最新記事公開時にプッシュ通知します
2026年3月13日


2014年から幅広い分野の研究論文をピックアップして解説しているメディア「Seamless」(シームレス)を個人運営。 X(@shiropen2)でも更新情報を発信中。
米ロスアラモス国立研究所に所属する研究者らが国際会議EuroVis 2025にて発表し、学術ジャーナルComputer Graphics Forumに掲載した論文「The Geometry of Color in the Light of a Non-Riemannian Space」は、色の3つの基本属性である色相(赤、青、緑といった色味の違い)、彩度(鮮やかさ)、明度(明るさ)を、人間の色を見分ける力(色覚)だけに基づいて幾何学的に再定義した研究報告である。
人間の色覚は、赤、青、緑の光に反応する3種類の錐体細胞に依存しており、そのため色を色空間と呼ばれる3次元で表現する。
ニュートンは、すべての色を円錐形の空間に配置した。円錐の中心を貫く軸(無彩色軸)には黒から白までのグレーが並び、この軸から離れるほど色は鮮やかになり、離れる方向が色相を決め、軸上の位置が明るさを表す。直感的でわかりやすいモデルだが、人間の色覚にはこの単純な幾何学では説明できない現象がいくつもあった。
19世紀、数学者ベルンハルト・リーマンが曲がった空間を扱える数学的枠組み(リーマン幾何学)を開発し、物理学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツがそれを色空間に適用して、知覚的類似性(人間のこの色とこの色は似ていると感じる知覚的な距離)だけで色属性を幾何学的に定義できると提唱した。
そして1920年代、物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが、このヘルムホルツの着想を具体化し、リーマン幾何学的なモデルを使って、知覚的類似性だけを頼りに、色相・彩度・明度という属性を数学的に定式化した。
シュレーディンガーの定義は、その後1世紀にわたって色の属性を理解するための確固たる枠組みを提供してきたが、本研究ではこの定義に対して、実際の人間の見え方とズレてしまう3つの問題があると指摘し、それぞれに解決策を示した。
1つ目は、光の明るさ(強度)が変わると色味も変わって見える現象(ベツォルト・ブリュッケ現象)を無視していたこと。例えば、黄色っぽい光の強度を下げていくと、次第に赤みがかって見える(強度が下がると、色味が赤・青・緑のいずれかに近づいて見える)。シュレーディンガーの理論では、色空間の原点(黒)からまっすぐ一本の直線を引けば、その直線上にある色はすべて、明るさは変わっても色味や鮮やかさは変わらないはずだった。
この問題を解決するために、空間内のただの直線ではなく、人間の知覚に沿って曲がる最短のカーブ(測地線)を使って色合いを定義し直した。こうすれば、明るさの変化に伴う色味のずれを理論の中に自然に取り込める。
2つ目は、色の差が大きいほど人間は色と色の違いに鈍感になるという性質が挙げられる。例えば、赤とオレンジは近い色なので差が小さく、赤と青は遠い色なので差が大きい。この差をもう少し広げたとき、赤とオレンジの場合は変わったとすぐわかるが、赤と青の場合はさらに離しても、「もともと全然違うし……」という具合に、あまり違いが増えたように感じない。
そして、この性質によって、色の違いを測る方法が2通りできてしまう。1つは、2色を直接見比べてどれくらい違うかを感じ取る方法。もう1つは、2色の間に少しずつ変化する色を挟んで、隣同士の小さな違いを全部足し合わせる方法。この性質がなければ両者は同じ値になるが、鈍感さがあるせいで、直接見比べた距離は足し合わせた距離より小さくなる。同じ2色の距離なのに、測り方によって答えが変わってしまうのである。
この問題を解決するために、研究チームは実験を行った。まず参加者にある色に最も似たグレーを選ばせ、次にその色とグレーの中間にあたる色を選ばせ、最後にその中間色に最も似たグレーを選ばせた。2つの測り方で答えが食い違うなら、最初のグレーと最後のグレーはズレるはずだ。
結果、わずかな差はあったが、追加実験でそれは参加者が極端な明暗を避けて中間寄りを選びがちになる癖のせいだとわかった。つまり実質的なズレはなく、どちらの測り方でも同じグレーにたどり着いた。これにより、鈍感になる性質があっても影響しないことが確かめられた。
3つ目は、基準となる無彩色軸(黒から白までのグレーが並ぶ軸)の定義が抜けていたこと。シュレーディンガーは、ある色から無彩色軸に向かって進むルートを使って色を定義したが、そもそもその無彩色軸が何なのかを決めていなかった。
この問題を解決するために、同じ明るさを持つ色の中で最も黒に近い色をグレーであると明確に定義した。これはリーマン幾何学では定義できず、制約が緩い非リーマン空間であるからこそできた定義である。
これら3つの解決策により、光の物理的な外部データに一切頼らず、どちらの色がより似ているかという情報だけから、色の三属性(色相・彩度・明度)を数学的に定義できることを示した。
Source and Image Credits: Bujack, R., Stark, E.N., Turton, T.L., Miller, J.M. and Rogers, D.H. (2025), The Geometry of Color in the Light of a Non-Riemannian Space. Computer Graphics Forum, 44: e70136. https://doi.org/10.1111/cgf.70136
関連記事



人気記事