2022年5月12日
株式会社アプリボット クリエイティブ・プロデューサー
高木 正文
2018年株式会社アプリボットに中途入社。「SSS by applibot」スタジオ代表、『NieR Re[in]carnation』クリエイティブ・プロデューサーとして従事。2021年4月より株式会社アプリボットの執行役員に就任
サイバーエージェントのゲーム子会社「アプリボット」が設立したクリエイティブスタジオ「SSS by applibot(トリプルエス バイ アプリボット)」。キャラクターデザインやコンセプトアートなどのデザインを手掛け、ゲーム制作において、より短期間で幅広くIPの種をつくり続けられるように、7名のフリーランスイラストレーターが在籍し、ゲーム・アニメ・書籍などでの知見と、アートを起点に様々な活動を行っている。3月24日に開催された「CyberAgent Developer Conference 2022」では、スタジオ代表の高木正文(@mar_takagi)氏がスタジオ設立の経緯や今後の活動プランなど、熱い想いとともに語った。
「SSS by applibot(以下SSS)」は、高木氏を代表にフリーイラストレーターが集結するクリエイティブスタジオである。アニメ、書籍、ゲームなどの業界から、7名のイラストレーターが集まり、それぞれの業界で培ってきた知見を持ち寄り、独創的なIPづくりを目指して活動している。
アニメ『キズナイーバー』のキャラクターデザインや『ダーリン・イン・ザ・フランキス』、『ソードアート・オンライン』の作画監督などを務めた人気イラストレーターで、個展なども開催している米山舞(@yoneyamai)氏。
『ソードアート・オンライン』、『サクラクエスト』、『終末のイゼッタ』、『結城友奈は勇者である』などのキャラクター原案でおなじみのBUNBUN(@BUNBUN922)氏。
『転生したらドラゴンの卵だった』のイラスト、『再就職先は宇宙海賊』のカバーイラストを描いているNAJI柳田(@naji0w0)氏。ファンタジー系のイラストが得意で、SSSでは一番の若手だという。
バーチャルシンガー「花譜」のキャラクターデザインを担当しているPALOW.(@PALOW_)氏。
『ポケモンカードゲーム』、『ポケットモンスター サン・ムーン』のキャラクターデザインを含め、多くのキャラクターイラストを描いているセブンゼル(@Sevnzel)氏。
同じゲーム分野で『LORD of VERMILLION』 Ⅲ 、Ⅳのキャラクターデザイン&メインビジュアル、レーシングミク2015ver.のデザインワークス&イラスト、『Fate/Grand Order』のサーヴァントデザイン&イラストなど、人気キャラクターを描いているタイキ(@taiki99)氏。
高木氏の後輩で『FINAL FANTASY零式』のエネミーデザインを担当し、『龍が如く 絆』のアートディレクターの一才(@i_sss_ai)氏。
高木氏自身は『NieR Re[in]carnation』のクリエイティブ・プロデューサーとしてゲームづくりに携わりながら、スタジオ「SSS by applibot」を取りまとめている。
そうそうたるメンバーを集め、SSSが最初に取り組んだのは、『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』というリズミックノベルアクションゲーム。ただ、各業界から集まったメンバーでいきなり共同でゲームづくりに取り組むのは、非常に大変だったと高木氏は振り返る。
「まずは、自分たちでつくりたいゲームをつくろうと企画してみたものの、実行のロードマップや目標も決めずにスタートしたためかなり苦労しました。その後も、新企画を立ち上げては頓挫して、そのまま3年間ずっとスクラップアンドビルドを繰り返しました」
一方で、このようにスクラップアンドビルドを繰り返すうちに知見も溜まっていった。そこで見つけた一つの解が、SSSに集まっているイラストレーターでイラストの展示会を開くことだ。イラストレーターとして最も力が発揮できるイラストで勝負できるうえに、イラストを自分たちでプロデュースしてプロダクトにすることで、IPを自分たちの手でつくることを目指しているという。
「私たちは未知の価値をテーマに、まだ世の中に定義されてない新しい価値を、自分たちの手で示すという目標を立てました。展示会でその一つひとつのプロダクト、IPと同義の意味で展開していきたいと思っています」
SSS初の展示会「SIGN OF SENSE vol.1」は、2020年10月に開催された。展示会を振り返って「手応えはあった」と高木氏は語る。
「ただ、やはり難しい。難しいけど、どうしても自分たちの手でIPを生み出したい。メンバー7名全員がそういう思いで集まっているので、3年間諦めずに続けてくることができました」
スタジオSSSを立ち上げるまで、スクウェア・エニックス、DeNA、フリーランスなど、17年にわたって様々なフィールドでゲームづくりに携わってきた高木氏。
「ゲーム開発はとにかく時間やお金がかかるし、一つの会社でできるIPのチャレンジはやはり少ないんですね。今のゲーム開発は大規模になると、100人規模のクリエイター陣を確保する必要があり、クリエイターも一つのプロジェクトに数年間ロックされほかのIPチャレンジができず、大変な状況となります」
では、会社規模で大きなIPに取り組みながら、もっと短期的に小気味よく、IPの種を生み出すことができないか。株式会社アプリボットは、『NieR Re[in]carnation』という大型ゲーム開発の傍ら、SSSをはじめとする特化型の小規模なスタジオを並行して開発を進めている。様々なジャンルの企画を自分たちでつくり、「IPの種」をつくりつづける。
「特化型のスタジオでIPの種ができたら、全体の力でつくっていく。長期的にも短期的にもスクラップアンドビルドを繰り返し、大事なのはビルドアップを常にやることです。失敗しても、また新しいことに挑戦できるようにしています」
とはいえ、IPの種づくりはいつ答えが出るかわからない。そのため、SSSでは2本の柱を立ててより継続してIPづくりに取り組める環境をつくっています。そのうちの1本は受託プロジェクト。社外にむけてクリエイティブの知見を提供し、それを収益源として自社のIPづくりをするという自給自足ができる状態を目指す。
もう1本は、「スタジオ産」と称する自社IPづくり事業だ。主にクリエイティブの強みを活かした展示会や、イラストの商品化などを進めている。
IPを創出する過程において、高木氏は「フィジカルとデジタル、両方を大事にしたい」と語った。
「最近デジタルの流れが来ていますが、逆にフィジカルな部分が貴重な体験になってくると思っています。イラスト1枚1枚の描き方や印刷の仕方など、“モノ感”を大事につくっています」
高木氏から、スタジオ産の実績もいくつか紹介された。例えば、atmos 千駄ヶ谷店で開催されたセブンゼル氏による個展「atmos × #424D99 EXHIBITION GOSPEL 01」。店舗内ではグッズ販売も行っている。
また、花譜とSSSがコラボした展示会とグッズ販売や、全国のワコムショップ51店舗とSSSがコラボした個展、SSS開催ではないが米山舞氏の個展、帝国ホテルのギャラリーで開催したSSSの展示会なども紹介された。次回は「SSS Re\arise」と称した展示会が予定されているという。
最後にまとめとして、高木氏は以下のように語った。
「IPを創ることは難しいけれど、クリエイターとしても会社としても欲しいし、目指したい。そのためにAlwaysでビルドアップし、スクラップ アンド ビルドの精神を忘れてはいけない。クリエイティブは正解がないので、途中でつくれなくなったり失敗したりすると思うけど、諦めない。フィジカルとデジタルを大事にしながら、クリエイティブ業界をみんなで盛り上げ、一つでも多くの新しいIP、面白いIPを生み出していきたいと思います」
SSSの活動では、常にスクラップアンドビルドを繰り返してきた高木氏。セッションでは、自身の人生を振り返っても「Alwaysスクラップアンドビルド」だったという。
高木氏はファミリーコンピュータが発売された1983年に生まれた。少年時代の夢はNASAに入って宇宙に行くこと。工業高校に進学し、東京電機大学を目指すが金銭的な事情で断念した。中学生の頃に『FINAL FANTASY VII』のグラフィックやストーリー、CDRの多さに衝撃を受け、ゲームクリエイターという新たな夢が生まれた。高3の夏はギャルゲーをつくっていた。
高校卒業後、自分でお金を貯めて2003年にゲームの専門学校「VANTAN」に入学する。在学中に寝る間を惜しんでイラストを描いていたら、両腕が橈骨神経麻痺で4か月間手が動かなくなってしまったこともあった。
筋肉が使えないので、肘から先に鉄板をつけて固定して描いていたという。そんな経験さえも「腕で描くことを覚えて、ちょっと絵が上手くなったかもしれない」と前向きにとらえているが、一番つらかった時期でもあったと明かす。そういう意味でも、毎日ビルドアップしていたと高木氏は笑う。
卒業後は新卒で株式会社スクウェア・エニックスに入社。その後フリーランスに転身し、「大丈夫だ、問題ない」というセリフがネットで流行語となった『El Shaddai – エルシャダイ –』を作ることとなる。新規IPのゲームを初めて自分でつくった経験はできたが、苦労やトラブルもあり、やはり簡単なことではないことを痛感したと語っている。
その後転職し、DeNAの『メギド72』というスマホアプリのアートディレクションを担当。全体の世界観をつくってキャラクターを描いたり、中身のグラフィックを描いたりしていた。この作品で、日本ゲーム大賞2019年の優秀賞を受賞する。
傍から見れば無数の挫折を乗り越えてきた高木氏だが、本人曰く「あまり挫折を感じたことがない」という。
「自分は失敗に鈍いと思います。もちろん期待値に届かなかったなど、もっと努力しなきゃと思うことはよくありますが、それを挫折だと感じていない。手が神経麻痺になった時も、そのまま諦めたら悔しいから頑張れたし、いまはともにつくっているチームがいるからより気持ちを強く持つことができます。“一人じゃない”から挫折に強いかもしれませんね」
文:馬場美由紀
関連記事
人気記事