2022年2月14日
株式会社プレイド カスタマーエンジニア
池上 純平
東京大学経済学部卒業後、富士通でのSEを経て、株式会社プレイドへ入社。カスタマーエンジニアとして、CXプラットフォーム「KARTE」の開発、テクニカルサポート、外部連携検証、プロダクトマーケティングなどを担当。テック系ポッドキャスト『しがないラジオ』のパーソナリティ。著書に『完全SIer脱出マニュアル』(シーアンドアール研究所)がある。
顧客とプロダクトの間をつなぎ、プロダクトの可能性を最大化する役割を果たすカスタマーエンジニア。SaaSプロダクトの普及に伴い、これからの時代においてニーズが高まるポジションの1つとしても注目されている。
CXプラットフォーム「KARTE」の開発を手がける株式会社プレイドでは、2021年8月にもともとあった「プロダクトスペシャリスト」という職種を「カスタマーエンジニア(Customer Engineer/CE)」へ再定義し、その人材の採用育成に一層力を入れるようになった。
『しがないラジオ』のパーソナリティとしても活躍し、現在プレイド社でカスタマーエンジニアとして活躍中の池上純平さんに、SaaSプロダクトに携わるカスタマーエンジニアの魅力を聞いてみた。
一番大きな理由は名前から職種の役割が分かるようにしたいからです。プロダクトスペシャリストだと、「プロダクトに非常に詳しいエンジニア」ということは分かるものの、「詳しいから何をするか?」が不明瞭のまま。
一方、カスタマーエンジニアなら、顧客とプロダクトに向き合うということが、職種名からも分かります。
特にないですね。プレイドのカスタマーエンジニアの役割は、エンジニアリングの知識を活かして、プロダクトと顧客の間の技術的なギャップを埋めていくことだと考えています。それは「プロダクトスペシャリスト」だったときから変わっていません。
職種名の変更を機に、カスタマーサクセス出身のビジネスメンバーと一緒に「カスタマーエンジニアリングチーム」を立ち上げました。ひとつのチームとして動くことで、ビジネスサイドとよりうまく連携を取り、ビジネス側の視点とプロダクト側の視点からより効果的なサポートができるようになると思います。
ただ、現状チームにはカスタマーエンジニアが3名、カスタマーサクセスとの兼務が2名だけで、やりたいことに対して圧倒的に人が足りないですね。
カスタマーエンジニアの基本的な仕事は、カスタマーサポートが対応しきれない技術的な課題を支援しながら、そこで得た知見をプロダクトに反映して、改善することです。
「KARTE」を例にすると、顧客が導入する際に、管理画面上でコードを書いたり、ネイティブアプリに対してSDKを埋め込んだりする必要があります。その際、「データ連携がうまくいかない」「ネイティブ環境に合わせたカスタマイズがしたい」など、カスタマーサポートだけでは対応しきれない技術的な課題が生じます。
カスタマーエンジニアはその間に入り、顧客とともにトラブルの原因を特定し、障害対応や実装のサポートをします。さらに、顧客へのヒアリングを通して、プロダクトそのものに使いづらいところがあると分かれば、開発チームにフィードバックして改修していきます。
はい。むしろ「プロダクトをいかにより良いものにするか」という観点が、SaaSプロダクトに携わるカスタマーエンジニアにとって最も大事だと思います。
僕は前職がシステムエンジニアでした。プロダクトと顧客の間に立つという意味では、カスタマーエンジニアと近い部分があると思います。
ただ、SEは目の前の顧客の課題解決が最優先なのに対し、SaaSプロダクトのカスタマーエンジニアはプロダクトを改善することにプライオリティーを置く必要があります。顧客の要望に応えると同時に、どうプロダクトに反映すれば汎用的に使えるかも考えなければなりません。ときには「御社しか使わない機能なので、プロダクトには追加しない」という判断も必要です。
良いプロダクトをつくれば、目の前の顧客だけでなく、何百、何千という未来の顧客にも価値を届けることができます。プロダクトのあるべき姿や進むべき方向性を理解した上で、顧客にとって最良の打ち手を考えるのがカスタマーエンジニアの仕事であり、難しいところです。
カスタマーエンジニアの不在により、開発部門とカスタマーサクセス部門が完全に分断されていると、肝心な顧客の声が取りこぼされてしまうことがあるんです。というのも、プロダクトの仕様やデータの持ち方に対する理解が違うことから、ビジネスメンバーから開発チームに直接フィードバックしても、理解されず改修につながらないことが多いんです。
そこで、カスタマーエンジニアが間に入って、顧客の需要を読み解いた上で、解像度を上げて開発チームに「翻訳」をするんです。「こういう機能を追加したら使ってもらえるかも」とか、「ここのシステムをつくり替えると、バグが解消されるはず」など、実際の開発により落とし込みやすいように開発チームにフィードバックしています。
これまでケース・バイ・ケースで対応していた問題が、エンジニアが間に入ることによって、解決策を仕組み化できることもあります。カスタマーエンジニアなら、技術的なアプローチを通して、プロダクト活用を促進できる余地は多いと思います。
具体例でいうと、KARTEは顧客のウェブサイト上で、ユーザーに合わせてポップアップやチャットウィンドウを出す機能が実装されているんです。それに対して「想定通りにポップアップが現れない」という問い合わせが一時期多くありました。
エンジニアから見ると、ブラウザの通信ログを確認すればあたりまえに解決できそうな問題ですが、お客様はこの「あたりまえ」ができないから困っているんです。この場合、顧客に必要なのは、ログを見なくても配信状況を確認できる機能だと思って、Google Chromeの拡張機能を開発しました。それをプロダクトに実装し、顧客側だけで簡単にトラブルシューティングできるようにしたんです。
こういう開発目線では意外と見落とされがちな悩みを拾って、今後も同じような悩みを抱えないように仕組みをつくって解決するのもカスタマーエンジニアの仕事ですね。
社会人になった当初は、スペシャリストとして技術力を高め、成果を出して年収アップ……というわかりやすいキャリアプランを思い描いていました。ただ、本当に技術が好きな人って、土日も技術書を読んだり、オープンソースにコミットしたりしていますよね。僕も技術は好きだけど、そこまで突きつめるタイプじゃなかった。
転職活動やプレイドで働く中で、自分は難しいことをわかりやすく教えるのが得意だと気づきました。顧客や社内メンバーからの質問に対して丁寧に答えられて、「おかげでできるようになりました!」と喜んでもらえたときが一番うれしかったです。
この体験をどうにか活かそうと思い、たどりついたのがカスタマーエンジニアです。開発に没頭するよりも、こっちのほうが楽しく働けると思いました。
たしかに僕の場合、実際にコードを書いているのは仕事の1~2割ですね。ソフトウェアエンジニアは技術を尖らせたスペシャリストが多いと思いますが、カスタマーエンジニアはどちらかというとジェネラリストです。
個人的には、コードを書きたい人はコードを書いて、無理してカスタマーエンジニアになる必要はないと思います。ただ、ジェネラリストにはコードを書く以外にも、課題解決の手段をいろいろ選べる面白さがあるんです。
たとえばプロダクトではなくドキュメントを直してもいいし、お客様のリテラシー不足で機能を使いこなせていないのであれば、セミナーや講義で説明することもします。もちろん必要があれば、自分でバグを直したり、プロダクトの改修提案をすることもある。顧客、プロダクト、社内メンバー。三者を巻き込んでよりダイナミックに課題解決にあたることができます。
確かに、カスタマーエンジニアの仕事はマルチタスクで、頭を切り替えてアプローチの仕方を変えなければならないので、結構大変な時もあります(笑)。
ただ、プロダクトをつくっていると、「せっかくつくった機能が全然使われない」「思った通りに使いこなしてもらえない」などと、モヤモヤすることが結構あるんです。一生懸命開発したのに、実際の使われ方を見ると、プロダクトの価値が全然発揮されていないなんて、もったいないじゃないですか。僕はそんな「もったいない」をなくしたいんです。
カスタマーエンジニアであれば、顧客が機能をより使いこなせるように導けるし、要望をもとにプロダクトをより良く作り上げられます。プロダクトの価値をしっかり認識していただけることは、より長くうちの事業を利用していただくことにも繋がります。みんながハッピーな状況をつくりたいという気持ちが、仕事のモチベーションになっていますね。
カスタマーエンジニアはジェネラリストの側面があるので、キャリアの幅はとても広いと思います。カスタマーエンジニアの道を極めるのももちろんいいですし、カスタマーエンジニアとして培ったプロダクトの知識と顧客理解を活かして、興味のある方向にスキルを尖らせていくのもキャリアパスの1つですね。
よりプロダクトに寄り添った仕事に興味があれば、プロダクトマネージャーを目指すこともできますし、顧客とより深く関わっていきたければ、カスタマーサクセスに転向することも考えられます。
「この技術を使って開発がしたい!」と固執するより、開発もひとつの手段として持ちつつも、いろいろな手段でアプローチしようと思える人のほうが向いているし、価値を出しやすいと思います。
もちろん開発スキルも必要な場面があります。問い合わせへの対応では、自分でソースコードを読んで仕様を確認することも多いですし、KARTEは管理画面でJavaScriptやSQLを書けるので、カスタマーエンジニアが複雑な機能をアドオンで実装することもあります。「広く浅く」でよいので、技術の全体像を把握できて簡単なプロトタイプがつくれるくらいのレベル感ですね。
最近は、SalesforceエンジニアやAWSエンジニアのような、特定のプラットフォーム上で開発するエンジニアも増えていますよね。僕は、いずれは「KARTEエンジニア」という言葉が当たり前になるくらいプロダクトを成長させたいと思っています。
取材・執筆:古屋江美子
撮影:若子jet
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