴったり」な「わくわく」を届けることを追求しています。さらにいえば、日々のおやつの時間を、仕事や家事に追われている人々の「拠りどころ」にしていきたいと思っています。家に帰るのが楽しくなる、弱った時のパワーになる、そんな体験の提供を目指しています。
ただこのようなビジョンを叶えるには、『snaq.me』の1サービスだけでは、リーチできるターゲット層が限られてしまう。『otuma.me』を通して、より広い層にこの理念を届けていければと考えています。また、実際に私たちが提供している体験はユーザーが必要としているものなのかについても、より多くのリアクションを得ることでブラッシュアップできると思います。
一番重要なのは、やはりユーザーとの距離をできるだけ縮めることだと思います。自分が開発しているサービスにはどんなユーザーがいて、どういう機能やどういうところに喜んでいるのかをこの目で見ることが大事です。
社内のSlackチャンネルでは、商品に対するSNSの反応やホームページに寄せられるご意見などが常にリアルタイムで流れているし、毎週の全体ミーティングでもユーザーの生の声が共有されています。コロナ前は、ユーザーを集めたオフラインイベントも定期的に行っていました。コロナ禍では、毎週木曜日に限定商品を紹介するインスタライブを開催し、視聴者のコメントに答えたり、マーケターやデータサイエンティストが直接ユーザーに電話をかけてヒアリングしたりしています。
もう一つエンジニアにとって重要なのは、自分が今開発しているサービスの背景を理解することです。なぜこのタイミングでこのサービスの、この機能を開発する必要があるのかを知っておかないと、一機能だけをつくっていても大きな価値提供につながらない。
プロダクト全体、プランド全体にどのように寄与するか把握した上で開発した方が、本当にユーザーに役立つものができるし、ユーザーに喜んでもらえる。結果的に、「幸せなサービス」を生み出せると思います。
とにかく手掛けているこのサービスが好きなこと。以前勤めていた職場では、正直それほどサービスが好きではないけれど、なんとなく働いているというエンジニアもいました。それはサービスを提供する立場として、本質的じゃないと思っています。
『snaq.me』で言うと、ユーザーが使う「マイページ」にある機能が、ユーザー体験のすべてではありません。ユーザーの手元に届いたボックスの外装や同梱されているフライヤー1つとっても『snaq.me』のブランド体験を形づくる重要なUXです。その一つ一つが、ユーザーにとっての「拠りどころ」や「安心感」につながるような体験になります。
手掛けているサービスの価値に共感した上で、その価値をユーザーにとって最高の体験になるように技術をもってブラッシュアップしていく。それができるのが、いいサービスを生み出すエンジニアの条件だと思います。
企画・執筆:王雨舟
取材・編集:石川香苗子
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