「初めてぶつかる課題ばかりで正直悩んでます」CTO2年生の原トリが語る、成長の踊り場

2024年1月22日

株式会社カミナシ 取締役CTO

原 トリ

大学を卒業後、ERPパッケージベンダーのR&Dチームにてソフトウェアエンジニアとして設計・開発に従事。クラウドを前提としたSI+MSP企業で設計・開発・運用業務を経験し、2018年Amazon Web Services入社。AWSコンテナサービスを中心とした技術領域における顧客への技術支援や普及活動をリードし、プロダクトチームの一員としてサービスの改良に務めた。2022年4月 カミナシ入社、2022年7月よりCTOに就任。

X(Twitter)
ブログ トリの部屋
GitHub
LinkedIn

AWSをはじめとした複数の企業で、サービス開発から顧客支援まで幅広く経験を積んできた原トリさんが、現場DXプラットフォームを標榜するカミナシのCTOになっておよそ1年半。原さんがCTOとなってから、カミナシの開発組織は大きく変わりました。エンジニアの人数は約3倍に増え、テックブログや登壇などの発信も活性化しています。

そんな原さんに、CTOとして働いてみて1年半、最近いかがですか?と話を聞きに行ってみたら、「取り組みの成果は確実に出ているし、エンジニア組織もプロダクトも順調に成長している。でも僕自身は、成長の踊り場にいるようなもどかしさがある」と語ります。今の原さんにはどんな悩みがあるんでしょう。彼の言う「成長の踊り場」とは何なのか。詳しく聞いてみました。

悩みのタネは「未来」と「足もとの課題」の両立

——CTO就任から1年半以上が経ちましたが、最近はいかがですか?感想を聞かせてください。

原トリ:就任当時とくらべて、会社の状況はずいぶん変わりましたね。

2022年7月にCTOに就任してからは、エンジニア組織の強化に重点的に取り組んできました。給与水準の引き上げや採用活動への注力はもちろん、組織改善にも取り組んだ結果、この1年で既存プロダクトを円滑に回せるエンジニアリング組織をつくることができました。実際、現場のエンジニアたちも、期待以上の素晴らしい成果を上げながら楽しく働いてくれています。

ただ僕自身は、CTOとしてまだまだだと感じることばかりですね。「成長の踊り場」にいるような気がします

——「成長の踊り場」というのは?

原トリ:今までのキャリアを振り返ると、僕は成長の「階段」を一段ずつ上ってきたように感じます。でも最近は自分は踊り場にいて、さらに上に続く階段はたしかに見えるのに、それをただ見上げているように感じるのです。

——どうしてそう感じるのでしょうか。

原トリ:CTOとして、経営の観点から未来を描いて、具体的ではっきりしたプロダクトの未来像をつくりこんで明確に示すべきなのに、今はそれができていないのです。

カミナシは2023年3月にシリーズBの調達を終えたばかりで、この先も具体的な成長ストーリーを描き実現していかなければなりません。メンバーはもちろん投資家の皆さんにも「これからカミナシは、こんなプロダクトでこんな未来をつくりあげていきます」と、具体的に伝える必要があります。

しかし現状では、3年後、5年後の会社のあるべき姿を明確にし、そこから逆算して「これからの3カ月、半年、1年でプロダクトをここまでもっていく」と自信を持って示すまでには至っていません。未来への解像度をもっと高めていかなければならないのに、今は目の前の課題に振り回されてしまって、未来のことを考える時間を確保しづらくなってしまっている。そしてそこからどう抜け出せばいいのか、明確な答えが出せていないんです。

——目の前の課題に振り回される、というと?

原トリ:1つ例を挙げると、システム障害やセキュリティインシデントが起こったときに、自分が間に割って入らなければならない局面がまだあります。本来、障害やインシデントへの対応は、現場だけで回せる形をつくりあげなければなりません。実際おおむね回ってはいるのですが、複雑性の高い緊急対応が必要なときなど、僕自身が入ってインシデントコマンダーの役割を果たすことが最善であるときもあり、完全には手放せていません。

そういった時間やマインドシェアを持っていかれる短期的な課題の積み重ねの結果、事業計画と技術の可能性を踏まえてプロダクトの未来について解像度を上げるといった、じっくり腰を据えて考える必要がある仕事のためのまとまった時間を確保しづらい、というのが現状です。開発組織が30人程度に拡大した今もなおCTOが現場の旗振りに執心しなければならない状態は、あまり健全とはいえないとわかっているんですけどね。

幸い、開発組織のメンバーは、プロダクトのためにやれること、やるべきことを自主的に見出し、さらなる改善に向けて動いてくれているので助かっています。だからこそ自分の動き方を変えて、未来に貢献していきたいんです。

——プロダクトの展望を示せないと、どのような問題があるのでしょう?

原トリ:メンバーが100%の力を出しきれないのが一番の問題です。

能力が高く優秀なメンバーが集まってくれているおかげで、既存プロダクトはどんどん良くなっています。でも、これだけ素晴らしいメンバーが集まっているのだから、僕がプロダクトが目指すべき未来像を明確に示せれば、もっと速く、より大きな成果を上げられるはずなんです。

カミナシはソフトウェアカンパニーなので、CTOが果たすべき役割のひとつに「ソフトウェアの力でサービスをビルドアップし価値を高めること」があります。つまり、既存プロダクトを改善してその価値を高めたり、別の課題を解決できる新規プロダクトを立ち上げたりと、開発組織がつくるソフトウェアが、カミナシの成長を引っ張っていかなくてはいけません。

だからこそ、数年後の未来から逆算して、いま最も注力するべきことは何なのかを常に示していく必要があります。CTOである僕が担うべき「未来を見据え、進むべき道を示す役割」を全うすることで、開発組織のメンバーが今以上に迷いなく走れるような状況をつくらなくてはならないのです。

——そうわかっていても、スタートアップのCTOは得てしてやるべきことが多いものですから、まとまった時間を確保するのはたしかに難しそうです。

原トリ:CTOに就任した直後はエンジニア組織だけを見ていましたが、いまはプロダクトマネージャーとデザイナーも含めたプロダクト・サービス組織全体を統括するようになったのも大きいですね。

不確実性の高い未来を展望するには、それなりの集中力とカロリーが必要です。だれかに丸投げできるような課題ではありませんし、環境も整っていないからできないともいうのも無責任です。

CTOを務めるのが初めてだからこそ、こうした課題に直面したことが過去にないのです。経験がないからか、どうしたら突破できるのか、はっきりとはわからない。課題感を共有し一緒にディスカッションできる人が現れるまで、この悩みはしばらく続きそうです。自分があと2人いたら楽そうですけどね(笑)。

歯車が噛み合えば、悩みは一気に解消するかも。だからこそ頑張れる

——就任後1年で、ある程度エンジニア組織づくりはうまくいったものの、次なる壁が待ち構えていたわけですね。CTOになるまで、こうした悩みに苛まれると思っていなかったのでは?

原トリ:ええ。正直いうとCTOを務めるまでは、5年先はおろか1年先にどうあるべきかすらも真剣に考えたことはありませんでした。前職での仕事上、スタートアップのCTOと接点はありましたが、いまにして思えばあくまでも他人事だったのだと思います。今感じている「CTOの重責」は、自分自身で担ってはじめて知った現実のひとつです。

——伸び盛りのスタートアップにありがちな「成長痛」なのかもしれませんね。先輩CTOに悩みを打ち明けるようなことはないのですか?

原トリ:もちろん相談相手はいます。でも、いまお話した悩みを打ち明ける機会はほとんどないですね。

というのも、CTOが果たすべき役割は業種や業態、規模やフェーズによって一社一社違うものです。もちろん共通項はあるとは思いますが、今のカミナシと全く同じ状況の会社などありません。となると、たとえCTO経験のある人に「どうしたらいいですか」と聞いても、その人は答えが出せずに困ってしまうんじゃないかと思います。だから「この悩みは誰かに安易にアドバイスを求めるようなことではないな」と考えているんです。

それに、自分たちの課題を自分たちの手で明らかにし、解決に導かなければ、本当の意味で前に進むことにならない気がするんですよね。

——まさにいま「産みの苦しみ」を経験されているんですね。

原トリ:そうですね。確かに事業は成長していますし、カミナシのプロダクトや開発組織を高く評価してくださる方もたくさんいます。僕自身もそう思っています。ただ確実に、今が「これ以上ないくらいベストな状態」だとは思っていません。

カミナシの可能性はこんなもんじゃないと思うんです。今よりもっとうまく、もっと速くできるやり方がきっとある。そう信じているから、諦めずにもがけるんだと思います。気持ち的には苦しいのですが、歯車が噛み合えばこれまでの悩みが一気に解消するんじゃないかって期待がある。だからこそ踏ん張れるんです。

——そうした課題に立ち向かう手始めとして、今はどんなことに着手しているんですか?

原トリ:いま僕が1人で抱え込んでしまっていることを、適切に権限移譲していくための準備を始めています。

カミナシの現在のCTO職は、技術とプロダクト、そしてそれらに関わる組織について、経営者あるいは執行トップとしての責務を持ちます。この責務を、一定の解像度で自らの意識下におけるようになったのは、お恥ずかしいことにここ数ヶ月の話で。今の僕には、これら全てについて十分にマインドシェアを割き、スピード感を持って結果を出すことは、まだまだ難しいと感じています。とても悔しいですが。

ただ、時間のなさを嘆いても仕方がないので、先に挙げた責務を分解し、それを任せられる人材像を言語化すること、そしてそういった人材を探すことに注力しています。この活動の芽がいつ出るのか、まだはっきりとしたタイムラインは見えていませんが、カミナシにとって大きな成果につながる予感は日々強まっています。

軸は「ビジネスとロマンの両立」。CTOとして、メンバーが全速前進できる土台をつくる

——CTOとしては今まさに苦しいタイミングですが、原さんはどんなCTOを目指しているんですか?

原トリ:まずは「技術で経営をリードできる人」でしょうか。技術と経営の両方に精通し、それに基づいて明確なビジョンをつくりあげてメンバーに示すことで、メンバーが成果を出すことに100%集中できる土台をつくれる。これが、今の僕の目指すCTO像です。

プロダクトをさらに強くするためにどの技術分野に投資すべきか、将来に備えて組織やプロダクトはどこに強みを持つべきか、明確な指針を示せる。事業計画や事業戦略に技術的な知見と展望を織り込むことで、経営層が正しい決断を下せるよう後押しできる。また、そうして見据えた未来をもとに、メンバーに対して、納得感のあるゴールとそのゴールに辿り着くまでのマイルストーンを明確に示し、メンバーが安心して全速力で走れるようにする。これこそが、CTOが事業成長において担うべき、そして果たすべき役割なのではないかと考えています。

——取締役CTOというポジションで、経営者としての責務も担う中で、一番大事にしていることはなんですか?

原トリ:ひと言でいうと「ビジネスとロマンの両立」です。理想を捨ててお金儲けだけに走るのでも、美しい理想(ロマン)だけを追いかけて売上を軽視するのでもなく、これらを両立させたい。

経験豊富な経営者たちから見れば「君はまだまだ青いんだね」と笑われてしまうかもしれません。でも経営という立場にいるからこそ、これを明確に声に出しておきたいのです。

例えば、カミナシが掲げる「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」というミッションが実現された世界、それはとても理想的な世界になるだろうと信じている一方で、それがビジネスとして成立しなければ、企業として顧客に価値提供し続けることはできません。企業活動とそこから生み出される価値は、持続可能性なしには成立しないと思います。

逆に、ビジネスだけに偏ってしまい、目指す世界を実現するための努力をおざなりにしてしまうと、企業や事業の存在意義が失われてしまうでしょう。そもそも「理想の追求」は、僕にとってはとても大事な原動力のひとつでもありますしね。

——ビジネスとロマンの両立を実現するために、重要なことは何でしょうか。

原トリ:確固としたオーナーシップを持ったうえで、そこに閉じこもらないことが重要だと思います。

ビジネスとロマンを両立するためには、ビジネスだけを追求する場合よりも大きな成果が必要です。確固たるオーナーシップを持ち、自分の役割に責任を持つことはもちろん重要です。でもそれに閉じこもったまま出せるレベルの成果では、理想の実現には不十分。オーナーシップは持ちつつもそれに拘泥せず、自らの役割や領域の外に染み出しながら協働していくことによってこそ、ビジネスとロマンを両立できるような、より大きな成果を出すことができるのではないかと思います。

ビジネスとロマンの両方を見据え、どちらかに偏った視点に陥らないでいられれば、利益を出すためにやるべきことと、理想の実現のためにやりたいことの一致点を見つけられるでしょう。僕のこの考え方は、これからも変わらないのではないかと思います。

——今抱えている悩みは、いつ乗り越えられそうですか?

原トリ:正直まだ、いつどのように乗り越えられるかはまだわかりません。ただ、このまま永遠に悩み続けることではないだろうとは思っていますよ。自分の成長が追いつけばおのずと乗り越えられるでしょうし、そのときはまた別の悩みと置き換わっていくだろうと思います。

振り返ればプレイヤー時代から、さまざまな難局を乗り越えここまでやってきました。いま振り返ればなんてことはない事柄ばかりなのかもしれませんが、当時の僕にとっては間違いなく難局でした。なので、いまいる場所は決して成長の「終着点」などではなく、成長の「踊り場」と信じて前に進み続けます

ソフトウェアビジネスを営む以上、技術を抜きに事業やプロダクトを語ることはできませんし、カミナシの組織にもプロダクトにも大きなポテンシャルと可能性があるのは確かです。カミナシの価値をもっと加速度的に高められる組織をつくるために、CTOという立場から貢献し続けたいと思っています。

取材・執筆:武田敏則(グレタケ)
編集:光松瞳・王雨舟
写真:赤松洋太

関連記事

人気記事

  • コピーしました

RSS
RSS