FMV同梱「エアホッケー」がブラウザ版で復活した経緯とは?ソースコードもない状態からの移植秘話

2024年5月7日

ダットジャパン株式会社 「エアホッケー@GAMEPACK」ブラウザ版
開発ディレクター/プロジェクトマネージャー

新田

大手ゲーム会社にて約7年ゲーム開発に携わった後、2020年に、建設分野を中心にソフトウェア開発を手がけるダットジャパン社に入社。エンジニアとしての知見やスキルを生かし、プロジェクトマネジメント・営業・マーケティングなどを幅広く担当。今回は「エアホッケー」の主人公である「ゆうた」のアイコンにて出演。

ダットジャパン株式会社公式サイト

2000年ごろから2010年代にかけて、富士通・FMVシリーズのパソコンには購入時のバンドル(同梱)ソフトとして「GAMEPACK(ゲームパック)」というミニゲーム集が付属していました。中でも「エアホッケー」は、現在でもYouTube上のゲーム実況動画を中心に、インターネット上で人気を誇る有名タイトル。明確なストーリーもなくひたすら「動物たちとエアホッケーをする」というシンプルな内容、妙に高いゲーム難易度、そして試合敗北時には感情を失ったかのように動物の顔に影が落ちるという独特の演出で知られています。

2024年3月28日、このゲームをWebブラウザ向けに移植した「エアホッケー@GAMEPACK」が突如リリースされました。当時よりもプレイ画面の解像度を向上させつつ、新たにプレイ成績ランキングやタイムアタック機能を備え、さらには新キャラクターの追加といったファンにはうれしい要素を引っさげて新登場し、SNS上で話題に。

移植プロジェクトを推進したのは、「GAMEPACK」シリーズのベンダーであるダットジャパン株式会社(札幌市)の新田さん。「実は、当時GAMEPACKに関わっていたメンバーのほとんどはすでに退職している」と衝撃の事実を明かす彼に、移植の経緯を聞きました。

ゲーム事業からはすでに撤退していたけれど

――改めて、最初に「GAMEPACK」や「エアホッケー」が開発された経緯や、「エアホッケー」のストーリー設定について教えてください。

新田:それが…実は、私も把握してないんですよ。

――え!?どういうことでしょうか。

新田:当時、GAMEPACKの開発に関わっていた社員のほとんどは、転職や定年などで退職してしまっているのです。

今の当社の事業領域は、主に建設分野のソフトウェアの自社開発や販売、受託など。ゲーム事業からは10年以上前に撤退していて、残された資料もほとんどありません。具体的にどういう経緯でバンドルソフト案件を受託し「エアホッケー」がつくられたかを、知っている人はおそらくいません。

「エアホッケー」は2000~2010年ごろにFMVパソコンに同梱されたほか、オンラインソフト流通サイト「Vector」や「Amazon」でも発売されたり、「Microsoft Store」でも配信されたりしているようですが、これらのリリース経緯も不明です。

▲森の動物たちとホッケーを楽しむ。筆者はこの後、ゲーム内で最も弱い初戦の相手「トロゾウ」に2回負けました
▲勝利するとゆうた少年は拳を突き上げる 敗れた動物の顔には影がかかり哀愁漂う

――では、今回Webブラウザ版「エアホッケー@GAMEPACK」のリリースが決まった経緯を聞かせてください。

新田:私は現在SIer営業をメインにしつつ、PMやマーケティングも務めております。

2021年頃、マーケ業務の一環で、お客様から寄せられたお問い合わせメールを過去にわたってチェックしていると、年に数回必ず「GAMEPACKは再販しないの?」「続編を出さないの?」という要望が寄せられていると気づきました。問い合わせの中でも、特に「エアホッケー」と、「ラミィの大冒険」というRPGが頻出タイトルでしたね。

何が起きているのか調査してみると、キヨさん(ゲーム実況者)をはじめとして、2018年ごろから有名なゲーム実況者の間でGAMEPACK収録タイトルがたびたび取り扱われ、人気を博しているのを知りました。その動画の視聴者から「私もFMVで遊んでました」「懐かしい」といった反応が多く寄せられているのを見て「自社プロダクトとして潜在的なファンや知名度は相当なものだろう」と確信しました

「いつか移植でもしたら面白いことなりそうだ」と考えると、無性に実行へと移したくなり、その機会を伺い続ける日々でした。再リリースしたら確実に「バズる」と思っていましたね。

時は流れ、23年10月。当社内で、ある程度自由に使える事業予算が浮いたタイミングがあったのです。チャンスだと思い、上層部に「自社ブランディングにGAMEPACKを利用してはどうか」と掛け合いました。社内でもその人気に気づいている人はほぼいなかったので、潜在的知名度への考察を伝えつつ、手軽にプレイできるブラウザ版への移植を打診してみました。そうしたら、ふたつ返事で「お、やろうよ」と返答をいただいた、というのが経緯の大筋です。

RPGの「ラミィの大冒険」も候補でしたが、シンプルなゲームの方が開発が容易と判断し、「エアホッケー」の移植が決まりました。

▲Wayback Machineでダットジャパン社の公式サイトの過去をさかのぼると、2000年8月10日時点ですでに元祖「エアホッケー」がリリースされていたとわかりました

――ゲーム事業からは撤退している以上、ゲームづくりのノウハウを持っている方は少なかったのではないでしょうか。

新田:おっしゃる通りです。ですが、私は以前ゲーム会社で開発に携わっていました。その業界で関わりのあった人々のうち、現在もゲームを軸にフリーランスで働いているエンジニアやデザイナーに声をかけ、主に社外メンバーで構成される開発チームを発足。ゲーム開発のプロフェッショナルといえる面々(※)を集めることができました。また社内からも少数ではありますが、ゲーム開発に関わったことのあるメンバーをアサインしています。

(※)今回の「エアホッケー」開発では、株式会社エクスデザイン(開発・企画・デザイン・キャラクターデザイン)、株式会社HiBiGA(開発・プログラム協力)の2社が協力

ソースコード含め遺産ほぼ無し、中身は実質「別ゲー」に

――GAMEPACKに関する資料はほとんど残っていないとのことですが、当時のソースコードや画像素材などは残存していたのですか?

新田:いえ、一切残っていませんでしたゲームの実行ファイル自体はアプリとして残っていますが、ゲームのソースコードや、3DCGのデータ、画像、BGMといった素材は見つからなかった。

そこで開発にあたっては、まずリバースエンジニアリングを行ないました。オリジナル版からバイナリデータとしてプレイ画面やキャラクター画像、BGMを取り出し、AIを駆使して画質や音質を底上げしたのです。もしも画像データを取り出せなかったら、イチからキャラクターの3Dモデルを描き起こし、再現をするつもりでした。

▲4番目の動物・しんたろうが犬なのか熊なのかは開発チーム内で見解が分かれているそう

新田:こうして手に入れた素材をもとにUnity上で、WebGL向けにイチからホッケーゲームのシステムをつくりました。なので、当時と同じUI、同じデザイン、ゲーム性に見えるかと思いますが、内部動作やゲームロジックの観点では完全に別物です。

――移植にあたり、こだわったポイントを教えてください。

新田:あの頃の感覚を懐かしんでもらうため、BGM、UI、キャラデザインにおいて、当時の仕様を完全に再現したことです。ゲームの細かい挙動や、敗北したキャラの顔にかかる影の角度や濃さも含め、とにかく再現に徹しました。

▲負けた動物は皆この表情に。ふてくされているのか、悲しんでいるのか

新田:また、今回新たに最強キャラとして追加した「ししまる」は、3DCGでイチから造形した完全な新キャラですが、オリジナル版のデザインの画風を完全に踏襲して仕上げております。

こうして当時の雰囲気を再現した一方で、全体的に難易度を上げた点もこだわりです。

▲最強の新キャラ「ししまる」。最強キャラをライオンにしたのは、開発メンバーでの多数決だそう。ほかには「はやぞう(トロゾウを早くしたもの)」「メカゆうた」 「ドラゴン」「キリン(頭でマレットを持つ)」等のアイデアがあったのだとか。

――オリジナル版も難易度が高いゲームかと思いますが、なぜバランス調整に際して、より難化させたのでしょうか。

新田:FMVパソコンでGAMEPACKを遊んでいた方は、当時は子どもで今は大人になったユーザーが多いかと推測しています。ゲームのプレイスキルも成長しているはずなので、当時の遊びごたえを再び体験してもらえるよう、難易度を上げました。ゲーム実況者が配信で「エアホッケー」に挑戦した時に長く遊べるよう配慮したという背景もあります。

あと個人的には単純に「トロゾウ(最初に対戦するキャラ)が強かったら面白い」と考えていたので、ししまる含め6体全ての動物を強くしました。

▲6番目の「ししまる」のスクリーンショット画像を撮りたかったのですが、最初は3番目の「ルンちゃん」に15回負け、心が折れました。これで難易度「ふつう」とのこと

――開発上、特に苦労したポイントはなんですか?

新田:オリジナル版の挙動の再現です。特に、物理演算が大きな手間でした。

ゲームの大まかな実装自体は短期間で終わったのですが、マレット(持ち手の器具)の動きや、パック(円盤)が壁とぶつかった時の動きを再現するのに相当、難儀しました。

システムを管理するマスターデータには、パックの制動に関わる摩擦係数や反発係数などさまざまな関数を設けております。何度もテストプレイをし、オリジナル版と見比べながら数字を微調整することで当時の動きを再現しております。

――挙動の再現といえば、動物たちの少しもっさりとした動きも印象的です。例えば、オリジナル版ではマレットが動いてから後を追うようにして動物の腕が伸びるという同期ズレがありました。これは、今回のブラウザ版でも見受けられます。

新田:その仕様も、わざと実装しています。本当は、キャラとマレットの動きをほぼラグなく同期させることも可能です。ですが当時のようにタイミングがズレていた方が面白いので、合わせて再現しました。

▲マレットの動きより遅れて腕が伸びてくる

幼少の思い出との奇妙な再会

――ブラウザ版「エアホッケー@GAMEPACK」への反響はいかがですか。

新田:当社のWebサービスとしては見たことのないアクセス数になっています。リリース当初には、1日で2万人以上のユーザーがプレイしてくれました。やはり潜在的なファンは多かったのでしょうね。

――新田さん自身が、初めて「エアホッケー」を知ったのはいつなんですか?

新田:小学生の頃だったかと思います。家にあったFMVパソコンにGAMEPACKがインストールされていたので。特に強く印象に残っているのが「エアホッケー」でした。シンプルで子どもにも分かりやすいゲームで、夢中になって遊んでいたことを覚えています。

実は今回のプロジェクトメンバーも、子どものときに「エアホッケー」をプレイしたことがある人がほとんど。思い出深いソフトだからか、皆ノリノリで開発を進めていました。

――なんと、新田さんにとっても思い出深いタイトルだったのですね。ダットジャパン社に入った時から、同作のベンダーであることは知っていたのですか?

新田:入社当時は全く知りませんでした

初めて知ったのが、先ほど話に出た、お客様からの問い合わせメールを掘り起こしていたときです。最初ざっくりとメールに目を通していた頃は「ゲームに関する問い合わせが多いな。そもそも当社の事業にゲームなんてあったっけ?」なんて思っていました。その後さらに調べていく中で、問い合わせで言及されているゲームが、自分がかつてプレイしていたあのゲームタイトルだと気づいたのです。

――最後に、新田さんは「エアホッケー」の最大の魅力を何と考えていますか。

新田:「シュールさ」というのでしょうか。試合に敗れた動物がやたら哀愁漂うのも「そもそも何故この子たちはエアホッケーを森でやっているのか」というメタな疑問も、不思議な面白さがありますよね。

今回は「エアホッケー」のみを移植しましたが、この取り組みでどれだけ自社ブランディング効果や経済的効果が生まれたかを測定し、その結果次第では「ラミィの大冒険」など、他の「GAMEPACK」収録タイトルの移植も進められるかもしれません。

まずは、私もいちプレイヤーとして遊んでいたこのゲームを、皆さんに楽しんでもらえたらうれしいですね。

取材・執筆:田村今人
編集:光松瞳

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